存在感のあるボクシィなデザインと高いオフロード性能、そして伝統あるモデル名とともに2019年に復活し、世界中で話題となったプレミアムSUV、ディフェンダー。デビューが発表されるやいなや、あっと言う間にローンチモデルがソールドアウトとなるほどの人気。次なる通常モデル登場でも先行したロングホイールベースの110は相変わらずの人気だが、実は重要なモデルの導入がまだだった。それは、より機動性が高いといわれるショートホイールベースの、90である。初代モデルに近い佇まいが故に、むしろこちらの方がディフェンダーの保守本流ではないか、とも言われているのだが、果たして。
軽快さとレスポンスのよさが瞬時に伝わってくる
困難に立ち向かう人々の思いが込められたマセラティの限定車「レヴァンテ トロフェオ トリコローレ」
イギリスを代表する高級SUVブランドにして、ロイヤルワラント(英国王室御用達)としても知られるランドローバー。そのルーツにあるのが1948年に登場した「シリーズ1」。道なき道を走破する高い悪路走破性とワイルドで個性的なスタイルによって、アメリカのジープとともに4WDの本格的クロスカントリーがいかなる物かを、世に知らしめた存在だ。そのDNAを受け継ぎ、1990年に登場したのが、ディフェンダーである。残念ながら2015年12月、一度はその歴史に幕を引いていた。そして一昨年の暮れ、その車名を引き継いで“新世代ディフェンダー”がデビューし、日本発売も始まった。
当初、日本に上陸してきたのはロングホイールベースの110のガソリンモデルのみ。そこに今回、追加投入された90は、110に比べて全長とホイールベースともに435mm短く、最小回転半径も80センチ縮小されて5.3mという小回り性能を実現している。ちなみに VWの新型ゴルフが5.1mであるから、このボディの大きさとすれば、かなり小回りが効くことはスペックを見ただけでも明らか。
前後長やホイールベースなど、ここまで基本スペックに違いがあると、走破性や乗り心地、機動性はまったくの別物のはず。さらにいえばボディが短くなれば居住性にも当然影響する。ひょっとして似て非なる物、別世界がそこにある、という結果になるかもしれない。
走り出してすぐに感じる軽快感。110よりも140kg以上軽量である事、そして小回りが驚くほど効くことで、この幅広で背の高いボディが、一気に手の内に入った感じになる。ボディの大きさによって駐車場や路上駐車などでは少しばかりナーバスになる場面もあったとしても、この軽快さと扱いやすさがあればストレスが減ることは確実である。これならば街角をこのボクシィにして愛らしい表情のディフェンダーを軽快に走り抜けられそうである。とにかくドライバースシートでドライブしている限りでは110と何も変わらない風景が広がっているのだが、体に伝わってくる走りの感覚はまったく別物である。まぁ、一点だけ注意することと言えば全幅や全高は変わらないので、油断するとそれなりの代償を払うことになるかもしれないので注意したい。
オフロードコースまでのわずかな一般路ですら、良好な感覚を得たわけだが、次に待っていたのはショートホイールベースが、より生きることになる道なき道に突入である。本格的なクロスカントリーと言えばランドローバーのDNAの基本にある、いわば一丁目一番地の性能である。
110でオフロードを思う存分に駆け回った記憶は、まだ体にしっかりと残っていた。そのときは「これでも相当にレベルの高いオフローダー」と感心するほどの性能であった。それがショートホイールベースとなれば、出っ張りなどの乗り越えでも有利になるし、小回りもきくし、ボディ剛性も高く出来る。さらに軽やかに快適にオフロードをクリアできるはずである。
走りや実用性の違いで、個性が明確に分かれる
大きな期待感とともにオフロードに突入すると、こちらも予想を裏切らない走りを見せ、迫り来る悪路を次々にクリアしていく。ぬかるんだ急坂路に、小回り性能が効いてくる曲がりくねった岩場、そして渡河性能90センチを実証するための堀など、事も無く駆け抜けていくのである。
「これこそランドローバー」と大満足である。そして少し前のことになるのだがF1のイギリスグランプリの取材時のことを思いだした。シルバーストーンサーキットまでの道は一般車両でかなりの混雑。我々はオーガナイザーのスタッフが運転する旧型ディフェンダーに乗りながら渋滞に巻き込まれ、間もなく始まるプラクティス開始の時間を気にしていた。するとドライバーは「ここから特別なルートです」といいながら脇道の未舗装路に入っていった。プレスやスタッフ用に準備されていた専用ルートだという。最初は道路だと思っていたが、どうやら牧草地を勝手に走ったことで出来た轍だったのだ。牧草がなぎ倒され、朝露をたっぷりと吸い込んだ路面はかなり滑りやすいし、上り下りが連続する。ここをドライバーは涼しい顔で駆け抜けていくのである。
