初日の昼食後、1997(平成9)年初度登録のレガシィ ツーリングワゴンGT-Bに乗った。1993年に登場した2代目レガシィに、その3年後に追加された280ps(ATは260ps)とドイツ・ビルシュタイン製倒立式ダンパーを得たモデルである。
レガシィ史上最高の国内販売台数を記録したのがこの2代目で、ビルシュタインの納入が追いつかず、工場で何台ものタイヤのないレガシィがその到着を待っていた、と、往時を知るスバル広報のK氏は証言する。
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【主要諸元(GT-B)】全長×全幅×全高:4680mm×1695mm×1490mm、ホイールベース:2630mm、車両重量:1470kg、乗車定員:5名、エンジン:1994cc水平対向4気筒DOHCツインターボ(260ps/6500rpm、318Nm/5000rpm)、トランスミッション:4AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:フロント215/45R17、価格:299万8000円(1996年当時、OP含まず)。K氏は大阪のディーラーに出向していて、同じく大人気だった「ビビオ ビストロ」目当てのお客さんとレガシィ目当てのお客さん、列をつくって待ってもらったという。「いやもう、売るほうがたいへんですよ」と、語るK氏のことばには実感がこもっている。
そのGT-Bだけれど、2ステージ・ツインターボにより280psを発揮したのはMTのみで、試乗車の4ATは260ps/6500rpm、最大トルクは32.5kg/5000rpmだった。車重は1460kgに過ぎない。
GT-B(4AT)が搭載するエンジンは1994cc水平対向4気筒DOHCツインターボ(260ps/6500rpm、318Nm/5000rpm)。4ATのほか5MTも選べた。なお、5MT仕様の場合、最高出力は280ps(AT仕様のプラス20ps)。170psで1570kgのレヴォーグ1.6STI Sportから乗り換えると、さぞやスゴイかと思いきや、21世紀のモダン・カーから20年前の中古車に乗り換えたわけなので、ボディはヤワだし、乗り心地はゴツゴツしていて、ステアリングは重く、9万5000kmという走行距離以上に酷使されていたに違いない。
デロデロという、当時のフラット4特有の低い排気音は懐かしくはあったけれど、ロード・ノイズは大きいし、20年の進歩を思わずにはいられない。
4WDは全車、4センサー4チャンネルABSと4輪ディスクブレーキを装着。GT-Bは、軽量・高剛性の17インチアルミホイールが標準。GT-Bには、ドイツのダンパーメーカー「ビルシュタイン」の倒立式ダンパーストラットが標準。リアには装着をしめす、エンブレム付き。新車のGT-Bはシャープな印象だったけどなぁ、と記憶をたぐった。ところが、私の記憶は『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいにはなっていないのだった。
ブレーキはやや頼りなく、エンジンはビュンビュンまわりたがらない。ただ、まわしても不思議と振動がないのは、4本のピストンが互いに振動を打ち消しあう水平対向という特異なエンジン形式それ自体にあるのだろう。当初、ゴツゴツしていると感じた乗り心地は、高速巡航を続けていると、それほど悪くないように思えてきた。
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ボディカラーは全7色。先代(初代)に対し、フロントグリルとバンパーの開口部を拡大し、冷却性能を高めた。GT-BのステアリングはMOMO製。運転席SRSエアバッグは全車標準。メーターパネルはオーソドックスなアナログタイプ。甲府のあたりで雨がポツポツ降りはじめると、GT-Bに対する感情は一変した。スバル4WDはつねに4輪を駆動している。タイヤが滑ってから後輪にトルクを配分するわけではない。そのおかげで、と断言できるかどうかは別にして、ともかく2代目レガシィは雨ニモマケズ、絶大な安心感をドライバーに抱かせながら、淡々と走り続ける。
勝沼ICからおよそ160km、飯田ICで中央道を降り、一般道をしばらく走ると、やがて山間部に入っていく。2代目レガシィ・ツーリングワゴンGT-Bはこの山道で、低重心のフラット4ターボ+4WDシステムの本領を発揮する。ほとんどロールすることなく、中速コーナーを駆け抜ける。
