8月4日に富士スピードウェイで行われたスーパーGT第5戦決勝。その第3スティント終盤、目前のMOTUL AUTECH GT-Rはセーフティカー解除と同時にピットレーンへと飛び込んでいった。視界が開けたRAYBRIG NSX-GTの山本尚貴はラスト1周をフルプッシュ。セオリーどおりの戦術でピットに滑り込むと、ここでチームは勝負に出た。給油時間を4~5秒削り取り、確実にMOTUL GT-Rを逆転できる位置へとジェンソン・バトンを送り出したのだ。
路気温の低下とともにハードコンパウンドのタイヤとマシンが良いマッチングを見せ始め、ペースも良好。目論見どおりバトンはMOTUL GT-Rの7秒程度前方で周回を重ねることに成功する。だが、2番手の座はまだ盤石ではなかった。最後のピットストップではその分、多めの給油が必要となるからだ。7秒のマージンは、“嵐の前の静けさ”。ホンダとニッサンのエースカーによる2位争いは、最終スティントで決することとなった。
145周目、ふたたびMOTUL GT-Rの1周後にピット作業を行なって山本がコースに復帰すると、果たして削り取った給油時間分の“おつり”は、しっかりと返ってきた。アウトラップを終えるとマージンは2秒、そして翌周にはロニー・クインタレッリが背後にピタリとつく。
クインタレッリは「いつでもいってやるぞ」という気配を醸し出し、赤いマシンを左右に揺さぶっている。山本の履くミディアムタイヤはウォームアップこそ良かったものの、内圧設定がやや低く、それが上がりきる前に最大の勝負どころがやってきてしまった形だ。再逆転の予感が漂う。
だが、ピットには山本からじつに頼もしい無線が入る。
「相手の心が折れるまでプッシュする」
虚勢を張って出た言葉ではない。ミラーに映るMOTUL GT-Rのアグレッシブな動きを目にして、コクピットの山本は緊張や不安ではなく、逆に冷静さを覚えていたという。
「あれだけタイヤ使っていたら、向こうが先に落ちるなと思いました。最初だけ抑えどころを抑えれば守れるな、と。ロニーさんが暴れてくれたので、僕は冷静でいられた」
その後クインタレッリは力尽き、レイブリックは10番グリッドから2位表彰台をもぎとった。
この第5戦を迎えるまで、昨年王者はわずかに入賞1回。前戦タイの同士討ち含め、結果の残らないレースが続いていた。今回の富士でも走り出しは好調とは言えなかったが、チームは決勝ペースには自信があったという。14番手に終わった公式練習直後のサーキットサファリで、決勝向けのセットアップがある程度見えていたというのだ。
そのためか、予選Q1落ちを喫したあともチームにはどこか余裕と自信が感じられた。予選一発よりも、決勝重視。長距離レースを熟知した戦い方で、タイトル争いになんとか踏みとどまった、とも言える。
「(ゼッケン)1番に恥じない戦い方ができたと思う」と山本。ランキングトップとは31点差。“ホンダ勢最上位”のゼッケン1にとって、正念場はまだまだ続く。
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