4月の新車販売台数で初の1位となったトヨタルーミー、そして6位のトヨタライズ。ご存じの方も多いと思うが、この2車種はダイハツが主導で企画開発し、生産もダイハツが行う、ダイハツからのOEM供給車である。
ちなみに、4月1位1万1108台を売り上げたルーミーのダイハツ版はトールで36位792台、6位6343台を販売したライズのダイハツ版ロッキーは24位1610台と、ダイハツトールはトヨタルーミーの1/14、ダイハツロッキーはトヨタライズの1/4。
ルーミー ライズはダイハツ製! 実はトヨタよりクルマ作りが上手? ヒット車連発のダイハツ車の魅力と欠点とは
圧倒的にトヨタ車に比べ、ダイハツ車のほうが少ないが、中身はほぼ同じだ。
もちろん全国に約6000店舗で全店扱いのルーミー、ライズに比べ、トール、ロッキーを販売するダイハツディーラーは全国約790店舗。実にトヨタディーラーはダイハツディーラーの約8倍と圧倒的に販売力の差がある。
さて、よい商品を手頃な価格で販売するという「良品廉価」なクルマ作りが知られているダイハツ。いま、ダイハツ車の魅力と欠点とは何か、探ってみた。
文/渡辺陽一郎
写真/トヨタ、ダイハツ、ベストカーweb編集部
■ダイハツを支える軽商用車
2021年12月にマイナーチェンジを受けて登場したダイハツ ハイゼットトラック(エクストラ)
今は軽自動車の人気が高い。2021年度(2021年4月から2022年3月)に国内で販売された新車の内、軽自動車が37%を占めた。そして軽自動車のトップメーカーがダイハツだ。2021年度には50万6436台の軽自動車が届け出され、2位は47万498台のスズキであった。
ただし軽の乗用車に限ると、ダイハツの届け出台数は34万8154台で、スズキの36万328台よりも少ない。ダイハツで好調に売られるのは軽商用車になり、2021年度には15万8282台を届け出した。
スズキの11万170台に比べると1.4倍に達する。このようにダイハツは、軽商用車の好調に支えられ、軽自動車の販売1位になった。
ダイハツの軽商用車で、特に販売が好調なのは、ハイゼットトラックの7万9692台と、ハイゼットカーゴ(バン)の7万8569台だ。ライバル車のスズキキャリイは4万8175台、エブリイバンは6万519台だから、ダイハツ車の売れ行きが圧倒的に多い。
ダイハツの軽商用車は全般的に設計が新しく、ハイゼットカーゴは2021年12月にフルモデルチェンジを行った。
この時にはアトレーも一新され、従来のワゴン仕様からバン仕様にカテゴリーを変えた。従って現在のアトレーは、ハイゼットカーゴの上級シリーズになる。ハイゼットトラックも、同時にマイナーチェンジを行った。
新開発された機能としては、後輪駆動車用のCVT(無段変速AT)がある。走行状態に応じて最適な変速が無段階で行われ、燃費効率が向上した。従来の4速ATに比べると、変速されるギヤ比も幅広くなるから、登り坂での発進も力強い。
電子制御式4WDも採用され、衝突被害軽減ブレーキも進化した。さらに荷室のデコボコを減らすなど、商用車としての使い勝手も向上している。
ただしダイハツの軽商用車は、ハイゼットとアトレーのフルモデルチェンジで売れ行きを伸ばしたわけではない。2020年度も軽乗用車はスズキが多く、ダイハツはその不振を軽商用車でカバーしていた。
ダイハツの苦悩は、タントの販売不振と、それによってスズキに負けている軽乗用車の売れ行きだ。現行タントは2019年に登場して、2020年にはN-BOXと販売1位を争うハズだった。
ところがタントの売れ行きは、N-BOXの66%にとどまってしまった。スペーシアも抜けず、軽自動車の販売順位は3位だった。2021年も3位で、N-BOXとの差は縮まらない。
ちなみに先代タントは好調だった。発売の翌年となる2014年には、1年限りではあったが、N-BOXや先代アクアを抜いて国内販売の総合1位になった。この年のタントは23万4456台を登録したが、現行型の2020年は12万9680台だ。コロナ禍の影響を受けたとはいえ、2014年の55%では少なすぎる。
■重要な「軽自動車販売1位」の看板
売れ行きが伸び悩むダイハツ タント。「軽自動車販売1位」の看板は重要な営業ツールとなるので、タントの不振は商用車で補うことになる
このようにダイハツの国内販売にとって、一番の問題はタントの不振だ。このマイナスをほかの車種で補わないと、軽自動車の販売1位をスズキに奪われてしまう。
今のダイハツはトヨタの完全子会社だから、小型/普通車の国内販売1位と総合1位はトヨタ、軽自動車の1位はダイハツという位置付けは絶対だ。そこでハイゼットとアトレーに力を注ぐ。