エアサスペンション装着車(2.0リッターNA、2.5リッターNA)も選べた。GT-Bのオートマチックのセンター・ディファレンシャルは、1991年発売の「アルシオーネSVX」用に開発されたVTD(バリアブル・トルク・ディストリビューション)-4WDである。前後トルク配分を36:64から50:50まで電子制御で可変として運動性能と安定性を高めた電子制御のシステムで、後輪駆動寄りにしているところがミソだ。
VTD-4WDはレヴォーグ2.0でも使われていて、45:55に配分し、状況に応じて可変制御している。ただし、われわれのレヴォーグは1.6だったから、アクティブトルクスプリットAWDと呼ぶシステムのはずで、こちらは60:40を基本とする安定性重視型とされる。スバルは乗用車用4WDのスペシャリストとして、前後トルク配分にこだわり、1990年代早々に車種ごとにシステムを使い分けている。
歴史をひも解けば、スバルがレガシィでWRC(世界ラリー選手権)に初参戦したのは1990年、コリン・マクレーのドライブで初優勝したのは1993年のことだった。それは水平対向4気筒エンジン+ターボ+4WDというレガシィの優秀性を世界に示すものだった。
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先代に比べ、オーディオのデザインを一新し、音質・操作性ともに高めたという。さらに、一部グレードは3D拡大誘導表示方式のナビゲーション・システムもオプションで選べたという。シート表皮は、ベージュも選べた(一部グレードでオプション)。リアシートはセンターアームレスト付き。リアシートバック上部のカーゴネットは標準。ラゲッジルームのフロア下には、小物入れに最適な収納場所もある。リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式(ダブルフォールディング・タイプ)。あらためて考えてみると、これってバブル崩壊後で日本経済が苦しんでいた時期だった。ホンダがF1から2度目の撤退を決断したのが1992年である。そんなときにスバルは、F1に較べればはるかに少ない予算だったろうけれど、1995年からインプレッサでWRCマニュファクチャラーズ・タイトルを3年連続で獲得した。
パートナーのイギリスのレーシング・チーム、プロドライブの存在は無視できないにしても、ニッポン人としてはこう思いたい。百瀬晋六を祖とするスバルの技術が優れていたのである。
目的地の長野県南部にある阿智村の昼神温泉郷の宿屋にチェックインしたのは予定の17時をちょっとまわっていた。
早めの夕食後、用意されていた星空観賞に筆者も参加した。阿智村は環境省認定の「日本一星空がきれいな村」で、温泉とセットで地域おこしをしている。標高1200mの山間に「日本一の星空 浪合パーク」という施設があり、スバルは星空見学会を年に何度かここで開催している。その縁で日本一の星空を仰ぐことができたのだった。
あいにく雲が多くて、見える星は限られていた。仮に晴れていても、この季節、21時だと、プレアデス星団(和名:昴)はまだ山の向こうだという。
筆者は知らなかったけれど、爆笑星座解説で予約がとれないほど大人気という、星兄(ほしにい)さんのお話はたいへん面白かった。「北極星は意外と暗い」とか、「満月の夜は新月のときより120倍も明るいから星の観察は避けるべし」とか、いいですよね~。
300人の3歳児が星兄さんの星空観賞に集まったことがあって、その子たちにおおくま座を教えてあげると、300人の3歳児がてんでに大きな声で「くまー」と叫んだ。では、英語ではなんていうの? と聞くと、同じ英語教室に通っている300人の3歳児たちは一斉に「bear」とすばらしい発音で答えた。bear の発音で笑わせるという、星兄の鉄板のネタだそうです。宇宙に想いを馳せながらの、「緊張と緩和」に筆者も笑った。スバルに乗って星空観賞に行くという、オツなイベントだった。
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レヴォーグとレガシィの関係とは?2日目は朝8:30スタートだった。雨に降られた前日とは異なり、快晴である。1台目は「クールグレーカーキ」というきれいな水色の現行レヴォーグ1.6GT-S EyeSight Advantage Lineという特別仕様車である。
