この記事をまとめると
■新型ステップワゴンに公道で試乗
【試乗】ステップワゴンの大本命はスパーダのe:HEV! ライバルを上まわる「上質感」が凄い
■デザインは初代ステップワゴンを踏襲したような見た目となり話題となった
■ガソリンモデルとハイブリッドモデルのe:HEVがラインアップされている
初代を彷彿とさせる話題の新型ミニバンを公道で乗ってみた
ホンダ・ステップワゴンが新型へとフルモデルチェンジを受けた。新型は、初代ステップワゴンのデザインをオマージュしながら、新世代となる新しいスタイリングを手に入れた。初代ステップワゴンのデザインといえば、食パンのように四角ばったデザインが特徴的で、スクエアな見切りの良いボディデザインと広い室内とが相まって使い勝手の良いミニバンとして人気を博した。そうした美点を改めて新型で復活させたことで、ステップワゴンの存在感をより高め改めて確立しようというのが狙いだ。
今回のモデルチェンジではふたつのパワートレインが用意されている。1.5リッターのターボチャージャー付き直4ガソリンエンジン+CVTトランスミッションと、2リッター直4ガソリンエンジン+電気モーターのe:HEV(ハイブリッド)で、それぞれにFFモデルと四輪駆動が選択可能だ。
まずは、1.5リッターターボのガソリンFFモデルに試乗してみる。グレード的にはAIRとスパーダの2系統があり、AIRはよりファミリー的思考の強い量販グレードといえる。AIRの内装はダッシュボード上部にファブリックを配し、新型フィットの流れを汲むようなデザインがなされている。サイドウィンドウの下からフロントウィンドウ下部へ水平基調で見切りの良い視界を確保しているのも特徴。また大きな三角窓を採用して斜め前方の視界も確保している。
乗り込む際にフロアの低さに驚かされる。測定したところ、フロア高は地上からおよそ40cmであり、背の高い車に乗り込むというような感覚を持たずに乗り込み着座することができる。またヒップポジションも同様に低くミニバン的な高い視点ではない。むしろ乗用車的な視点の高さといえる。
ダッシュボードセンターには11.4インチの大型モニターが備わり、ドライバー正面には10.2インチのデジタルグラフィックメーターが採用されている。メーターは左右に2つの丸型表示グラフィックが映し出され、その中心部に各インフォテンツが選択表示できる。インフォテンツ機能はステアリングの左右スポークそれぞれに右側メーター左側メーターの表示内容を選択するスイッチが配置されているので扱いやすく、また視認性にも優れている。ダッシュボード上のエアコン操作パネルは左右独立クライメイトで物理スイッチを備え、走行中でも扱いやすい。
シフトレバーはダッシュボードのドライバー側に配置されていて、フロアはフラットなままでドライブスルーとして後席への移動も容易となっている。足もとを見るとフットレストとペダル配置のレイアウトもよく、またステアリングはグリップ形状を着座位置に合わせて最適化するなど、見栄えは今ひとつだが、グリップ感はとてもしっくりとくるものとなっていた。
走り始めると、CVTがあまりエンジンを大きく回転させずに早めにロックアップを行いエンジン回転数としては常に1000~2000回転の間で加減速を行いながらキビキビと走ることができる。シビックのCVTではエンジンを高回転まで回し、ドライバーに運転感覚を感じさせるのを狙っているセッティングがされていたが、それを行うとエンジン音がノイジーとなり、快適性面で好ましくないと感じていた。そういう意味で新型ステップワゴンのCVTは低い回転数で、レスポンスの良いターボがトルクピックアップを良くし、静かに快適で、かつキビキビと走ることができる好印象を受けた。
サスペンションはしなやかな乗り心地となっていて、これは従来モデルよりも15~20%バネレートを下げたことが影響している。バネレートを下げることによってサスペンションストロークが増え、ボディへの入力や、ストローク変化のジオメトリー変化を正確にするために、ストラットタワー砲筒の剛性を高めるなど、シャシー側のチューニングも行っている。バネレートが下がっているとはいえコーナーで車体が大きくロールしてしまうようなこともない。これは重心の低さが生かされていることが大きく、ライントレース性なども適切で安心感があり四輪の接地性が高く感じられる乗り味だった。
高い次元にあるモデルだが改良の余地ありか
次に、スパーダのe:HEVに乗り換える。スパーダは内装がブラックに統一されていて、乗り込んだ瞬間からスポーツティな印象を受ける。A、Bピラーカバーや、ルーフライナーなども黒に統一されていて引き締まった印象だ。もともとミニバンは室内の広さがあるので、こうしたブラックの内装材を多用しても狭さを感じることはない。
e:HEVはスタートストップボタンを押すとシステムがスタンバイし、Readyの表示がメーター上に現れる。もっとも異なっているのはシフトセレクターで、ガソリンが従来のシフトレバー方式であったのに対しe:HEVはボタンスイッチに置き換えられている。上からP(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、Bというスイッチ配列で、これをプッシュすれば、瞬時に切り替えられる。
