■新しい時代の走りを徹底的に追求した「超感覚スカイライン」
「アール・サンニー」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、BNR32=スカイラインGT-Rのほうではないでしょうか。
標準仕様の登場から3か月後に登場したスカイラインGT-Rは、超絶なインパクトを放ち、瞬く間に国産スポーツカーの頂点に登り詰めました。
16年ぶりの復活で話題を独占したスカイラインGT-Rの影に隠れがちですが、8代目となる標準仕様のR32(HCR/HR/HNR型)も、スカイラインの歴史に名を刻んだモデルとして後世に語り継がれる1台といえるでしょう。
そこで、「R32型スカイライン」はどんなクルマだったのか、振り返ります。
※ ※ ※
先代のR31型(通称7thスカイライン)が時代の求めに応じたとはいえ、ハイソカー路線のクルマになったことは周知の事実です。これを歓迎した人がいる一方で、スポーティカーにしては大柄なボディや高級車然とした内装などに違和感を覚えた人も少なくありませんでした。
当時としては卓越した技術が奢られていたことからも、7thスカイラインが走りをなおざりにしていたわけではありません。しかし、“スカイラインは走りのクルマ”と捉えていた人からすれば、脈々と継承してきた伝統やクルマのキャラクターがやや希薄になったと感じさせたことは否めません。
そこで8代目の開発では、スカイラインにとって“走り”こそ唯一にして無二であると捉え、そこに焦点を絞ったクルマづくりが推し進められました。
折しも、日産では「901運動(キュウマルイチうんどう)」という開発目標が打ち出され、「1990年代までに走りの技術世界一を目指す」という大義名分の下、R32型スカイラインにはさまざまな新技術が盛り込まれることになったのです。
1980年代後半から1990年代は、クロカン4WDやステーションワゴン、ミニバンなどが市場を席巻。いわゆるRVブームが訪れますが、そのなかにあってもスポーティカーを選ぶユーザーは多く、R32型スカイラインはR31型から大胆なイメージチェンジを図ったことで、クーペ、セダンともに注目を集めました。
901運動が功を奏し、R32型スカイラインではシャシ、エンジン、サスペンションなど、あらゆる部分が刷新されました。
なかでも「RB20DET型」2リッター直列6気筒ターボエンジンは、量産車としては初めてセラミックローターと組み合わせたボールベアリングの軸受部を持つハイフローセラミックターボを採用することで、最高出力215馬力、最大トルク27.0kg-mという、2リッタークラスでは世界屈指のパフォーマンスを実現。
高出力化だけでなく、ドライバーと緻密なコミュニケーションが図れるようチューニングが施されたことで、スポーツドライビングの醍醐味を存分に堪能できたのも、このRB20DET型エンジンの魅力でした。
このほかR32型スカイラインには、2リッターDOHC自然吸気の「RB20DE型」、同SOHCの「RB20E型」、さらに1.8リッター直列4気筒SOHCの「CA18i型」というバリエーションが用意されていました。
これらのエンジンに組み合わされるトランスミッションは4速ATと5速MTで、ATはフルレンジ電子制御を採用。MTについては、スポーツ走行で使用頻度の高い2速、3速をダブルコーンシンクロとし、さらにショートストローク化することで小気味のいいシフトフィールを実現し、操る楽しさが味わえました。
■刷新された足まわりこそ、R32型の真骨頂?
“走り”にこだわったR32型スカイラインの開発では、足まわりについても操舵に対する反応がより緻密であることや、タイヤの接地力を引き出してカーブでの追従性や安定性を高い次元へと導くこと。さらに乗り心地も犠牲にしないことなど、じつに多大な要件が課せられました。
これらを最高レベルで成就させるべく採用されたのが、4輪マルチリンクサスペンションです。
ハイマウントアッパーリンクとロアアームに第3のリンクを加えた独自のシステムは、2段絞りバルブを備えた新構造のショックアブソーバーと組み合わせたことで確かな接地性をもたらし、クルマとより綿密なコミュニケーションを可能にしました。
そのうえ、従来ではトレードオフの関係にあった乗り心地といった諸性能も高い次元で両立し、クルマを意のままにコントロールできる質の高い走りの実現に大きく貢献したのです。
また、日産が世界に先駆けて開発した「HICAS」は、その効果をスポーツ領域にまで高めた「スーパーHICAS」となって採用されました。
スーパーHICASでは、後輪操舵のタイミングをわずかに遅らせるディレイ制御を進化させた位相反転制御が用いられたことで、これまで以上に緻密な4輪操舵を可能にしています。先述した4輪マルチリンクサスペンションのポテンシャルも相まって、軽快なスポーツドライブを安心して楽しむことができました。
ボディサイズは全長4580mm×全幅1695mm×全高1340mmで、ホイールベースは2615mm(2ドアクーペ)です。R31型と比べると張り出しを強調した前後フェンダーによって全幅が5mm拡大されていますが、全長は80mm短くなり、全高は25mm低くなりました。
直線基調だったR31型に対し、やや丸みを帯びたワイド&ローのフォルムとしたことも、走りに対する明快な意思表示だったといえるでしょう。
ちなみに、ボディタイプは先代型と同じく2ドアクーペと、ピラードハードトップスタイルの4ドアセダンが設定されていました。
グレード構成は、RB20DET型エンジンを搭載した「GTS-t」系と4WD仕様の「GTS-4」、RB20DE型エンジンの「GTS」系をクーペ、セダンに設定。
セダンにのみRB20E型エンジンの「GTE」とCA18i型エンジンを搭載した「GXi」が設定されていました。さらに、1991年8月に実施されたマイナーチェンジでは、「RB25DE型」2.5リッター自然吸気エンジンを搭載した「GTS25」系が追加されています。
※ ※ ※
スカイラインGT-Rの登場も影響して、スタンダードなR32型は販売面では大ヒットするまでには至りませんでしたが、生産終了から28年が経った今も、なお熱烈なファンは存在します。
「このスカイラインをして、走りは、確実に新しい時代を迎えることになる」とカタログの冒頭で謳っているとおり、ものの見事に“スカイライン=走り”というイメージの回復を成し遂げた8代目スカイラインの功績は、大いに評価されるべきでしょう。
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みんなのコメント
早いクルマはいらないが楽しく走れるクルマが欲しかったのが理由ですが、シルビアでは座高の高い私には天井が低かったというのも理由です。
今にして思えばGTS-tにしておいても良かったかなと思いますが、楽しいクルマだったのは間違いありません。
R32GTSの方がハンドリングは上、と評するレーサー、テスターが多かったからな