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ダイムラーのモデルベース開発を組み合わせた最新ドライビング・シミュレーターの全貌

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ダイムラーのモデルベース開発を組み合わせた最新ドライビング・シミュレーターの全貌

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ゲームソフトの「グランツーリスモ」シリーズは、ご存知のようにドライビング・シミュレーターと呼ばれるソフトウェアだ。リアルなクルマの動きと、リアルな表示画面により、実際に自分が運転しているような感覚を楽しむことができるソフトだ。

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ドライビング・シミュレーターとは

こうした家庭用のドライビング・シミュレーターは、視覚情報が中心で実際に運転したときの前後Gや横Gなど、車体の動きを実感できるわけではない。ところが、より高度な自動車メーカー向け、レースチーム向けのシステムでは、擬似的に表示画面に合わせて横Gや前後G、車体のロールやピッチが体感できるシステムも多数あるのだ。今やF1グランプリや世界耐久選手権から有力F3チームに至るまで、ドライビング・シミュレーターを駆使してマシンのチューニングやセッティングを行なうのが当たり前の時代になっている。

自動車メーカーの世界では、ダイムラー社がこの分野で傑出している。1980年代にはドライバーの運転とクルマのダイナミクス(動き)を研究するために、クルマ1台をまるまるシミュレーターに搭載したドライビング・シミュレーターの設備を導入した。




もちろんこの時代のコンピュータ技術は未熟な時代で、表示画面はファミコン並のレベルだったが、危険な状況に直面した時、一般的なドライバーはどのように反応し、どのような運転操作をするのか・・・といった研究に使用し、ABS(アンチロック・ブレーキ)、そして、後のESC(横滑り防止装置)の開発にも貢献している。

このダイムラー社のドライビング・シミュレーターを上回る世界最大規模のシステムをトヨタが2007年に東富士研究所に導入した。トヨタはドライビング・シミュレーターを予防安全技術の開発のために、ドライバーの運転特性の解析や事故低減技術の開発とその効果の検証に有効なシステムとして位置付けている。


そのシミュレーターは直径7.1mのドーム内に実車を設置し、ドライバーはドーム内の球面スクリーン全体(360度)に映し出される映像に合わせて運転操作を行なう。その際、ドームは精密なコンピュータ制御のもと、ターンテーブル、傾斜装置、振動装置を作動させながら、縦35m×横20mの世界最大級の範囲を移動することで、コーナリングを始めとした様々な運転パターンが再現される。走行時の速度感、加減速感、乗り心地を忠実に再現するというわけだ。さらに、走行音の効果も加えられ、ドライバーは、限りなく実走行に近い走行感覚を体感することが可能になっている。


【トヨタのドライビング・シミュレーター概要】
・ドームのサイズ:直径7.1m/全高4.5m
・ドーム傾斜角:最大25度
・ターンテーブル回転角:左右330度
・上下振動:最大上下50mm
・ドーム移動範囲:縦35m×横20m
・体感加速度:0.5G

しかし、ドライビング・シミュレーターの元祖、ダイムラー社はさらに新しい車両開発システムとしてシミュレーターを進化させていた。


ダイムラー社の最新ドライビング・シミュレーター

ダイムラー社はシャシーや車両の運動性能、そして高度運転支援システムのテストコースと公道でのテストで、ドライビング・シミュレーターを駆使し、その計測されたデータを使った車両開発を推進させる手法を確立しつつある。

ダイムラー社の本拠地、ジンデルフィンゲンに設けられた360度シミュレーターは、6本足を備え、ドームには実車を搭載することができる。電気機械式のアクチュエーターを持つこの6本足により、ドームを自在に動かすことができる。つまり6本足による6角形の動きと、長いレール走行により、このシミュレーターはほぼ現実の運転状況を再現することができるのだ。


ドームは運転に応じた加速力を再現し、ドーム内の画像生成システムは連続的な動きを視覚化して表示する。この結果ドライバーは現実的な運転状況として感じることができる。ドーム内には複数の映像表示により360°の視界が実現。サイドミラーの情報の代わりに、ドーム内の車両はデジタルの仮想後方視界も表示される。こうしたバーチャル映像と交通シミュレーション・ソフトウェア、リアルなサウンドシステムを組み合わせることで、運転状況や操縦全体をリアルに表現することができるというわけだ。


アクセルペダルやブレーキペダルの操作、操舵などドライバーの操作は、すべて中央制御室に送信される。そうしたデータをもとに車両運動を演算するコンピュータからシミュレーターの駆動部(モーションシステム)に指令を送り、ドーム内の車両に乗っているドライバーは実際に運転しているかのようにシミュレーターが駆動される。


加速すると、ドライバーはシートに押し付けられ、高速コーナリング時にはドライバーに遠心力が働く。ドライバーがステアリングホイールを動かすと、アクチュエーターは車両モデルによって計算されたステアリングホイールにフィードバック力を発生させる。


中央制御室のコンピューターに搭載される車両はドライバーの入力を受け取り、車両の動きをリアルタイムでシミュレートする。シミュレーションを行なうために多様なシミュレーションプログラムが実装され、シャシー性能用、運動性能コントロール用、運転支援システム用などがある。こうしたさまざまなプログラムを利用し、例えば車両の運動性能のシミュレーションでは、車両挙動の限界域まで再現することができる。

そしてダイムラー社は2013年からモデルベース開発ツール・メーカーのdSPACE(ディースペース)社のAutomotive Simulation Models(自動車用シミュレーション・モデル:ASM)を導入し、開発中のクルマのハンドリング、運動性能はドライビング・シミュレーターを使いリアルタイムで評価できるように進化している。つまりドライビング・シミュレーターで、コーナリング時のシャシーの動き、ハンドリング性能を評価することが可能になったのだ。

主なテスト評価機能は以下のような項目だ。まずASMモデルを使用することで、シャシー・システムのスプリング、スタビライザー、ダンパーの特性を指定することができる。特性を変えることで敏捷性、ヨー慣性、ステアリングの効きなどの評価基準に関してパラメーターを変化させることができる。また試作車がない初期段階の開発でのハンドリング特性評価や最適化が可能になる。

さらにサスペンションとダンピングが車両のダイナミクスと運転フィーリングにおよぼす影響や、シャシーのコンプライアンス性能、積載条件、タイヤの影響なども評価することができる。

例えばドライビング・シミュレーターにより、ステアリングに対するブッシュ剛性の影響を見出すために、ブッシュの感度分析を行なうこともできる。この分析はサスペンションを開発するのに役立つだけでなく、実際のテスト走行でも有効だ。もちろん、実際の車両ではシャシー・パラメーターの調整は大きな労力を必要とするが、ASMモデルならデータ・テーブルの値を変更または置換することによって、非常に簡単に変更することができる。

さらにシャシー・システムの革新的なアイデアや新しいコンセプトは、車両開発の初期段階でテスト用のコンポーネントを設計、試作することなく評価することもできる。

このように、ドライビング・シミュレーターとモデルベース開発を使用することで、自動車メーカーは、試作車を作る以前の段階で、車両のテストと評価を行なうことができ、また試作車ができた段階でも、シャシー性能に関わる要素を変更した状態をシミュレートすることができるわけだ。

そのため、試作車の製作やそれに関する工数を大幅に削減でき、車両のダイナミクス性能に関しては、道路条件、乗り心地、シャシー制御システムの介入状況などを迅速かつ安全に評価することができるようになっているのだ。

ダイムラー 公式サイト
dSPACE 公式サイト

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