現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 10年ぶりの新型車の実力とは? 日産キックス試乗記

ここから本文です

10年ぶりの新型車の実力とは? 日産キックス試乗記

掲載 更新 5
10年ぶりの新型車の実力とは? 日産キックス試乗記

日産のコンパクトSUV「キックス」に、田中誠司が公道で試乗した。その印象はいかに?

ものすごいテック・カンパニー

SUVでもハイブリッドでもポルシェはポルシェ──カイエンEハイブリッド試乗記

日産自動車がいま大変なことになっているのはご承知のとおりである。過剰な生産規模を削減するため巨額をリストラに費やした。株価の時価総額はスズキやスバルにも抜かれ、国内5位に沈む。

それでも日産の研究開発費は、2019年度で売上高の4.8%におよぶ5500億円に達する。日本のすべての企業でトヨタ、ホンダに続く第3位の規模であり、投資比率でいえばトヨタ(3.7%)より高い。ものすごいテック・カンパニーなのである。

Sho Tamura JRPA-1601そのうち相当なリソースが割かれているはずなのが、ハイブリッド・システム「e-POWER」と、自動運転支援システムの「プロパイロット」である。日本市場では10年ぶりの新型車となるコンパクトSUV「キックス」には、この双方が標準搭載されるということで注目を集めている。

GQ Carsではすでにマーケティング上の狙いとテストコースでの試乗を通じてこの新型車について紹介しているので、本稿ではe-POWERの特徴と、一般路上で試した印象に絞って紹介する。

Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601e-POWERの仕組み

そもそもe-POWERとはなんぞや、ということについておさらいしておくと、ガソリンエンジンで作ったエネルギーにより電気モーターを駆動する「シリーズ・ハイブリッド」方式というのが定義で、ガソリンを入れておけば充電の必要はなく、また外部から充電すべきほどバッテリー容量も大きくない。

いわゆる純粋な電気自動車と同様、モーターだけで駆動するため加速がスムーズかつ、低速から力強いことと、純粋な電気自動車に比べればバッテリーが小さいので軽量でコストも安いのがこの方式の特徴だ。

Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601すでに「ノート」と「セレナ」で市販されているこのe-POWER、今回のキックス日本導入に向けて、バッテリーとモーターの間で電力をやりとりするインバーターの改良やプログラムの修正、エンジン自体の出力アップなどにより、最高出力が129ps(95kW)と19%向上し、最大トルクが260Nmと2%高められたのがニュースだ。

さらに、これまでのe-POWERと比較した場合、車速が低い状況ではできるだけ発電機であるエンジンが掛からないようにし、エンジン回転数も低く絞る制御に変更することで、静粛性も高められたという。

Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601260Nmの魅力

キックスで日産本社地下の駐車場から滑り出す。ふわりとしたトルクとともに地上へのスロープを登る途中で発電機が始動したが、その振動は抑えられており自然なフィーリングだ。パワーステアリングの感触も、エコカーらしさ丸出しではなくちゃんと手応えがある。

129psと聴くと心細いものの、純電気駆動車の場合は低速からトルクがあるので3割増くらいに計算したほうがいい。1350kgと絶対的に軽い車体に対し、260Nmという最大トルクがほぼいつでも得られるのはなかなか悪くなく、タウンスピードならドライバーの思うように走らせることができる。市街地での乗り心地は17インチ・タイヤの装着から想像したよりソフトで、後輪が若干跳ねる挙動に目をつむれば概ね快適だ。発電機が放つノイズは、充電量が減って回転数が最も高まった状況でも、特にストレスには感じなかった。

Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601レーン幅に余裕のある幹線道路で、プロパイロットの機能を立ち上げる。いかにも音波が出てきそうなステアリングホイール上のボタンを押してSETのボタンで速度を設定、OKボタンで“ハンドル支援設定”を確認するだけでいい。前走車のいる状況ではとりわけ正確にラインをトレースしてくれるし、渋滞で停止したとしても完全に自動的に再スタートしてくれる。

電気自動車はエンジンで駆動するクルマに比べて出力の立ち上がりが早いので、たとえばETCゲートをくぐって急に速度が落ちた状況でも、キックスは声を荒らげず前走車にすみやかに追従してくれる。ぼくは普段からACC(アダプティブ クルーズ コントロール)をよく使うが、ディーゼルエンジンを載せた3年落ちのジャガーでは、速度がなかなか回復しなくてもどかしい。

Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601プロパイロット標準装備は、日産では「スカイライン」(プロパイロット2.0)に続く2車種目ということだ。これからの若い人は、こんなふうに静かに快適に自動運転支援を駆使して、遠くまで行くことを苦にもしなくなるのだろう。

キックスの荷室はなかなか広く、後席からの見晴らしもとてもいいので会話は弾むのではないか。

Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601気になる操縦安定性

そんな便利で快適、いま風のルックスも備えたキックスだが、万一の際の操縦安定性はどうだろうか。常識的な速度の範囲内で、しかしちょっと意地悪なレーンチェンジを試してみると、軽くクイックでスポーティさを感じさせるステアリングに、比較的ソフトに仕立てた足まわりが追いついていないように思った。

