優秀なシャシーへ不釣り合いなサイドバルブ
偉大なアレック・イシゴニス氏の設計による、新しいモーリス・マイナーが発表されたのは1948年。戦後の英国に大きな話題を巻き起こした一方、手放しでは喜べない人も少なくなかった。
【画像】足りないのは馬力だけ モーリス・マイナー 後継のミニ 同時期のオースチンとフォードも 全120枚
アメリカ車を彷彿とさせる、スタイリッシュなモノコックボディに、独立懸架式のトーションバー・フロントサスペンション。その頃としては際立って正確な、ラック&ピニオン式のステアリングラックも組まれていた。
ところが、ずんぐりと膨らんだボンネットの下に載っていたのは、戦前のモーリス・エイトでも活躍した、918ccのサイドバルブ4気筒エンジン。フォード・エイト用エンジンの技術をベースにしたユニットで、基本設計は1930年代と古かった。
最高出力は27.5psと、実際のところ充分ではなかった。優れた操縦性を叶えるシャシーを備えていながら、旧式のエンジンが足を引っ張ったといえる。
イシゴニスは、新しいマイナーに水平対向4気筒エンジンを積みたいと考えていた。実験用のプロトタイプ・ユニットが作られたものの、1947年にモーリス・モーターズの経営陣は開発を中止していた。
モーリス・オックスフォード用として、ひと回り大きい水平対向エンジンも、開発段階にあった。しかし、これも同時に計画は撤回された。
低いギアを選んでいる限り、意外に運転しやすい
サイドバルブ・エンジンを、オーバーヘッド・カム化する計画も存在した。エンジン部門は、970ccのモーリス・エイト用ユニットをベースに研究を進めていた。
傘下にあったウーズレーが有する、33psのプッシュロッド・ユニットも考えられた。しかし、その頃の工場の設備では大量生産が難しかった。オーバーヘッド・バルブのウーズレー・ユニットも登場するが、それはマイナーの発売後のことだった。
検討期間は長かったものの答えは出ず、マイナー自体の生産にも影響が及ぼうとしていた。最終的に、既存ユニットの継投が決まった。
今回お集まりいただいた3台のモーリス・マイナーの内、テリー・ブリセット氏が所有するブラックの1950年式を運転すると、そんなイザコザの結果を感じ取れる。当時の姿のまま運転できる喜びと同時に、挑戦的な体験であることもわかる。
2016年に納屋へ放置された状態で発見したブリセットは、丁寧にレストアし、コンクール・デレガンスで優勝する水準へ復元した。好調なエンジンは程よく洗練され、低回転域でのトルクが太い。低いギアを選んでいる限り、意外なほど運転しやすい。
2速、3速とシフトアップしても、小気味よく走る様子が楽しい。キノコのようなグリップの付いた長いシフトレバーは、カチッと音を鳴らしながら、滑らかに次のゲートへ固定される。
急いでレバーを動かすと、ギアの回転を調整するシンクロメッシュを痛めてしまう。落ち着いて、ニュートラルで1度レバーを止めると良い。
すぐに限界が見える 運転席は居心地が良い
モーリス・エイトより車重は軽くないが、ブリセットのマイナーは、坂道でも粘り強く走る。平坦な道なら、悪くない質感で80km/hの巡航をこなせる。非力なサイドバルブ・エンジンでも、優れた空力特性がプラスに働いているのだろう。
とはいえ、すぐに限界が見えてしまう。緩やかな登り坂程度なら、4速のまま、アクセルペダルを踏み込むことで乗り切れる。しかし、倒し切った状態でも、それ以上加速することはない。
勾配のきつい坂では、パワー不足が露呈する。限られた馬力を巧みに引き出さない限り、勢いは鈍っていく一方。トルク自体は太いから、低い速度のまま、ゆっくり登ることはできるけれど。
「進む先を予想し、丘へ差し掛かる前に右足へ力を入れる必要があります。どんな場所だとしても、急ぐことは考えない方が良いでしょうね」。ブリセットが、優しい表情で説明する。
それを理解し、自らの運転を調整すれば、幸福感が湧いてくる。クラッチペダルは扱いやすく、油圧ブレーキは制動力に不足ない。姿勢制御は引き締まり、カーブでもボディはさほど傾かない。ステアリングの反応はとても正確だ。
飲み屋にあるスツールのように、座面の位置が高いバケットシートへ身を委ね、細身のステアリングホイールを回す。イシゴニスが美しくデザインしたダッシュボードへ、時折目を配る。マイナーの運転席は、居心地が悪くない。足りないのは、馬力だけだ。
オーバーヘッドバルブ化で38psへ向上
レーシングドライバーだった、ヴィック・デリントン氏は、そんな課題を一時的に解決した。「シルバートップ」と呼ばれたキットには、ツイン・キャブレター化する部品と、デリントン・エグゾーストと名付けられた高効率マフラーが含まれた。
しかし、モーリス・モーターズがブリティッシュ・モーター・コーポレーションとして再統合された2年後、1954年に究極のチューニング・キットが登場する。オーバーヘッドバルブの、アルミニウム製シリンダーヘッドだ。
これは、レーシングカーの開発を専門とする、アルタ・カー&エンジニアリング社を立ち上げた、ジェフリー・テイラー氏が考案したアイテム。1956年に同社は廃業してしまうが、1960年代半ばまで、デリントン社が提供を続けた。
オーバーヘッドバルブ化により、標準のキャブレターとエグゾーストのままでも、最高出力は38psへ向上するとデリントン社は主張。最高速度は99km/hから120km/hへ上昇し、48-80km/hの中間加速は、31.6秒から17.2秒へ短縮できるとされた。
キットの価格は、1954年で43.1ポンド。1961年の時点では52.1ポンドで、工賃は含まれておらず、安い改造とはいえなかった。
また、ツインSUキャブレター仕様へアップグレードも可能。追加で31.5ポンド必要だったが、デリントン・エグゾーストを組むことで、44psを得られた。アルタ社のレース用排気マニフォールドを装備すれば、49psへ引き上げることもできた。
この続きは、モーリス・マイナー チューニング(2)にて。
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