日産のコンパクトSUV「キックス」に、田中誠司が公道で試乗した。その印象はいかに?
ものすごいテック・カンパニー
SUVでもハイブリッドでもポルシェはポルシェ──カイエンEハイブリッド試乗記
日産自動車がいま大変なことになっているのはご承知のとおりである。過剰な生産規模を削減するため巨額をリストラに費やした。株価の時価総額はスズキやスバルにも抜かれ、国内5位に沈む。
それでも日産の研究開発費は、2019年度で売上高の4.8%におよぶ5500億円に達する。日本のすべての企業でトヨタ、ホンダに続く第3位の規模であり、投資比率でいえばトヨタ(3.7%)より高い。ものすごいテック・カンパニーなのである。
Sho Tamura JRPA-1601そのうち相当なリソースが割かれているはずなのが、ハイブリッド・システム「e-POWER」と、自動運転支援システムの「プロパイロット」である。日本市場では10年ぶりの新型車となるコンパクトSUV「キックス」には、この双方が標準搭載されるということで注目を集めている。
GQ Carsではすでにマーケティング上の狙いとテストコースでの試乗を通じてこの新型車について紹介しているので、本稿ではe-POWERの特徴と、一般路上で試した印象に絞って紹介する。
Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601e-POWERの仕組み
そもそもe-POWERとはなんぞや、ということについておさらいしておくと、ガソリンエンジンで作ったエネルギーにより電気モーターを駆動する「シリーズ・ハイブリッド」方式というのが定義で、ガソリンを入れておけば充電の必要はなく、また外部から充電すべきほどバッテリー容量も大きくない。
いわゆる純粋な電気自動車と同様、モーターだけで駆動するため加速がスムーズかつ、低速から力強いことと、純粋な電気自動車に比べればバッテリーが小さいので軽量でコストも安いのがこの方式の特徴だ。
Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601すでに「ノート」と「セレナ」で市販されているこのe-POWER、今回のキックス日本導入に向けて、バッテリーとモーターの間で電力をやりとりするインバーターの改良やプログラムの修正、エンジン自体の出力アップなどにより、最高出力が129ps(95kW)と19%向上し、最大トルクが260Nmと2%高められたのがニュースだ。
さらに、これまでのe-POWERと比較した場合、車速が低い状況ではできるだけ発電機であるエンジンが掛からないようにし、エンジン回転数も低く絞る制御に変更することで、静粛性も高められたという。
Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601260Nmの魅力
キックスで日産本社地下の駐車場から滑り出す。ふわりとしたトルクとともに地上へのスロープを登る途中で発電機が始動したが、その振動は抑えられており自然なフィーリングだ。パワーステアリングの感触も、エコカーらしさ丸出しではなくちゃんと手応えがある。
129psと聴くと心細いものの、純電気駆動車の場合は低速からトルクがあるので3割増くらいに計算したほうがいい。1350kgと絶対的に軽い車体に対し、260Nmという最大トルクがほぼいつでも得られるのはなかなか悪くなく、タウンスピードならドライバーの思うように走らせることができる。市街地での乗り心地は17インチ・タイヤの装着から想像したよりソフトで、後輪が若干跳ねる挙動に目をつむれば概ね快適だ。発電機が放つノイズは、充電量が減って回転数が最も高まった状況でも、特にストレスには感じなかった。
Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601レーン幅に余裕のある幹線道路で、プロパイロットの機能を立ち上げる。いかにも音波が出てきそうなステアリングホイール上のボタンを押してSETのボタンで速度を設定、OKボタンで“ハンドル支援設定”を確認するだけでいい。前走車のいる状況ではとりわけ正確にラインをトレースしてくれるし、渋滞で停止したとしても完全に自動的に再スタートしてくれる。
電気自動車はエンジンで駆動するクルマに比べて出力の立ち上がりが早いので、たとえばETCゲートをくぐって急に速度が落ちた状況でも、キックスは声を荒らげず前走車にすみやかに追従してくれる。ぼくは普段からACC(アダプティブ クルーズ コントロール)をよく使うが、ディーゼルエンジンを載せた3年落ちのジャガーでは、速度がなかなか回復しなくてもどかしい。
Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601プロパイロット標準装備は、日産では「スカイライン」(プロパイロット2.0)に続く2車種目ということだ。これからの若い人は、こんなふうに静かに快適に自動運転支援を駆使して、遠くまで行くことを苦にもしなくなるのだろう。
キックスの荷室はなかなか広く、後席からの見晴らしもとてもいいので会話は弾むのではないか。
Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601Sho Tamura JRPA-1601気になる操縦安定性
そんな便利で快適、いま風のルックスも備えたキックスだが、万一の際の操縦安定性はどうだろうか。常識的な速度の範囲内で、しかしちょっと意地悪なレーンチェンジを試してみると、軽くクイックでスポーティさを感じさせるステアリングに、比較的ソフトに仕立てた足まわりが追いついていないように思った。
一発目の操舵に対してはっきりとアンダーステアを生じ、戻すときにはかなり上体が不安定になる。最後は“スタビリティ・コントロール・システム”が介入して姿勢を収めてくれるとはいえ、雨や路面の悪いコンディションではちょっと安心できないな……と、思った。
Sho Tamura JRPA-1601急ハンドルなんて切らなければいい、と、思うかもしれないが、道の脇から突然大柄な動物が飛び出して……というシーンは、ドライバーを選ぶことなく発生するものだ。高速道路でペースを少し速めてみたシーンでも、直進性や乗り心地からよい印象は受けなかった。
昨今のSUV全盛には、ブレーキやパワーユニットの制御を駆使してスピンや転覆を回避するスタビリティ・コントロール・システムの進化により、万一のときの安全性が担保されるようになったから、という背景があるように思う。
Sho Tamura JRPA-1601昔だったら、量産コンパクトカーの足まわりをベースに背を高くするのはリスクが大きかったし、それでも安定性を確保するには足まわりを不快なほど硬めなければならなかった。クロスオーバーというジャンルが成立し始めたのは自動車技術の進化のおかげで、おなじ日産の例でいえば、2007年登場の「デュアリス」はヨーロッパ生まれで引き締まった足まわりを備え、優れたバランスを示していたものだ。
コンパクトSUVの世界がよりいろどりゆたかになっていくのは好ましいことではあるが、300万円の予算があるとすれば輸入車も含め、いろいろな選択肢がある。流行にとらわれず広い視野でクルマ選びをしてみるのも楽しいのではないか、とぼくは提案したい。
文・田中誠司 写真・田村翔
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