イギリスの貴族が自分の土地を見て歩くのにディフェンダーは欠かせない存在、という逸話がよく理解できたシーンであった。ランドローバーの最上級モデル、レンジローバーがオフロード界のロールスロイスと呼ばれるのも、こうした基本性能があるからこそである。ディフェンダーを購入した人の90%以上の人が、このような走りなど想定していないだろうし、する気もないと思うが、この走破能力こそが、ディフェンダーをディフェンダーたらしめているのである。
オフロードを抜け出し、泥を洗い流したところで再びオンロードに乗りだした。ここで先程まで感じなかった、90の素顔を見ることになった。ホイールベースの短さによってピッチング(前後の揺れ)が110より顕著に伝わるのである。もし、ゆったりとしたレンジローバー的な乗り心地、より確実な直進安定性が好みということであれば110をお薦めする。
またホイールベースが短くなったことによって、もっとも大きく変わったところは荷室の奥行きが減った点だ。リアシートの居住性は、思ったほど減ってはいないのだが、ファミリーでキャンプなどの荷物を、車内にぎっしりと積載してのアウトドアスタイルを楽しみたい、という人にとっては、ひとつの悩みどころといえる。さらに言えば90と同時に追加となった110のディーゼルモデルもある(後日、掲載予定)。正面から見ればまったく同じ110と90だが、走りの使い勝手も、それぞれに個性が際立つ仕上がりになっていたわけである。
最近、数人のディフェンダーの購入希望者から色々と相談を受けるほど。それだけ関心を集める存在となっている。中には「最近は災害も多いから、これならどこでも走れる」と購入理由を述べた人もいた。正直に言えば、そんな人にはあまりお薦めしたくない。いくら道なき道をクリア出来るとはいえ、災害時は慣れている人ですら予想外のことが起きるので使用を避けて欲しいのだ。ディフェンダーの最大の敵は過信なのだ。
「90」(左)は3ドアのショートホイールベース。5ドアのロングホイールベース「110」と比較すると長さの違いがよく分かる。
インパネを見ている限りは90と110との違いは分からない。
ホールド性や座り心地においてはストレスの少ないシート。
大きめのドアを開け、前席を前に倒してから後席に乗り込む。床が高いので少し苦労する。
広々と言うほどではないが、3人掛けのリアシートが用意される。
最大渡河水深は900mmで、深い水域でもドライバーは自信をもって進むことができる。
最低地上高(エア・サスペンション)は291mm。世界有数のオフロード性能を発揮。
ショートホイールベースにより、走破性はより高くなっている。
オプションのルーフラックやサイドボックスを備えれば、オフローダーとしての雰囲気も。上がる。
リアドアは横に90度開き、背の低い人や女性でも操作しやすい。
5人乗車時のラゲッジルーム容量は297L。ホイールベースやボディが短くなったことで荷室スペースは少なくなった。
リアシートを倒せば荷室の容量は1263Lに拡大。
1997ccの直列4気筒DOHCガソリンターボエンジンは軽快に吹け上がり、300馬力を発生する。
ショートボディ同様、多くのユーザーが待っていた110のディーゼルモデルも追加された。写真は最上級グレード「X」
(価格)
7,580,000円(HSE)
SPECIFICATIONS
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,510×1,995×1,975mm
車重:2,100kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
エンジン:水冷直列4気筒ガソリンターボ 1,997cc
最高出力:221kw(300PS)/5,500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2,000rpm
問い合わせ先:ランドローバーコール 0120-18-5568
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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