ホンダは2050年を目標に、ホンダ車が関係する交通死亡事故をゼロにすることを目標に、さまざまな安全技術を研究している。
そのひとつの回答が、レジェンドに搭載した世界初のレベル3自動運転だったのだろうが、レジェンドの生産終了により、一旦レベル3自動運転車は姿を消すこととなる。
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もちろん、ホンダはレベル3実用化の開発研究のための知見を積み重ねており、さらに何歩も進んだ安全技術の実用化に向けた先行開発を進めている。
どうしてもハードに目が向きがちだが、「人間はミスをする」を前提とした研究は、MRIによる脳の認知機能の研究など、もはや「自動車会社なの?」といった領域に及び、AI、ディープラーニングなどへと進む奥深いものなのだった。
自動車評論家 鈴木直也氏がレポート!
※本稿は2021年12月のものです
文/鈴木直也、写真/HONDA、ベストカー編集部 ほか、撮影/西尾タクト、本田技研工業
初出:『ベストカー』2022年1月10日号
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■ホンダが取り組む安全な交通社会への過程
●歩行者の不測の動きを予測する
前方のセンシング状態を可視化したもの。歩行者や自転車の動きを顔の向きや身体の角度、さらには骨格レベルの動きを見ることで、その後の進行方向を予測する。車道へ出てくる可能性が高いと判断した場合、ドライバーに警報する
ホンダが目標とする安全技術のゴールは2050年に死亡事故ゼロ。どう考えたって遠大なテーマなんだけど、本気でそれに挑戦すべく頑張ってる。
F1から撤退するとか内燃機関やめるとか、クルマ好きにとって寂しいニュースが続いたホンダだが、持ち前のチャレンジ精神はこっちにシフトしたと考えれば納得。
F1エンジン開発の中枢でもある栃木県の『HRDさくら』研究施設では、興味深い先行研究が行われていたのだった。
では『HRDさくら』でエンジニアの皆さんが何をいちばん掘り下げているのかといえば、それは「人間の研究」だ。
クルマ側が事故防止機能をいくら高めても、その効果には限界がある。
ホンダも中間目標として「2030年に2020年レベルから死亡事故半減」を掲げているが、これは来年市販されるホンダセンシング360など、ADAS(先進運転支援システム)機能の向上でここまで行けるというひとつのメド。
問題はその先で、2050年に死亡事故ゼロを目指すなら、歩行者や自転車などあらゆる交通参加者を包含する事故防止システムが不可欠。
人間の油断やウッカリをカバーするために技術は何をすればいいのか。それが最大のテーマとなってくる。
これがまぁ、予想以上に難しい。
どういう時に人間は判断ミスを犯すのか。それを解明すべく、ホンダは運転中の人間のアタマをMRIで観察する実験を行なっているそうだが、こういう基礎研究から始めざるをえないのが人間研究の難しさ。
目標は人間の思考や動きを予測してヒューマンエラーをカバーするようなAIの実現なんだけど、すごい壮大なテーマに挑んでることにまずはびっくりだ。
一方、アタマの中はわからなくても、身体の動きでわかることもある。
そういうテーマの研究も行われていて、カメラでとらえた人間の画像にリアルタイムで骨格や顔の向きなどの処理を行い、どっちを向いてどう動きそうか、スマホなどに注意を奪われていないか、ふらついて不測の動きをしないかなどを、一瞬のうちに判断するというデモが面白かった。
歩行者をカメラで認識するだけなら、いまや普通に実用化されている。
しかし、問題はその歩行者がどう動こうとしているか。ここがわからないとリスクを正確に評価できない。
●スマホに警報を出す
歩きスマホを逆手にとって、クルマに気づかず車道に出てくる歩行者のスマホに接近警報を発するシステムも研究中。もちろん歩きスマホを助長するものではない
最終的にはその情報をAIが「危険度」というパラメータに置き換えて事故防止対応をするわけだが、危険を早期に察知できれば余裕を持って対処することができるわけだ。
この技術は「見えている危険」に対処するものだが、「見えていない危険」にはネットワークが重要な武器になる。
天頂衛星みちびきなどのGNSS情報でお互いの位置を高精度に測位し、死角から接近するクルマの存在を危険とした場合には、歩行者のスマホに注意喚起のアラートを出す。
交通参加者すべてにネットワーク端末が行き渡ればこういう機能が珍しくなくなるだろうし、その先には「統合リスク判断アルゴリズム」によって、個別のクルマや歩行者に「リスク注意」のメッセージを送ることも不可能ではない。そんな未来図が、現実に近づいているんだそうだ。
こういう「近未来安全技術」の一端を垣間見ることができたのは、ぼくのような技術オタクにとってめちゃめちゃ面白くエキサイティングな体験だった。
■現実的な安全技術も進行
一方、これらの先行研究とは別に、間もなく市販車に導入される安全技術が、先日発表されたホンダセンシング360だ。
こちらは実際に運転して効果、機能を体験するデモが実施されたが、前方長距離用を1つ、側方用を4つ、ミリ波レーダーを追加した効果が大きいと実感した。
追従走行していた前方車両が車線変更で消え、その先に停止車両がいたというシチュエーションでも、停止車両を認識するタイムラグが極小。さらに、丁字路でのクロストラフィックアラートでは、80km/hという高速で接近する車両を検知しアラートを出してくれる。
そのほか、路外逸脱の抑制アシストが35km/hという低速域まで効くとか、2輪車や歩行者の検知精度が高まっているとか、ステアリング保持センサーが静電容量感知型にグレードアップしていたりとか、細かい機能&精度向上が積み上げられている。
唯一残念なのは、渋滞時のハンズオフ機能がないこと。せっかくレジェンドでレベル3自動運転車市販化で世界初のタイトルを獲ったんだから、その成果を広く普及させて欲しかったなぁ。
【番外コラム】ホンダだからできる!! 二輪車とも共存安全思想
二輪車用エアバッグ。衝突時に展開することでライダーが前方に投げ出されるのを抑止する
四輪車だけではなく二輪車メーカーとしても世界に名をとどろかせるホンダだから、「死亡事故ゼロ」に向けてバイク側の安全性向上にも積極的に取り組んでいる。写真のほかにも、二輪の安全技術を各種研究中だ。
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みんなのコメント
安全装置は邪魔になるでしょうし
そういう技術が進むと
運転技術が劣化すると言う人もいます。
が、実際最新の車に乗ると
人の運転技術を上回るものを実感しますし
年齢を重ねるごとに安全装置は必要になると感じています。