自動車にとって欠かせない存在であるタイヤ
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「純正装着タイヤ」です。新車装着品であっても、自動車メーカーは自社で生産はしません。その理由とは?
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自動車メーカーが提示する厳しい条件をクリアし納入される
自動車メーカーはタイヤを生産しません。エンジンやプラットフォームといった主要部品はもちろん自社生産しますし、それに付随するパーツも自己資本の投じた系列会社で生産しています。だというのに、肝心のタイヤは自社生産することなく、タイヤメーカーに生産を委託しているのです。OEM(Original Equipment Manufacturer)供給という形態で納入させているのです。
なぜでしょう。
タイヤはクルマの性能を左右する重要なパーツです。ですから、自社生産するのが理想ですが、あまりにも特殊なパーツですので、軽はずみに生産ができないという事情があります。言ってみれば黒くて丸いゴムの塊なのですが、中身には高度なノウハウが注ぎ込まれているのです。
ゴムの生産をするのであれば、タイヤだけ商品にするのではなく、航空機用やビルの耐震用など、販売範囲を広げる必要があります。そうでなければ企業としてのスケールメリットが得られません。ですので、そこまでするのならば専業会社から納入させたほうがいいと考えているのかもしれません。
諸説ありますが、自動車メーカーのリスクヘッジという話を聞くこともあります。安全性にも影響するので、事故やトラブルが発生した時の責任逃れ……といった噂もなくはないのです。それほど重要なパーツであるという意味ですね。
タイヤメーカーとしても安直に、既存のタイヤを納入するだけではないようです。タイヤ開発のエンジニアがクルマの開発現場に帯同し、それぞれ独自にチューニングします。自動車にはメーカーが決めた性能要件があり、その要件を満たすことがまず大切。その上で、クルマとの相性を調整します。
例えばハンドリング、乗り心地、静粛性……、そういった数々の要件が自動車メーカーの要求値に合致するよう開発し、OEM納入するのです。
自動車でクリアできない条件をタイヤで解決することも多々ある
そう紹介すると、自動車メーカーの立場が上で、タイヤメーカーが下請けのような印象を受けますが、立場が逆転することもあります。
例えば最近では厳しい基準が設けられている通過騒音などは、タイヤメーカーの腕の見せ所です。音量計測器の前を一定の速度で通過した際の音量を計測するのですが、マフラーの音量や風切り音などをクルマで徹底的に減らしても、それでも騒音基準を満たさない場合があるとします。そんな時には、タイヤが転がり騒音を減らすことで基準をクリアさせることもあります。
「もうクルマ側では対策できないので、タイヤでなんとかして……」
というわけです。操縦安定性に関しても同様ですね。もっとハンドリングを良くしたい。だけど、これ以上はサスペンションを硬くすることができない。最後はタイヤの性能で、ハンドリングを整える、ということも頻繁に行われています。ですから、自動車メーカーとタイヤメーカーは主従の関係ではなく、開発の仲間なのですね。
R35型「日産GT-R」がデビューした当初は、ダンロップと仲間の関係にありました(初期型はブリヂストンも設定があった)。ニュルブルクリンクを開発ステージとしていたGT-Rは、優れた操縦安定性と高いグリップ性能が求められていました。そのためにダンロップと共同で開発を進めていたのです。
* * *
というように、自動車メーカーとタイヤメーカーは一心同体なのです。どんなに巨大な自動車メーカーでもタイヤは生産しません。それほど奥が深いという言い方もできますが、タイヤメーカーはそもそも身内だという感覚が強いからなのかもしれませんね。
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