この記事をまとめると
■パリのガソリン代はリッター約226円と高いうえに売り切れが続出している
世界に名だたる「ドライバー殺し」の難道路! 初心者は一生抜け出せない無限地獄「凱旋門」のランナバウトとは
■4年ぶりのパリサロンが開催され、燃料不足がEVのいいキャンペーンとなっていた
■燃料不足には、脱化石燃料による中東の影響力低下を目論むフランス政府の思惑も見え隠れする
大行列ができるパリのガソリンスタンド
ウクライナ危機の余波で、穀物や天然ガス、その他一時原料の流通が難しくなって、世界的に深刻な品不足やインフレが起きているのはご存じのとおり。フランスではパリ・モーターショーを前に、ガソリンスタンドに長蛇の列ができる燃料不足が勃発したという報道は、すでに目にしているだろう。ちなみにパリのガソリンは、SP95(日本のレギュラー相当)がリッター1.537ユーロ(147円換算で約226円)と、日本よりも圧倒的に高かった。
1週間ほど経っても燃料不足が完全に収束する気配はない。なぜなら「トゥーサンのバカンス」という、英米圏でいうところのハロウィンに相当する秋の休暇が重なり、当然旅行に出る人とクルマが多く、需要逼迫期にあたったことが理由のひとつ。車内で聴くラジオのニュースでは「全国で地域差はあれど、本日はイル・ドゥ・フランス地方(パリ周辺)でも、10軒スタンドがあれば9軒は大丈夫でしょう」なんて予報が出ていた割には、それを聞きつけて皆が給油に走ったのか、バカンス初日はむしろ4軒中3軒がダメという始末だった。
もうひとつは、今回の燃料不足は物資が滞ったというより石油大手の精製所がストライキに入ったことが原因で起きている国内の供給不足。インフレーションによる物価の値上がりに伴って石油大手の売上が伸びている分、労働者側の給与も補うように上げよ、という要求が起きた。そしてこのストライキが長引いている、という状況だ。
ただし、今回の燃料不足騒ぎとパリ・モーターショーの様子を見ていると、どうもこのストライキによる燃料不足は、長引くべくして長引いているようなところがある。
2022年開催の今回は2018年以来だから、じつに4年ぶりとなったモンディアル・ドゥ・パリことパリ・モーターショー。初日に何だかんだといってフランス大統領がお出ましになるのは恒例になっている。今回は現職のエマニュエル・マクロン大統領が来場するにあたって、すべてのブースからプレスもメーカーの出展者も「一時的に退場せよ」というお達しが下った。退場して通路で待たされる時間の長いこと。ルノー・ブースで大統領を迎えて説明をするはずの、ジャン・ドミニク・スナール会長とルカ・デ・メオ社長も、ときどき視線を交わして苦笑いしながら、手持ち無沙汰そうに待っていた。かれこれ30分以上は経っただろうか。エマニュエル・マクロン大統領が現れた。
マクロン大統領はクルマ好きかクルマ嫌いかという、どちらかに偏った評判がある訳ではないが、大統領専用車やパレード時のチョイスで明確なメッセージを多々送るタイプではある。たとえば7月14日の革命記念日パレードでは、オープンの大統領専用車よりは、あえて軍用車に乗ってみたり。ようは贔屓のメーカーがあるように思われるのを避けつつ、自分の乗るクルマが注目される=政治的アピールとして利用できることは十分に承知しているようだ。
モーターショーも大いに政治に活用するマクロン大統領
今回のモンディアル・ドゥ・パリでは、政府が株主として15%を握るルノー、そしてフランスでもうひとつの有力グループであるステランティスのブースだけでなく、2時間近くをかけて大小、スタートアップを含めて色々なブースを視察していた。
というのも、フランスには2018年より政府担当者と自動車コンストラクターやモビリティ関連企業が水平的に集って、将来的な方向性を話し合うコンソーシアムとして「プラットフォルム・オートモビル(PFA)」という枠組がある。当然、ルノーもステランティスもメンバーに名を連ね、議長はサルコジ前々大統領の時代に、ロレアルのマーケティング部長から政治家に転身して教育相を務めたリュック・シャテルが就任している。政府と民間を繋ぐのに適任の人物、という訳だ。
正直、自工会の焼き直し的組織ぐらいに思っていたが、どうやら機能しているようで、パリ・モーターショーの各ブースでは経済産業担当大臣らに先んじて、リュック・シャテルが大統領の向かう先々をリードしていた。
それにしても、マクロン大統領のお気に入りはピュアEVのようだ。ルノーのルカ・デ・メオ会長にコンセプトカー「4EVER」トロフィーを紹介されている間、目を輝かせっ放しだった。逆にステランティス・グループのブースでは、今回のショーの市販モデルとしては来場者人気ナンバーワンだったプジョー408 PHEVの前では、どこか思案顔。
マクロン大統領を前に、ステランティスのカルロス・タヴァレス会長はスピーチで、同グループがプジョー e308や同SW、e408などを投入し、EVを既存の6モデルから12モデルに増やしてフランスの生産拠点で生産していることを強調。続いてマイクをとったマクロン大統領は、2030年までにフランス国内でEV生産200万台という目標に向かって、順調に推移していると力強く演説した。中間目標として彼は、2023年の自身の任期終了までに、フランス国内のEV生産100万台という目標を掲げている。加えて翌日、経済紙でのインタビューで、彼はさらにEV補助金を6000ユーロから7000ユーロに増やす方針を明らかにした。
つまり、今回の燃料不足騒ぎで、労使間の妥協や調整がはっきりと入らないような長引き方と、既存のEVではなくメイド・イン・フランスEVの檜舞台となったパリ・モーターショーの不思議な盛り上がり方は、おそらくリンクしている。いわば燃料不足がEVのキャンペーンになっているという、マクロン劇場だったのだ。
とどのつまり、フランス政府の究極の目標は、脱CO2そのものを欧州や世界で先駆けること以上に、脱化石燃料、つまり長期的に外交面で産油国の優位的立場やオイルマネーの影響を排除していく、そんな現実路線が垣間見える。
ただし、どこのメーカーの関係者に聞いても、ICEを一朝一夕に止めることは現実的ではなく、ユーロ7以降のルール策定次第という。EVは無論、カーボンニュートラル化の先兵ではある。EVの割合が増える分だけ、CO2相殺によるゼロ・バランス化に近づきやすくなる、という考え方だ。ガソリンスタンドの前にできた行列の横を、フィアット500eやテスラのモデルSが通り抜けていくのは、なかなか皮肉なシーンだった。
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みんなのコメント
人口あたりで割ったら日本の12倍以上。この時点で比較対象が根本的に違うんですわ。
脱炭素原理主義国会だし。