現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 70年前の人気「パワーアップ」チューニング モーリス・マイナー(1) 足りないのは馬力だけ

ここから本文です

70年前の人気「パワーアップ」チューニング モーリス・マイナー(1) 足りないのは馬力だけ

掲載
70年前の人気「パワーアップ」チューニング モーリス・マイナー(1) 足りないのは馬力だけ

優秀なシャシーへ不釣り合いなサイドバルブ

偉大なアレック・イシゴニス氏の設計による、新しいモーリス・マイナーが発表されたのは1948年。戦後の英国に大きな話題を巻き起こした一方、手放しでは喜べない人も少なくなかった。

【画像】足りないのは馬力だけ モーリス・マイナー 後継のミニ 同時期のオースチンとフォードも 全120枚

アメリカ車を彷彿とさせる、スタイリッシュなモノコックボディに、独立懸架式のトーションバー・フロントサスペンション。その頃としては際立って正確な、ラック&ピニオン式のステアリングラックも組まれていた。

ところが、ずんぐりと膨らんだボンネットの下に載っていたのは、戦前のモーリス・エイトでも活躍した、918ccのサイドバルブ4気筒エンジン。フォード・エイト用エンジンの技術をベースにしたユニットで、基本設計は1930年代と古かった。

最高出力は27.5psと、実際のところ充分ではなかった。優れた操縦性を叶えるシャシーを備えていながら、旧式のエンジンが足を引っ張ったといえる。

イシゴニスは、新しいマイナーに水平対向4気筒エンジンを積みたいと考えていた。実験用のプロトタイプ・ユニットが作られたものの、1947年にモーリス・モーターズの経営陣は開発を中止していた。

モーリス・オックスフォード用として、ひと回り大きい水平対向エンジンも、開発段階にあった。しかし、これも同時に計画は撤回された。

低いギアを選んでいる限り、意外に運転しやすい

サイドバルブ・エンジンを、オーバーヘッド・カム化する計画も存在した。エンジン部門は、970ccのモーリス・エイト用ユニットをベースに研究を進めていた。

傘下にあったウーズレーが有する、33psのプッシュロッド・ユニットも考えられた。しかし、その頃の工場の設備では大量生産が難しかった。オーバーヘッド・バルブのウーズレー・ユニットも登場するが、それはマイナーの発売後のことだった。

検討期間は長かったものの答えは出ず、マイナー自体の生産にも影響が及ぼうとしていた。最終的に、既存ユニットの継投が決まった。

今回お集まりいただいた3台のモーリス・マイナーの内、テリー・ブリセット氏が所有するブラックの1950年式を運転すると、そんなイザコザの結果を感じ取れる。当時の姿のまま運転できる喜びと同時に、挑戦的な体験であることもわかる。

2016年に納屋へ放置された状態で発見したブリセットは、丁寧にレストアし、コンクール・デレガンスで優勝する水準へ復元した。好調なエンジンは程よく洗練され、低回転域でのトルクが太い。低いギアを選んでいる限り、意外なほど運転しやすい。

2速、3速とシフトアップしても、小気味よく走る様子が楽しい。キノコのようなグリップの付いた長いシフトレバーは、カチッと音を鳴らしながら、滑らかに次のゲートへ固定される。

急いでレバーを動かすと、ギアの回転を調整するシンクロメッシュを痛めてしまう。落ち着いて、ニュートラルで1度レバーを止めると良い。

すぐに限界が見える 運転席は居心地が良い

モーリス・エイトより車重は軽くないが、ブリセットのマイナーは、坂道でも粘り強く走る。平坦な道なら、悪くない質感で80km/hの巡航をこなせる。非力なサイドバルブ・エンジンでも、優れた空力特性がプラスに働いているのだろう。

とはいえ、すぐに限界が見えてしまう。緩やかな登り坂程度なら、4速のまま、アクセルペダルを踏み込むことで乗り切れる。しかし、倒し切った状態でも、それ以上加速することはない。

