電動化の大きな柱となるのは、BEV(バッテリー電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド)。ここではシステムが一新された改良型PHEV「 XC60リチャージ プラグインハイブリッド T6 AWD インスクリプション 」の実力を、ライバルと目されるモデル(レクサス NX 450h+ 、メルセデス・ベンツ GLC 、BMW X3 xDrive30e )と比較しながら検証してみよう。ポイントは、EV航続距離の大幅拡大と力強さ、スムーズさだ。(Motor Magazine 2022年6月号より)
美点をしっかりと継承したXCのエクステリアデザイン
プレミアムクロスオーバーSUVの源流は、1998年に登場したレクサス「RX」だ。高級セダンの快適性を備えたSUVというこれまでにないコンセプトが市場で高く評価された。さらに2014年にはRXの弟分となる「NX」が登場。現在はこの2車種が、レクサスの販売台数を牽引する重要な存在となっている。
さらに使いやすく力強いボルボの改良型PHEVたち。V60/XC60/XC90で、その進化を体感する【特集:ボルボのBEVとPHEV(4)】
その人気ぶりを見て、他のプレミアムブランドからも同様のモデルが続々と登場した。このカテゴリーにはメルセデス・ベンツ、BMW、アウディといったジャーマンスリーとともに、スウェーデンのボルボもこの早いタイミングで参入。フラッグシップのXC90は2002年に、弟分のXC60は2008年に登場。中でもXC60は累計販売台数がボルボモデルの中でトップとなるエース的存在だ。
実は私は、以前からレクサスの本命ライバルはジャーマンスリーではなくてボルボだと感じていた。その理由をいくつか挙げると「威張らないプレミアム」「上品な味付けだが奥深い走り」「自国をアピールするデザイン」「電動化パワートレーンが主軸」など、ブランドのコンセプトが良く似ているからだ。
そこでこのパートでは、ともに2代目となるボルボXC60とレクサスNXを中心に、多角度から比べてみたいと思う。
まずはエクステリアだ。XC60はXC90から採用された次世代ボルボデザインを採用。ロングノーズ、ショートオーバーハング、スウェーデンを強調したデザインだが、エレガントなだけでなくスポーティな要素も備える。
主張を強めたフロントグリル/ヘッドランプ、削り出したような表現のフェンダー/ドア、短い全長なども相まって、基本的には力強く筋肉質なイメージだ。
不思議なのは、初代XC60とはプロポーションもパッケージも全然違うが、どことなく共通性を感じる点だ。つまり、初代の良い所はしっかりと受け継がれているということだ。ちなみにボディサイズは全長4710mm×全幅1900mm×全高1660mm、ホイールベース2865mmで、実は初代から大きくは変わっていない。
Tazunaコンセプトなど新たなデザインモチーフを採用
最新型のNXは新世代レクサス第一弾モデルということで、ボディに溶け込んだスピンドルグリル、面で構成される造形など、新たなデザインモチーフが随所に用いられている。
こちらは、実際に新旧で見比べるとデザインは別物だが、それでいながらも「あっ、NXだ!」と感じさせる要素はリアに力感を持たせたサイドのシルエットで、ここは初代のモチーフが唯一活かされている部分だ。ボディサイズは全長4660mm×全幅1865mm×全高1660mm、ホイールベース2690mmと先代より若干拡大されたがグローバルのマーケットでは平均的サイズだ。
どちらも主張は少なめながらも、ひと目でそのブランドだとわかる個性を備えたデザインだ。NXはスポーティなイメージが強いのとデビューしたばかりなので新鮮。XC60はデビューから4年を経過しているが、フレッシュさに円熟味が増した印象を受けた。
インテリアはどうか?XC60の縦型タッチスクリーンを中心に置く水平基調インパネは、先に登場したXC90とレイアウトは共通だが、コクピット感を高めた造形。このデザインは次世代ボルボデザインを表現したコンセプトカー三部作の1台「コンセプトクーペ」が忠実に再現されたもので、独特な風合いのドリフトウッドパネルや「隠れスウェーデン国旗モチーフ」など、細部まで抜かりなしだ。
NXはコンセプトカーのLFZで考案された「TAZUNAコクピット」を具体化している。視線を自然に誘うメーターフードやドライバー側に寄せてコクピット感を強調した14インチ大画面タッチスクリーンが特徴。煩雑だった各種操作スイッチも整えられ、使い勝手も引き上げられている。
どちらも物理的スイッチを極力なくし、多くの機能をタッチパネルで操作するインターフェイスという部分は共通だが、洗練度はシンプルなXC60に軍配が上がる。
