■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
2022年3月末に東京・天王洲アイルの寺田倉庫B&Cホールで開かれた、アルピナの新型「B4」発表イベントには多くのメディアが詰めかけた。「B4」への期待の大きさもあったが、イベント20日前の3月10日にアルピナとBMWから発表されたニュースの続報を関係者の誰もが知りたかったという理由もあった。
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ニュースというのは、2社にとっての大ニュースで、アルピナが「ALPINA」という商標権をBMWに譲渡し、これまで57年間続いてきた協力関係を2025年末で終了するというものだ。これが、何を意味するのか?
アルピナは、2021年に年間生産台数2000台を初めて超えたというほどの少量生産の自動車メーカーだが、ドイツではフォルクスワーゲンや、それこそBMWなどと同格の自動車メーカーとして認定されている。アルピナが造るクルマは、すべてBMWの車両をベースにして、そこにアルピナならではのチューニングや独自設定、独自装飾などが施された高級車だ。
完成したアルピナ車は、BMWのトップモデルと同等以上の性能を発揮しながら、極めて快適性が高くいつも驚かされる。最新の「B3」や「D3」では20インチという大きなタイヤを装着し高性能を纏いながら、乗り心地がとても快適であることが信じられなかったりする。インテリアもオリジナリティーが高く、贅沢な仕様を豊富な選択肢の中から選びながらまとめ上げることもできる。
アルピナのもうひとつの魅力はビスポークにある。ホームページ上の「コンフィギュレーター」で、他メーカー同様にボディーカラーや内装などを選べるようにはなっているけれども、アルピナではそこに設定されていないことも受け付けてくれる。もちろん、可能なことと不可能なことがあるのだが、日本での輸入販売元であるニコルオートモビルズでは「まずは聞いてみてほしい」と、独自の注文を促しているほどなのだ。
先日、僕が取材した2013年型のアルピナ「D5リムジン」のオーナーさんから、良い例を聞いた。彼は、チタニウムシルバーのボディーカラーに合わせるためにフロントグリル内のルーバーを「B5」用のシルバーのものに変えてもらえないかと問い合わせてみたら、OKだったのでその仕様で注文した。「D5」用は黒なので、好みからルーバーは「B5」用で、と指定したのだ。
コンフィギュレーターに設定されていなくても、そうしたアイデアや要望は必ず聞いてくれて、実現可能だったら取り組んでくれる。大きな自動車メーカーはひとつのモデルを何十万台と製造することを前提に経営が進んでいるから、アルピナのような顧客対応はやりたくてもできないのだ。その点は、今後のアルピナにとって大きな武器となることだろう。
BMWが譲り受けたのは「ALPINA」という商標権だから、BMWはアルピナがこれまで築き上げてきたブランドイメージを活用することができる。少数生産を続ければ、それは維持できるし、必然的に超高額なクルマとなるわけだから、即座に自社内に超高級ブランドを新たに生み出せる。
肝心な点は、アルピナが譲渡したのは商標権だから、会社の従業員や生産設備、そしてもちろんノウハウなどはそのまま残ることだ。BMWと同じような協力関係を結ぶ自動車メーカーが他から現れれば、同じ方法論を以てクルマを造ることだって可能なのだ。
アルピナの正式社名は「アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社」だから、「アルピナ」を取り去った“ブルカルト・ボーフェンジーペン自動車”というメーカーが誕生して、すぐにクルマを造り出すかもしれない。きっと出すだろう。商標権だけを譲渡したのだから、現アルピナ経営陣は次の展開までを想定して踏み切ったはずだ。
ただ、すぐに成功するかどうかはわからない。現代で高級品が成功するにはモノの完成度と同等以上にブランドが必要で、それは一朝一夕にはモノにならないからだ。逆に言えば、BMWが確保しておきたかったのは、アルピナとともに構築してきたブランドの57年という時間が持つ価値なのだろう。
いや、そうでもないかもしれない。電動化や自動化などを始めとする自動車激変の時代だからこそ、内燃機関時代のブランドイメージを後生大事に引き摺ることよりも、新しいアティテュードと前向きなイメージこそを新しい顧客は超高級車に求めるような気もしてくる。
一方で、アルピナは2026年からの新体制下でクラシックカービジネスを展開することは明言している。これまでに製造販売してきたアルピナ各車の大多数は大切に乗り続けられているわけだから、それらを維持修復することは持続可能な有望なビジネスとして成り立つ。
僕は、これからのクルマは二極分化すると見立てている。99%のクルマは電動化や自動化、コネクティビティーなどの最新のデジタル技術によって高度な移動体となる。もう一方の1%のクルマは楽しみのため、歴史を体現し、保存するためのものだ。2026年からの“新生アルピナ”は、99%と1%を上手く両立させる自動車メーカーとなるかもしれない。
いずれにせよ、生産設備や従業員、ノウハウなどは“温存”されているわけだから、4年後のブッフローエで何かが新しく始まることは間違いないのだ、と新型「B4」を眼の前にして考えた。最近のアルピナは、どのモデルでも発注から納車まで2年かかるほどの人気を呼んでいるから、欲しい人は急いだほうがいい。
僕がここに書かなくても、ニュース発表以来、きっと世界中から注文が殺到していることだろう。
◆関連情報
https://alpina.co.jp/
文/金子浩久(モータージャーナリスト)
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本当にライターなのでしょうか