勾配のきつい坂では、パワー不足が露呈する。限られた馬力を巧みに引き出さない限り、勢いは鈍っていく一方。トルク自体は太いから、低い速度のまま、ゆっくり登ることはできるけれど。

「進む先を予想し、丘へ差し掛かる前に右足へ力を入れる必要があります。どんな場所だとしても、急ぐことは考えない方が良いでしょうね」。ブリセットが、優しい表情で説明する。

それを理解し、自らの運転を調整すれば、幸福感が湧いてくる。クラッチペダルは扱いやすく、油圧ブレーキは制動力に不足ない。姿勢制御は引き締まり、カーブでもボディはさほど傾かない。ステアリングの反応はとても正確だ。

飲み屋にあるスツールのように、座面の位置が高いバケットシートへ身を委ね、細身のステアリングホイールを回す。イシゴニスが美しくデザインしたダッシュボードへ、時折目を配る。マイナーの運転席は、居心地が悪くない。足りないのは、馬力だけだ。

オーバーヘッドバルブ化で38psへ向上

レーシングドライバーだった、ヴィック・デリントン氏は、そんな課題を一時的に解決した。「シルバートップ」と呼ばれたキットには、ツイン・キャブレター化する部品と、デリントン・エグゾーストと名付けられた高効率マフラーが含まれた。

しかし、モーリス・モーターズがブリティッシュ・モーター・コーポレーションとして再統合された2年後、1954年に究極のチューニング・キットが登場する。オーバーヘッドバルブの、アルミニウム製シリンダーヘッドだ。

これは、レーシングカーの開発を専門とする、アルタ・カー&エンジニアリング社を立ち上げた、ジェフリー・テイラー氏が考案したアイテム。1956年に同社は廃業してしまうが、1960年代半ばまで、デリントン社が提供を続けた。

オーバーヘッドバルブ化により、標準のキャブレターとエグゾーストのままでも、最高出力は38psへ向上するとデリントン社は主張。最高速度は99km/hから120km/hへ上昇し、48-80km/hの中間加速は、31.6秒から17.2秒へ短縮できるとされた。

キットの価格は、1954年で43.1ポンド。1961年の時点では52.1ポンドで、工賃は含まれておらず、安い改造とはいえなかった。

また、ツインSUキャブレター仕様へアップグレードも可能。追加で31.5ポンド必要だったが、デリントン・エグゾーストを組むことで、44psを得られた。アルタ社のレース用排気マニフォールドを装備すれば、49psへ引き上げることもできた。