軽自動車の販売1位にこだわる理由について、ダイハツの販売店は次のように述べた。
「軽自動車はボディサイズやエンジン排気量が共通で、全車が日本のお客様を対象に開発されるから、車種ごとの違いが分かりにくい。価格もライバル同士で比べると同等だから、お客様は選択に迷う。この時に販売1位の実績は、強い説得力を発揮する」。
現行タントの売れ行きが伸び悩む理由について、ダイハツの商品企画担当者は「フロントマスクなどボディスタイルの課題ではないか」という。確かに存在感が弱いが、それだけではないだろう。
以前からタントは左側のピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、前後のドアを両方ともに開くと、開口幅がワイドに広がった。子育て世代のユーザーは、雨天などではベビーカーを抱えて乗り込み、子供をチャイルドシートに座らせたり、ベビーカーを畳む操作を車内で行える。
現行型は主力グレードの運転席にも540mmのスライド機能を装着して、助手席から乗り込み、運転席へ移動しやすくなった。実用性の優れた機能で子育て世代を中心に便利に使えるが、実際に活用しないと魅力が分かりにくい。
またタントのライバル車となる現行N-BOXは、内外装の質が高く走りも滑らかで、売れ行きは絶好調だ。スペーシアもSUV風のギアを設定する。このようにライバル車が魅力を高めたから、タントは相対的にインパクト弱く、売れ行きも伸び悩んだ。
その一方で商用車は、ハイゼットトラックの装備や外装色を豊富に用意するなど、以前から乗用車的な特徴を備えてきた。軽商用車の開発は煮詰められ、荷室の面積や容量では差が付きにくいから、ダイハツは付加価値を工夫した。
このあたりがダイハツらしさだ。斬新なコンセプトやデザインで注目を浴びることはないが、地道なクルマ造りで機能を高める。タントの特徴となる車内の移動のしやすさにも、同様のことが当てはまる。
■大きな存在感を示すダイハツOEM
ダイハツ トールのOEMとなるトヨタ ルーミー。「良品廉価」なダイハツ車がトヨタの流通網を手に入れたOEM車は販売ランキングの上位に食い込む
ダイハツは軽自動車以外に、小型車の企画・開発・製造も行う。ダイハツブランドの小型車は、売れ行きが多くないが、トヨタに供給されるOEM車は販売ランキングの上位に食い込む。
特にルーミーは、2022年4月に、小型/普通車の販売1位になった。以前からヤリスの登録台数をヤリス、ヤリスクロス、GRヤリスに分割するとルーミーが1位だったが、2022年4月には、シリーズ全体の台数と比べてもルーミーが上まわった。
ルーミーが人気を得た理由は、タントやN-BOXなど、好調に売られる軽自動車の機能を小型車サイズで忠実に再現したからだ。小型車の個性や付加価値は追わず、単純に軽自動車を拡大したような小型車のスーパーハイトワゴンに造り込んだからヒットした。
そして後席を格納して荷室の床を反転させると、汚れを落としやすいシートが貼られ、自転車を積んだ後の清掃もしやすい。500mlの紙コップが収まるカップホルダーなど、軽自動車に負けない実用性を追求した。
ルーミーは急増する軽自動車のスーパーハイトワゴンに対抗することも考えて、短期間で開発されている。そのために動力性能、走行安定性、乗り心地などに不満があり、入念に試乗したいが、日常的な使い勝手は良好だ。登坂路を走る機会が多いなど「N-BOXやタントの小型車版が欲しい」と考えている人を含めて、好調に売られている。
コンパクトSUVのライズも、ルーミーと同じくダイハツ製のOEM車だ。2021年11月に改良を実施して、ハイブリッドを搭載した。ライズの国内販売総数の半数以上をハイブリッドが占めて、国内で売られるSUVの最多販売車種になった。
ライズは5ナンバーサイズに収まる貴重なSUVで、フロントマスクをはじめとする外観は、ヤリスクロスなどに比べて野性的だ。RAV4やカローラクロスにも少し似ているSUVの典型的なデザインで、全長は4m以下だから運転しやすい。
空間効率も優れ、後席にも大人が座れる広さを確保した。リヤゲートの角度を立てたから、大きな荷物も積みやすい。価格はノーマルエンジンを搭載する2WDの売れ筋グレードが180万~200万円前後に収まり、買い得度も強い。
* * *
以上のようにダイハツは、軽自動車から小型車、商用車からSUVまで、さまざまなカテゴリーに実用的で買い得な商品を投入している。そこに好調に売られるダイハツの秘訣がある。
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