一発目の操舵に対してはっきりとアンダーステアを生じ、戻すときにはかなり上体が不安定になる。最後は“スタビリティ・コントロール・システム”が介入して姿勢を収めてくれるとはいえ、雨や路面の悪いコンディションではちょっと安心できないな……と、思った。

Sho Tamura JRPA-1601急ハンドルなんて切らなければいい、と、思うかもしれないが、道の脇から突然大柄な動物が飛び出して……というシーンは、ドライバーを選ぶことなく発生するものだ。高速道路でペースを少し速めてみたシーンでも、直進性や乗り心地からよい印象は受けなかった。

昨今のSUV全盛には、ブレーキやパワーユニットの制御を駆使してスピンや転覆を回避するスタビリティ・コントロール・システムの進化により、万一のときの安全性が担保されるようになったから、という背景があるように思う。

Sho Tamura JRPA-1601昔だったら、量産コンパクトカーの足まわりをベースに背を高くするのはリスクが大きかったし、それでも安定性を確保するには足まわりを不快なほど硬めなければならなかった。クロスオーバーというジャンルが成立し始めたのは自動車技術の進化のおかげで、おなじ日産の例でいえば、2007年登場の「デュアリス」はヨーロッパ生まれで引き締まった足まわりを備え、優れたバランスを示していたものだ。

コンパクトSUVの世界がよりいろどりゆたかになっていくのは好ましいことではあるが、300万円の予算があるとすれば輸入車も含め、いろいろな選択肢がある。流行にとらわれず広い視野でクルマ選びをしてみるのも楽しいのではないか、とぼくは提案したい。

文・田中誠司 写真・田村翔

こんな記事も読まれています

フェルスタッペン予選5番手「ベガス用リヤウイングを作らないという方針がハンデに」タイトルには有利な位置を確保
フェルスタッペン予選5番手「ベガス用リヤウイングを作らないという方針がハンデに」タイトルには有利な位置を確保
AUTOSPORT web
佐藤万璃音、2025年もユナイテッド・オートスポーツからWEC世界耐久選手権にフル参戦
佐藤万璃音、2025年もユナイテッド・オートスポーツからWEC世界耐久選手権にフル参戦
AUTOSPORT web
やっぱたまらんなV型エンジン!! [スカイラインNISMO]とレクサス[IS500]の[パンチ力]にひれ伏した件
やっぱたまらんなV型エンジン!! [スカイラインNISMO]とレクサス[IS500]の[パンチ力]にひれ伏した件
ベストカーWeb
【角田裕毅F1第22戦展望】ファクトリーと現場の連携で活きたレッドブル製リヤサスペンション。改善の継続が7番手に繋がる
【角田裕毅F1第22戦展望】ファクトリーと現場の連携で活きたレッドブル製リヤサスペンション。改善の継続が7番手に繋がる
AUTOSPORT web
エバンスとの実質的な一騎打ちもタナクはトップ譲らず。ヌービルは7番手に挽回【ラリージャパン デイ3】
エバンスとの実質的な一騎打ちもタナクはトップ譲らず。ヌービルは7番手に挽回【ラリージャパン デイ3】
AUTOSPORT web
メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
AUTOCAR JAPAN
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
AUTOSPORT web
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
ベストカーWeb
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
Auto Messe Web
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
AUTOSPORT web
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
AUTOSPORT web
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
AUTOSPORT web
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
AUTOSPORT web
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
AUTOCAR JAPAN
オーテック&ニスモ車が大集合!「AOG湘南里帰りミーティング2024」で見た「超レア車5台」と「中古車で狙いたいクルマ5台」を紹介します
オーテック&ニスモ車が大集合!「AOG湘南里帰りミーティング2024」で見た「超レア車5台」と「中古車で狙いたいクルマ5台」を紹介します
Auto Messe Web
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 後編
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 後編
AUTOCAR JAPAN
ラリージャパン3日目、SS12がキャンセル…一般車両が検問を突破しコース内へ進入、実行委員会は理解呼びかけると共に被害届を提出予定
ラリージャパン3日目、SS12がキャンセル…一般車両が検問を突破しコース内へ進入、実行委員会は理解呼びかけると共に被害届を提出予定
レスポンス
【F1第22戦予選の要点】苦戦予想を覆すアタック。ラッセルとガスリーが見せた2つのサプライズ
【F1第22戦予選の要点】苦戦予想を覆すアタック。ラッセルとガスリーが見せた2つのサプライズ
AUTOSPORT web

みんなのコメント

5件
  • この十年なにやってんだと言いたくなるな。 儲けた金をポケットに入れる技術を磨いてたんだろうな。
  • 4年経過した新興国車の改良車

    新型ではない

※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

140.5159.4万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

16.0358.0万円

中古車を検索
キックスの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

140.5159.4万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

16.0358.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村