この続きは、モーリス・マイナー チューニング(2)にて。

こんな記事も読まれています

極上「4.0L V8」へ最大限に浸れる! メルセデスAMG GT 63へ試乗 ダイレクトでドラマチック
極上「4.0L V8」へ最大限に浸れる! メルセデスAMG GT 63へ試乗 ダイレクトでドラマチック
AUTOCAR JAPAN
誇り高き「重厚感」 アストン マーティン・ヴィラージュ 6.3(2) 魅力の中心がV8エンジン 好調のトリガー
誇り高き「重厚感」 アストン マーティン・ヴィラージュ 6.3(2) 魅力の中心がV8エンジン 好調のトリガー
AUTOCAR JAPAN
「ゴージャス」と評したい乗り心地 新型 シトロエンC3へ試乗 市街地ではキビキビ!な1.0Lターボ
「ゴージャス」と評したい乗り心地 新型 シトロエンC3へ試乗 市街地ではキビキビ!な1.0Lターボ
AUTOCAR JAPAN
アストン マーティン・ヴィラージュ 6.3(1) V8エンジンは「グループCカー」 未来を背負ったクーペ
アストン マーティン・ヴィラージュ 6.3(1) V8エンジンは「グループCカー」 未来を背負ったクーペ
AUTOCAR JAPAN
四輪駆動の極上クーペ誕生! 最新 BMW M4 CSへ試乗 直6はCSLと同じ550ps 充足感が半端ない
四輪駆動の極上クーペ誕生! 最新 BMW M4 CSへ試乗 直6はCSLと同じ550ps 充足感が半端ない
AUTOCAR JAPAN
W12との別れは「初体験」との出会い ベントレー・コンチネンタルGT プラグインHVの試作車へ試乗
W12との別れは「初体験」との出会い ベントレー・コンチネンタルGT プラグインHVの試作車へ試乗
AUTOCAR JAPAN
Pゼロでさらに速く機敏に! マクラーレン・アルトゥーラ 長期テスト(4) じっとり濡れたカーペット
Pゼロでさらに速く機敏に! マクラーレン・アルトゥーラ 長期テスト(4) じっとり濡れたカーペット
AUTOCAR JAPAN
東欧の「ポルシェ」 刺激的だった廉価ブランドのRR シュコダ130/フェイバリット/120 ラピッド(1)
東欧の「ポルシェ」 刺激的だった廉価ブランドのRR シュコダ130/フェイバリット/120 ラピッド(1)
AUTOCAR JAPAN
巨大グループ期待の星! 新型プジョーE-3008へ試乗 ダッシュ力競争から1歩引いた214ps
巨大グループ期待の星! 新型プジョーE-3008へ試乗 ダッシュ力競争から1歩引いた214ps
AUTOCAR JAPAN
フォルクスワーゲン・ティグアン 詳細データテスト おすすめは実用グレード デジタル化はほどほどに
フォルクスワーゲン・ティグアン 詳細データテスト おすすめは実用グレード デジタル化はほどほどに
AUTOCAR JAPAN
2024年版 「本格派」の高性能オフロード車 10選 道を選ばない欧州 "最強" SUV
2024年版 「本格派」の高性能オフロード車 10選 道を選ばない欧州 "最強" SUV
AUTOCAR JAPAN
夢のように走った「RR」 3台のワークス・シュコダ 130/フェイバリット/120 ラピッド(2) クラス優勝の常連
夢のように走った「RR」 3台のワークス・シュコダ 130/フェイバリット/120 ラピッド(2) クラス優勝の常連
AUTOCAR JAPAN
KTM新型250デューク試乗「 OHCの新エンジンは2スト的な特性!? 車体はよりコンパクト&フレンドリーに」
KTM新型250デューク試乗「 OHCの新エンジンは2スト的な特性!? 車体はよりコンパクト&フレンドリーに」
モーサイ
【青山にレーシングカー出現】 アストン マーティン・ヴァンテージGT3 GTを戦う現役マシン
【青山にレーシングカー出現】 アストン マーティン・ヴァンテージGT3 GTを戦う現役マシン
AUTOCAR JAPAN
「小さな高級車」がスポーティに進化 BMW新型1シリーズ、マイルドハイブリッド導入 10月発売へ
「小さな高級車」がスポーティに進化 BMW新型1シリーズ、マイルドハイブリッド導入 10月発売へ
AUTOCAR JAPAN
【今年後半には詳細公開】 キャデラック「オプティック」発表 「リリック」に次ぐ更なるEV
【今年後半には詳細公開】 キャデラック「オプティック」発表 「リリック」に次ぐ更なるEV
AUTOCAR JAPAN
マツダコネクトも搭載! 街乗りも不満なし! NR-Aはロードスターのベストグレードじゃね?
マツダコネクトも搭載! 街乗りも不満なし! NR-Aはロードスターのベストグレードじゃね?
ベストカーWeb
EVはオフロードで重すぎ? 水素の可能性を信じるイネオス グレナディア・ハイドロジェンの試作車へ試乗
EVはオフロードで重すぎ? 水素の可能性を信じるイネオス グレナディア・ハイドロジェンの試作車へ試乗
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

57.8146.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

9.5145.8万円

中古車を検索
ツインの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

57.8146.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

9.5145.8万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村