居住性は2台ともに大人がゆったり過ごせる空間を備える。ラゲッジルームも十分以上のスペースで、パッケージに関しては甲乙つけ難いといえる。あと個人的には、XC60にオプション設定されるインテグレーテッドチャイルドクッションは便利な機能だと思った。
システム出力350psの迫力。さらにジェントルさも備える
パワートレーンはどちらも複数用意するが、今回はプラグインハイブリッド同士での比較。どちらも後輪は独立したリアモーターで駆動する4WDDだが、システム構成は異なる。XC60は2L直列4気筒ターボ(253ps/350Nm)+フロントモーター(52kW/165Nm)+リアモーター(107kW/309Nm)、バッテリー容量18.8kWhでEV航続距離は81km。
NXは自然吸気の2.5L直列4気筒(185ps/228Nm)+フロントモーター(134kW/270Nm)+リアモーター(40kW/121Nm)で、バッテリー容量は18.1kWh、EV航続距離は88kmとなる。
EV走行時にXC60はリアモーター、NXはフロントモーターで駆動を行う。スペックの違いはあるものの、どちらも2トン強の車両重量を軽々と走らせる力強さや瞬発力を備える。ただ、エンジンが始動しハイブリッドモードになると、それぞれの個性が顔を出す。XC60はモーターアシストというよりまるで電動ターボのようなフィーリングで、滑らかなトルクの盛り上がりやエンジンの伸び感などが印象的。ハイスペックながら上質でジェントルな特性だ。
そしてドライブモードをダイナミックに切り替えれば、システム出力350PSの本領が顔を出す。力強さだけでなくレスポンスも鋭くなり、まさにスポーツユニットと言っていいレベルだ。雑味がない心地よいエンジンサウンドも気持ちを上げる要素のひとつだ。
対するNXも負けていない。システム出力は309psとXC60に一歩譲るものの、車重が170kg軽いことでフル加速の速さは同等のレベル。ただ、THS IIに特有の「加速とエンジン回転数のズレ」そして濁音成分が多いサウンドなどは、もう少しリファインが必要だろう。パフォーマンスに関しては甲乙つけ難いものの、フィーリングや洗練度を含めると、XCに軍配が上がるだろう。
優しい乗り味は共通するものの、洗練された感覚はXC60が一枚上手
フットワークはどうか?基本となるプラットフォームはXC60は新世代ボルボでお馴染みの「SPA」、NXはTNGAの「GA-K」をベースにレクサス独自のボディ骨格や補強をプラス。サスペンション形式はXC60が前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンクでどちらもエアサスペンション仕様。NXは前:ストラット/後:ダブルウイッシュボーンで、コンベンショナルなダンパー仕様となっている。
XC60の走りは決して機敏ではないが、だからといってダルな印象は受けないという絶妙なバランスを見せるもの。バッテリー搭載による低重心化と前後重量配分の適正化がハンドリングにとっても良い方向に働き、コーナリング時のロールは控えめで4つのタイヤを上手に使いながら実に綺麗に曲がる。落ち着きのある操舵フィール、しっとりと動くサスペンションも相まって、よりジェントルでより大人な乗り味である。
従来モデルは街乗り領域での乗り心地にやや粗さがあり、エアサスペンションの恩恵が少なかった。だが最新モデルではそのあたりもほぼ解消されて、すべての乗員に優しい乗り心地を備えている。
NXの走りは、直感的にスポーティ。ただ、従来モデルと違うのは見せかけではなく「本質の」という枕詞が付く。基本性能の底上げは数十m走ればわかるレベルで、ハンドル切り出し時のスッキリ感、リニアな応答性、サスペンションのスムーズな動きなどはXC60といい勝負。こちらもバッテリー搭載による低重心化と前後重量配分の適正化がいい方向に働いており、バネ上の振動の収まりの良さやシットリとした乗り心地はXCよりレベルは上だと思う。
ただ決定的な違いはシートで、従来のモデルと比べると掛け心地は格段に進化しているものの、サポート性がいまひとつで身体を支え辛い。ここは、道を選ばずに身体を優しく支えるXC60が一枚上手と言ったところだ。
充実のセーフティシステム。XC60の入念な仕上げに納得
先進安全装備に関してはどうか?従来はボルボの圧勝と言えたが、NXに採用の第3世代「レクサス セーフティシステム+」のレベルアップは著しく、とくに運転支援システムに関しては甲乙つけ難いレベルと言えるだろう。
逆にこれまでNXの圧勝だったインフォテインメント機能は、XC60のGoogle搭載で形勢逆転。NXも負けじと新世代クラウドナビを採用するが、拡張性という意味ではGoogleアプリが活用できるXC60が上。ちなみにどちらも音声検索が素晴らしく、目的地検索などで画面タッチをする必要がないレベルである。