e:HEVの走り始めは常にEVモードとなる。またバッテリーが充分に充電されていれば、EVモードは70km/h以上の速度レンジまで維持されるが、アクセルの踏み増しや加速要求、あるいはバッテリー充電状況などによりエンジンが適時始動する。ただエンジンが始動しても、その駆動力は車輪に伝わることはなく、ハイブリッドモードでは常にモーターが駆動して走行するので、非常にフラットトルクで走りやすい。エンジンと駆動車輪はクラッチで連結されたり切り離されたりするが高速道路の高速域やアクセル開度が深くなったとき以外でクラッチが結合されることはほとんどない。
エンジンの始動はほぼ充電のためのジェネレーターモーターをまわすための稼働であり、そのため市街地でのストップ&ゴーなどではエンジン回転を高める必要は本来ない。ただ、e:HEVでは加速フィールの演出の一端としてエンジン回転をやや高めに回す傾向となり、そのためガソリンエンジン車よりもノイジーに感じてしまう場面もあった。このガソリンエンジンは2リッターのアトキンソンサイクルエンジンで振動はよく抑えられ遮音もなされているが、高回転で高周波の領域になると耳障りなものとなってしまう。
サスペンションはAIRと同様従来モデル比で20%程度フロントサスペンションはスプリングレートが落とされ、ある程度サスペンションストロークを許容したセッティングとなっていて、路面のうねりや段差などをしなやかに吸収するような動きとなっている。
一方でコーナーにおいては、ややステアリングフィールに違和感を覚える場面もあった。電動パワーステアリングのアシストが一定の操舵力を保持しているため、車輪が本来生じているセルフアライメントトルクなどの操舵力変化を相殺してしまっているためだ。キャスター角が少し高くなっているような感触で直進安定性の部分から微操舵を当てたときの姿勢変化にやや違和感を感じるのである。その辺はタイヤサイズの違いによって生じているようだ。
AIRが装着している16インチのタイヤでは、タイヤのサイドウォールがバネ上の変化をある程度吸収し鈍感にしているので、ステアリングにはあまり大きく影響が出てこないのだが、17インチになると、そうした少しの変化が挙動として現れる。それをパワーステアリングがドライバーに感じさせないように相殺しているために不自然さが感じられてしまうのだった。
2列目、3列目に関して言うと、AIRは2列目が3人掛けのベンチシート、スパーダのプレミアムは、2列目が独立したキャプテンシートとなっていた。ここには前席と同様にシートヒーターが装備できることも嬉しい。ただ残念ながら8人乗りのベンチシートや、最後列3列目のシートにはシートヒーターが備わらないので、とくに冬場の室内温度バランスは前後で差が生じてしまいそうだ。
またスクエアデザインとなったことで風切り音の侵入が少し気になる。とくにフロントウインドウの上部辺りに空気の剥離層が存在するようで、そこで発生する風切り音が耳障りとなってしまうのである。逆にリヤシートまわりやフロアからの遮音は今回レベルアップが施されていて、従来モデル以上の静粛性を保っているため風切り音だけがより大きく聞こえてしまうという結果を生んでいる。
今回2、3列目のシートにも着座してみたが、2列目、3列目となるにしたがって約30mm~40mmヒップポジションが高まり、最後列に座っていても前方の見晴らしが良く、クルマ酔いしにくいデザインになったという。しかし実際にはヒップポジションを高くすると、結果として頭の位置も上がってしまうので、ロールセンターからの位置が高くなり、コーナーやS字カーブなどで左右に振られると頭部が大きくゆすられるためクルマ酔いしやすいとも言えそうだ。
静的な視界だけではなくと動的な特性においてもバランスを取ってクルマ作りをする必要があると言えるだろう。
今回、東京都内を中心に首都高速などを走り、市街地ユースとして走行してみたが、燃費としてはガソリンの1.5リッターターボが約15.2km/L、ハイブリッドのe:HEVモデルは約19.1km/Lという燃費だった。ただ、7人あるいは8人乗りモデルを1人で乗車しているので、より多人数が乗車すれば、フィーリングも燃費も異なった結果が出てくるかもしれない。
ミニバン人気は高く、競争率も激しいマーケットであり、競合するライバルにあるトヨタのノア/ヴォクシーや、日産のe-POWERを搭載したセレナなどライバルも多い。そんななかで新型ステップワゴンがいかなる支持をユーザーから受けるのか、今後の動向に注視していきたい。
残念なのは、今のホンダ車には従来のホンダ車ファンが期待する、見て、乗った瞬間にワクワクを感じるようなクルマ作りがされていないというところだ。基本的には非常にまったりとして落ち着きのあるいいクルマなのだが、逆に言えば個性に乏しく走る喜びを感じられないのだ。そこが、ドライバーズカーとして積極的にステップワゴンを勧める気にはなれない理由となってしまいそうだ。
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