10秒の信号待ちで1km分充電!
「走るだけでEV(電気自動車)を充電できる道路」が実現に近づいています。2023年10月3日、東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本・清水研究室を中心とした産学官連携のチームによる「走行中給電の公道実証実験」の出発式が、千葉県柏市の柏の葉キャンパスで行われました。
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駅近くの交差点に送電コイルをはじめとしたシステムを埋め込み、そこで受電コイルなどを搭載した専用車両が差し掛かると磁界が発生し、車両が充電される仕組みです。10秒の充電で、一般的な電気自動車が1km走行することが可能になるといいます。
「10秒の充電」というように、今回のシステムは実際には「停車中充電」といえます。送電コイルは右折レーンに埋め込まれており、信号待ちの際に充電することが想定されています。東京大学の藤本博志教授は、「スマホの“置くだけ充電”と同じ仕組み」だと話します。
「走行中充電」をテーマとしながら、停車中に狙いを絞ったのにはワケがあります。
道路全体に同じシステムを埋め込んだのでは膨大な費用がかかります。そこで藤本教授らのチームは、自動車の走行データから、「信号機の手前30mの範囲に、全走行時間の約25%にあたる時間クルマが滞在」していること、つまり目的地までの走行において信号待ちで止まっている時間に着目したのです。
そこから、全ての信号の停止線手前30mに、走行中ワイヤレス給電設備があると、EV乗用車は「充電しない世界を実現できる」とシミュレーションしました。特に、一定の範囲内を運行する路線バスなどで、このシステムは有効と見られており、バス停などへの設置も視野にあるそう。
今回は、実験車両としてトヨタ「ハイエース」をEVに改造した車両と、「RAV4 PHV(プラグインハイブリッド)」の2台を用意。どちらも、後輪内側の床下に25kwhの受電コイルを2つ設置しています。地上から受電コイルまでは5.5cmが確保されており、この部分が道路上の送電コイルの真上になるよう停車することで、充電が開始されます。なおこのシステム、EVでもプラグインハイブリッドでも対応とのこと。
道路側のシステムは常に電気を発しているわけではなく、車両が近づいたことを検知して作動する仕組み。これにより省エネも図れるほか、磁界が安定しているので作動中であっても、人がシステムの上に立って感電するような心配もないそうです。
原理は「スタンド型の充電器」と同じ? 世界に与えるインパクトとは
EVは一般的に、スタンド型の充電器からケーブルを介して給電しますが、藤本教授によると、このシステムを構成する部品は基本的にEV充電器と同じで、コイルどうしがケーブルでつながっているか、離れているかの違いだそう。エネルギー効率は96.4%と高く、スタンド型のEV急速充電器とほぼ変わらないそうです。
このため、藤本教授らは、走行中給電システムが車両のオプションとして販売されることを見込んでいます。ケーブルを介した充電システムとの併存も可能だそうです。
今回の実証実験は国土交通省の事業に採択されているほか、実に産学官20者以上が携わっています。東大の研究のなかでも、人々の生活に与えるインパクトが大きいものとして注目されているそう。さらに、藤本教授らはこのシステムを国際標準とすべく、トヨタ、デンソーと日本自動車会議所を通じてIEC(国際電気標準会議)に提案しているといいます。
では、なぜ「走行中給電」がこれほどまでに期待されるのか――それは、充電に時間がかかるというEVの課題を解決するだけでなく、新たな産業を生み、製造コストを下げ、カーボンニュートラルを加速させると考えられているからです。EVに向かないとされていた大型車にも適するといいます。
藤本教授によると、大容量のバッテリーが大量に消費され、高い電圧で急速充電するEVが普及しつつあるとのこと。これは「効率、バッテリー製造コスト、車両コストも悪いうえ、資源リスクも高まっています。さらに、急速充電は電力系統の負荷が集中するため、集合住宅への充電器の整備も難しくなってきます」といいます。
そこで走行中給電システムにより、走りながら充電ができれば、「100kwhのバッテリーが、8kwhくらいのバッテリーで十分走れる、家庭の充電設備も不要になる」のだそう。バッテリーの小型化、ひいては車両の軽量化が図れるのだそうです。このことはEVやバッテリーの製造コストを大幅に下げる可能性を秘めているといえます。
柏の葉キャンパスでの実証実験は2025年3月まで。本格的な事業化は2030 2035年頃だといいますが、すでに「ある地域の市バス」で、2028年に今回のシステムが導入されることが決まっているそうです。
※一部修正しました(10/4 20:25)
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