最後は価格だ。XC60は669~934万円、NXは455~738万円となっている。試乗車同士で比べるとXC60(リチャージ プラグインハイブリッド T6 AWD インスクリプション)が934万円、NX(450h+ “バージョンL”)が714万円と200万円近い差だ。価格と性能の関係だけを見るとNXのコストパフォーマンスの高さが光るが、XC60の各部の仕立ての良さなどを見てしまうと「これはそうだよね!」と感じるのも事実だ。
ジャーマンスリーの中では、メルセデス・ベンツ GLC 350e 4マティック/BMW X3 xDrive 30e MスポーツもPHEV(プラグインハイブリッド)のクロスオーバーSUVという意味ではライバル関係となる。どちらも2L直列4気筒ターボ+モーターの4WDでシステム構成は近い。ただ駆動用バッテリーの総電力量はひとまわり小さく、EV航続距離は50km未満なので、商品性にはかなりの差がある。
PHEVの電動車として、そして1台のクルマとして、XC60とNXが抜きん出た存在であることはおわかりいただけるだろう。(文:山本シンヤ/写真:永元秀和、井上雅行)
ボルボ XC60リチャージ プラグインハイブリッド T6 AWD インスクリプション主要諸元
●全長×全幅×全高:4710×1900×1660mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:2180
●エンジン:直4DOHCターボ+2モーター
●総排気量:1968cc
●最高出力:186kW(253ps)/5500rpm
●最大トルク:350Nm/2500-5000rpm
●モーター最高出力:前52kW/3000-4500rpm、後107kW/3280-15900rpm
●モーター最大トルク:前165Nm/0-3000rpm、後309Nm/0-3280rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・71L
●WLTCモード燃費:14.3km/L
●タイヤサイズ:255/40R20
●車両価格(税込):934万円
レクサス NX 450h+ “バージョンL” 主要諸元
●全長×全幅×全高:4660×1865×1660mm
●ホイールベース:2690mm
●車両重量:2010
●エンジン:直4DOHC+2モーター
●総排気量:2487cc
●最高出力:136W(185ps)/6000rpm
●最大トルク:228Nm/3600-3700rpm
●モーター最高出力:前134kW、後40kW
●モーター最大トルク:前270Nm、後121Nm
●トランスミッション:電気式無段変速機
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・55L
●WLTCモード燃費:19.8km/L
●タイヤサイズ:235/50R20
●車両価格(税込):714万円
メルセデス・ベンツ GLC 350e 4マティック主要諸元
●全長×全幅×全高:4670×1890×1645mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:2070
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1991cc
●最高出力:155kW(211ps)/5500rpm
●最大トルク:350Nm/1200-4000rpm
●モーター最高出力:90kW
●モーター最大トルク:440Nm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・50L
●WLTCモード燃費:12.4km/L
●タイヤサイズ:235/55R19
●車両価格(税込):931万円
BMW X3 xDrive30e Mスポーツ主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1890×1675mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:2070
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1998cc
●最高出力:135kW(184ps)/5000rpm
●最大トルク:300Nm/1350-4000rpm
●モーター最高出力:80kW
●モーター最大トルク:265Nm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・50L
●WLTCモード燃費:11.8km/L
●タイヤサイズ:245/50R19
●車両価格(税込):860万円
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女性にも人気なのも納得。
いやいやいや。