昨年の東京モーターショーなどですでに実車を露出していたホンダ初のEV(電気自動車)が発売された。100%電気で走行するピュアEVだが、実は最初の生産分はすでに完売。第2次発売は10月末といわれている。同社の説明では「限定生産ではなく、期間を決めてまとめて受注、生産、販売していく方針」なので、購入希望者はディーラーに声がけしておけばよいだろう。
発売された「ホンダe」だが、ボディサイズは全長3895mm、全幅1750mm、全高1510mmで、スズキ「スイフト」とほぼ同じサイズ。スタイリングはホンダ「N360」「N-ONE」に続く、ホンダのベースモデルに共通の2BOXハッチバック。フロントグリルに囲まれた丸目ヘッドライトが可愛い。
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ただし、このグリルに見える部分は空気口などないパネル板。ラジエターなどのないEVはボディーに空気取入口など必要ない。それはリアにまわっても同じだ。ボディーで目につくのはドアミラーだ。フロントドアに小さな突起がある。これが車両後方視界を確認するドアミラーの代わりになるカメラ。
室内に入り、スターターボタンを押すと、インパネ全面に画面が表示される。その画面の左右両端には大きな後方確認サイドミラーにうつる画像が映し出される。リアシートは低めの着座で床は中央が若干盛り上がっている。天井の高さは全高が1510mmなので確保されているが、足元は狭い。しかもドア開口部も狭いので乗降はちょっと不便。定員も2名なので、ホンダとしても後席の居住スペースは割り切っているようだ。
ホンダはこの「ホンダe」をシティコミューターとして考えているので、大人4人が長距離を走ることは目的外。街中での扱いやすさ。これが「ホンダe」の開発で重要なポイントなのだ。
駆動と走り
街中での使いやすさを重視したことで、駆動はリアモーター、リアドライブのRR方式を採用。フロントボンネット下には充電、給電用のポートや高電圧部品などを搭載。駆動用モーターはリアのラゲージ下に納めた。リア駆動にしたのは、前輪の切れ角を大きくしたかったから。ドライブシャフトなどがないことで片側1車線の6m道路なら一発でUターンできるぐらいの小回りができるようになった。
ここで、試乗にでかける前に試乗会場に用意された特設会場でいかに小回りができるかのテストに参加した。室内駐車場に約3000個の段ボールで迷路のようなコースを造り、そこで「ホンダe」を走らせたのだ。幅3.5mの通路を一度も接触することなく走破。軽めのハンドルとサイドミラーの視界の良さを体感できた。室内での試乗は、音や排気ガスを出さないEVならではの試乗といえる。
最初に試乗したのは、17インチタイヤを装着する上級グレードの「eアドバンス」。搭載されるモーターは154PS、315Nm。一充電での航続距離はWLTCモードで259kmと発表されている。試乗車が手元に来た時は充電率84%で可能走行距離は144kmと表示されていた。計算上では100%で171kmになる。
スタートはノーマルモード、シフトはすべてセンターコンソールのボタンスイッチで選択する。スタートから動きは素早く、加速も軽快。電池の重さは感じない。17インチタイヤは前205/45ZR、後225/45ZRで、ミシュランの「パイロットスポーツ4」というかなり奢ったタイヤを装着している。低速ではややタイヤのザラつきはあるものの、それ以外は気になるところのない高性能タイヤだ。
今回の試乗で、最も印象に残ったのは、スポーツモードに切り替えての走りだった。シティユースのEVでの使い方ではないが、Sモードでの「ホンダe」は、低重心でのコーナリングはシャープでトルクフル。ブレーキも回生が効き、コーナーを攻めることもできる。しかもそのときにハンドルを握り、ワクワクさせてくれるのだ。
まさかEVでこんな気持ちにさせてくれるとは! というのが最大の驚きだった。本来ならシティユースのEVは、街中での使い勝手や、電費などを詳しくレポートしなければならないのだが、あまりにもSモードでの走りが楽しかった。ホンダがまだこういうワクワクさせるクルマづくりの気持ちを持っていてくれたことがうれしかったのだ。
ぜひ、この心意気をコンパクトカーやSUV、軽自動車にも拡大してほしいと思った。もちろん「ホンダe」は先進の安全装備や自動駐車装置などを備えているのは言うまでもない。「ホンダe」はこの「アドバンス」のほかに、16インチのノーマルモデルもあるが、これは乗り心地、使い勝手ともに17インチモデルにはかなわなかった。営業サイドから安いモデルと高いモデルがほしいという声があったそうだが、「アドバンス」だけで勝負してほしいと思った。
■関連情報
https://www.honda.co.jp/honda-e/
取材・文/石川真喜照 撮影/萩原文博、吉田海夕
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