新型車の説明会に行くと、モニターに、新型車と、競合する「A車」「B車」「C車」といったクルマたちとの性能比較を示すグラフなどが表示される。
この比較対象となった「A車」「B車」「C車」のことを、一般的に「ベンチマーク」と呼ぶ。開発にあたり目標、参考としたクルマ、といったところだろうか。
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ベンチマーク(比較に使う指標、基準となる対象)を設定し、それを超えるよう取り組むかたちの新型車開発は、もともとはアメリカの開発手法だ。アメリカでは比較対象となった商品名などをはっきり明示させることが多いようだが、日本ではそうともいかず、前述の通り「A車」「B車」「C車」といった表現となる。通常、これらはメーカーに直接聞いても名前を教えてもらえることは基本的にまずない(ただし、両氏のお話にもいくつか出てくるが、メーカー自ら公言する場合もある)。
そこでここでは、自動車ジャーナリストの国沢、鈴木ご両名にお願いし、CX-3、ロードスター、NSX、レヴォーグの4車種について、開発にあたっておそらくこれがベンチマークとなったであろう、という車種を予想してもらい、果たしてその車種を超えることができているかどうか、について考察してもらった。
あくまでも予想の話ではあるが、目標となったであろう車種を挙げられるだけで、それを超えるために全霊を傾ける開発者たちの姿が浮かぶようになるから不思議だ。
※本稿は2017年のものです。
文:国沢光宏、鈴木直也 写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2017年9月26日号より
■マツダ CX-3(ベンチマーク予想:ルノーキャプチャー)
(鈴木直也)
ボクの今のマツダ車に対する基本的な考えは「開発上でベンチマークはあからさまには設定しない」というもの。それは、例の魂動デザインを纏った新世代商品群と呼ばれる先代CX-5以降のマツダの主力車を見てもよくわかる。
走りにしても、デザインにしてもマツダ独自の価値観を非常に大切にしているし、マツダブランドを構築するうえでもベンチマークを設定していないということは理にかなっていると思う。このあたりはトヨタが現行オーリスの登場時、声高に「VWゴルフ(VI)をベンチマークにして超えました!」とPRしていたのとは一線を画している。
つまり、今のマツダにはエンジニアリング上のベンチマークは存在しないし、ベンチマークを見てクルマを作るワケじゃない。
ただし、マーケティング上でのベンチマークは存在すると言ってもいい。市場的には現行型ジューク(Bセグのキューブベース)が作ったコンパクトクロスオーバーSUVカテゴリーに参入したんだけど、ボクがオーナーだからということは置いといても、ジュークには走りもデザインもCX-3は勝っていると思う。
現在のBセグコンパクトクロスオーバーSUVカテゴリーは、世界的にはヴェゼルやフォードエコスポーツなどが存在するけど、そのなかでCX-3のベンチマークとなるのはルノーキャプチャーかな。ベースは現行ジュークだけど、その実力はジュークを凌駕している。CX-3と比べても、キャプチャーはFFならではの素直なハンドリングと走りでCX-3を若干凌いでいると思う。
鈴木直也の評価……ルノーキャプチャーの勝ち!!
■マツダロードスター(ベンチマーク予想:初代ユーノスロードスター)
(国沢光宏)
こらもう、明らかにベンチマークとしているのは初代NA型ユーノスロードスターでしょう。そもそも開発陣は“原点回帰”を掲げていて、「NA型ロードスターを意識したクルマ」ということをハッキリとアナウンスしていたワケだしね。
確かに先代まで肥大化してきていたボディサイズはコンパクトになって、エンジンは1.5Lになり、クルマとしてのハード面ではNA型をはるかに超えたクルマになっているのは認める。ただ、現行型がすべての面で初代を超えたかというと、まったく超えていないと断言する。
それはなにかというと、価格設定。現行型は最低でも約250万円からに設定されている。特殊なオープン2シーターとはいえ、エンジンは1.5Lモデルだからね。スターティングプライスは200万円にしてほしかったというのが正直なところ。
「多くのお客さんに乗ってほしい」という“志”の部分でNA型を超えていないんだよね。まあ、コストを積み重ねていってその値段になってしまったんだろうけど。
それと付加価値をつけるために最低でもRFに設定される2Lモデルをベースとして、もうちょっと刺激的なそれ以上のスポーツグレードもほしい。86/BRZは同じ2L NAでも207ps出ているんだから。そこまでやってようやくNA型に肩を並べるかどうか、といったところだと思うよ。
国沢光宏の評価……初代ユーノスロードスターの勝ち!!
■ホンダ NSX(ベンチマーク予想:アウディR8)
(鈴木直也)
スーパースポーツというと、フェラーリ&ランボルギーニというのが漫然と思い浮かんでくるカテゴリーだけど、「燃費もよくて街乗りもOKな信頼性の高いスーパーカー」というと、ベンチマークとなるのはアウディR8なんだろうね。
この2台を比べると、新しいメカニズムにどうしても惹かれてしまうボクからすれば、トルクベクタリングがあってV6、3.5Lターボに前後輪にモーターを組み合わせたNSXのほうに軍配が上がる。アウディR8はV10モデルはまだしも、V8だと退屈なスーパーカーといった印象が拭えない。アウディR8が100だとすると、NSXは125くらいかな。
まあ、フェラーリやランボルギーニのことを思えば「退屈なスーパーカー」であるのは2台とも一緒だけどね。これはもう日本とドイツの自動車メーカーが抱える宿命みたいなもので、実用性と信頼性の高さを求めること自体がスーパーカーへのアンチテーゼだと思う。
ユーザーが求めるというよりもメーカー自らが「スーパーカーをラインアップに持ちたい」という自己満足に近い。つまり、メーカーにとってスーパーカーってパーティーに連れて行くための“トロフィーワイフ”みたいなものだと思いますよ。
鈴木直也の評価……ホンダNSXの勝ち!!
■スバル レヴォーグ(ベンチマーク:4代目レガシィツーリングワゴン)
(鈴木直也)
一部イギリスには輸出しているけれど、ほぼ日本国内専用車みたいなクルマだから、「出してくれただけでありがたい!」といった感のあるレヴォーグ。スバル自ら明言しているとおり、このクルマのベンチマークとなるのは4代目BP型レガシィツーリングワゴンになる。
正直、このセグメントにはもはやレヴォーグしか残っていないワケだけど、BP型レガシィからの進化ぶりは凄い。アイサイトをはじめとして機能的にはBP型を100とした場合、レヴォーグは200近くになるんじゃないかな。まあ、後出しだからいいに決まっているんだけどね。
ただ、レヴォーグがクルマ好きの琴線に触れる「不朽の名作」かというと、そうではなくてBP型レガシィがその対象となる。いまだに多くのユーザーが乗り替えないのもそれを証明している。
デザインもシンプルでよかったし、開発コストを惜しみなくかけられたBP型レガシィは、そのぶんクルマとしての完成度はレガシィ史上最高。開発陣の「1番を取りにいきたい!」という情熱がほとばしるクルマだったワケで、その部分でレヴォーグはベンチマークに届いていないと思います。
鈴木直也の評価……4代目レガシィツーリングワゴンの勝ち!!
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