10月8~9日にベルギーのスパ・フランコルシャンで争われた2022年WorldRX世界ラリークロス選手権第6-7戦は、引き続きのダブルヘッダーを“絶対王者”ヨハン・クリストファーソン(KMS/Volkswagen RX1e)が制し、今季7戦で勝利数を『6』まで伸ばす快進撃を継続。前人未到、自身5度目のワールドチャンピオン獲得に向け、さらに足場を固める週末となった。
前戦ポルトガルはモンタリグレで開催された第5戦で、宿敵ティミー・ハンセン(ハンセン・ワールドRXチーム/プジョー208 RX1e)を撃墜し10秒のタイム加算ペナルティを受けた絶対王者は、その影響によりコンストラクション・イクイップメント・ディーラーチーム(CEディーラーチーム)から参戦のニクラス・グロンホルム(PWR RX1e)に『今季唯一の勝利』を奪われる展開となった。
元F1王者バトンがデビュー。NitroRX第3戦は開幕勝者ラーソンを降し、初代王者パストラーナが勝利
それでもベルギーの週末を前にしたクリストファーソンは、父トミーの運営するファミリーチーム、クリストファーソン・モータースポーツ(KMS)の状態に関し「どうやらアキレス腱(弱点)を持っていないようだ」と、チャンピオンにのみ許される余裕の言葉を残した。
「僕らはノルウェーのような深い轍から、ラトビアのターマックまで、ハイグリップとローグリップ、乾いた路面と濡れた路面でレースを戦って来た。ポルトガルでも砂利の多いグラベル路だったが、そこでも遅かったわけじゃない。どうやらアキレス腱はない……と言えるかもね」と、電動化時代初年度を分析するクリストファーソン。
「ここスパでは最初のターンが少し危険だ。アウト側はグリップがなくデンジャーだし、イン側にはコンクリートの壁がある。すでに多くのポイントを持っているし、今週はリスクを取る立場にない。クルマはうまく機能しているし、2018年や2020年と同じ感覚で、必要なラップでもう少しプッシュできる瞬間もある。必要なときにスピードを与える余裕が“少しある”と感じているよ」
その4冠王者の父であり、KMSの代表を務めるトミー・クリストファーソンは「ヨハンこそ、チームのアンカーマンだ」と、全車一斉にフルBEVとなった横並びのシーズンスタートでも、息子のパフォーマンスに全幅の信頼を寄せる。
「我々は皆、彼に何ができるかを知っているが、彼の高い基準から見ても、今のヨハンは新しいレベルの成熟度に達していると思う。彼はクルマを作るプロセスに深く関わっており、他のドライバーのメンターとしての役割も果たしてきたんだ」と続けたトミー代表。
「コミュニケーションはチームの大きな部分を占めており、彼は情報や経験を他のメンバーと共有するのが得意だ。そのおかげでオーレ・クリスチャン(・ベイビー)とグスタフ(・ベリストローム)は大きく成長することができたよ」
■日曜のヒート1では右リヤのパンクに見舞われ、タイヤが外れるアクシデントも
その言葉を体現するかのように、土曜の第6戦からKMS勢が躍動し、オーレ・クリスチャンこそ車両トラブルにより開幕からのファイナル進出と連続表彰台記録が途絶えたものの、スーパーポール・シュートアウトで最速を記録したチャンピオンは、その後のセミファイナルでは“抑え目”のペースでファイナルの4番グリッドを確保。
スタート以降はグロンホルムとケビン・ハンセン(ハンセン・ワールドRXチーム/プジョー208 RX1e)がポジションを争うのに乗じて2番手へ上がると、名物ラディヨンのヘアピン突入で首位ティミーをロックオン。プジョーのテールを突かれスピンを喫した2019年王者は、後続のグロンホルムとクラッシュを喫する憂き目に。
そのまま2番手浮上のケビンに対し5秒近いリードを構築したクリストファーソンが勝利を挙げ、3位に滑り込んだベリストロームが、ルーキーイヤーに世界選手権での初表彰台を獲得した。
「今日も高値で始まり、高値で終わったね。でもその内容はかなりトリッキーで、ヒート1ではベストなスタートを切ることができず、そこからは終始、後方集団で戦うことになった。ラップタイムも非常にタイトだったし、ジョーカー戦略で差をつけるのに充分なペースがなかった」と明かしたクリストファーソン。
「ティミーには申し訳ない。彼は決勝で勝者の立場にあったが、ヘアピンに差し掛かると後ろから“列車”が来て、彼がスピンすることになった。少しほろ苦いけれど、そこで『彼の日ではなく、僕の日』であることが判明した。そして何より、グスタフが世界選手権キャリアの早い段階で、表彰台を獲得できたことをうれしく思う。彼に心からおめでとうを言いたい」
明けた日曜の第7戦もティミーを0.1秒差で降してスーパーポールを制したチャンピオンは、続くヒート1で右リヤのパンクに見舞われる。煙が噴き出し、マシンの損傷状態が次第に悪化し続けるなか、最終ラップでタイヤが完全に外れ、ドアを吹き飛ばしながらもフィニッシュラインへ。
このパフォーマンスで観客を沸かせたクリストファーソンは、伝統の“フォルクスワーゲン・ディーラーチーム・バウハウス”のエントリー名を掲げたKMSクルーの迅速な修復作業で戦線復帰すると、この日はセミファイナルを制して決勝最前列を獲得し、グロンホルムとベリストロームを従え週末連勝を飾ってみせた。
「適切なタイミングで適切な場所にいる必要があったが、ありがたいことに今日の僕らがそうだった」とWorldRX通算33勝目を記録したクリストファーソン。
「チームは出走のたびに完璧なクルマを用意してくれる。今日はターン1の危険な争いにも巻き込まれず、パンクにだけ注意してクルージングできた。連日グスタフとポディウムを分け合えたのも、とてもうれしかったよ」
これでランキング首位のアドバンテージを41ポイントにまで伸ばした“絶対王者”クリストファーソン。引き続きダブルヘッダーとなるWorldRXの第8-9戦は、10月29~30日にスペインを代表するF1トラック、バルセロナで争われる。
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