外観ではドア・ミラー、ドア・ハンドル等、それにホイールがブラック塗装される。内装はウルトラスエード/本革のシート表皮にブルーのスティッチが入っている。
【主要諸元(1.6GT-S アイサイト アドヴァンテージ ライン)】全長×全幅×全高:4690mm×1780mm×1500mm、ホイールベース:2650mm、車両重量:1560kg、乗車定員:5名、エンジン:1599cc水平対向4気筒DOHCターボ(170ps/4800~5600rpm、250Nm/1800~4800rpm)、トランスミッション:CVT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:225/45R18、価格:342万円(OP含まず)。1.6GT-S アイサイト アドヴァンテージ ラインは、もとになる1.6 GT-S アイサイトに対し、インパネのカラーが、シルバーからブルーに変わる。機構上のSTI Sportとの違いは、STIがチューンしたビルシュタインの「ダンプマチックII」というダンパーを採用しているのに対して、こちらは通常のビルシュタインの倒立式ダンパーを採用している。
ダンプマチックIIは低速での快適性を確保するために、微低速用のバルブが付いており、高速域になるに従い、メインのバルブが働く仕掛けになっている。それ以外は、225/45R18のタイヤ・サイズも含めて前日のレヴォーグ1.6STI Sportと同じだ。で、STI信者からするとバチ当たりなことに、筆者はSTIチューンではないビルシュタインの1.6GT-Sのほうが街中での乗り心地がちょっぴりソフトで、快適だと思った。
1.6GT-S アイサイト アドヴァンテージ ラインのシート表皮は、人工皮革の「ウルトラスエード」と本革のコンビタイプ。オプションで、デジタルタイプのルームミラー「スマートリアビューミラー」も選べる。価格は前日の1.6 STI Sportが365万400円、本日の1.6GT-S特別仕様車が334万8000円。その差は30万円。あとからSTIを選んでおけばよかった……と、後悔するのがいちばん悲しい。
さりとて、特別仕様車のボディ色も捨てがたい。仮に色の好みだけで選んだとしても、高速ツアラーというレヴォーグ1.6の美点に変わりはない。
本来なら、江戸時代の宿場町の面影を残す町並みで有名な奈良井宿(長野県塩尻市)まで国道19号で行くはずが、カーナビに従っていたら中央道に乗ってしまい、岐阜の中津川ICまで往復することになって時間を浪費した。いや、秋晴れの下、高速ツアラーとしてのレヴォーグを楽しんだ。
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ボディカラーは特別設定色の「クールグレーカーキ」。ブラックの18インチアルミホイールは特別装備。長野県塩尻市奈良井にある奈良井宿は、中山道34番目の宿場だった。奈良井宿でそばを食したのち、5代目レガシィに乗り換えた。2009年、誕生20周年の年に登場したこのモデルで掲げられたコンセプトは、「グランドツーリング イノベーション」。北米市場の要請に応えてボディを大型化した。ホイールベースが4代目の2670mmから2750mmに、全幅が同1730mmから1780mmへと、5ナンバー枠を大きく超えた。
エンジンは2.0リッターを廃止し、2.5リッターSOHCと同DOHCターボ、それに水平対向6気筒の3.6リッターDOHCがクロスオーバーのアウトバックにのみくわわった。
リニアトロニックと呼ばれるCVTが、4気筒に組み合わされることになったのも、3代目でストラットからマルチリンクに改良されていたリア・サスペンションがダブルウィッシュボーンになったのも、このモデルからだ。
【主要諸元(2.5i Sパッケージ アイサイト)】全長×全幅×全高:4790mm×1780mm×1535mm、ホイールベース:2750mm、車両重量:1540kg、乗車定員:5名、エンジン:2457cc水平対向4気筒DOHC(170ps/5600rpm、229Nm/4000rpm)、トランスミッション:CVT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:225/45R18、価格:283万5000円(OP含まず)。搭載するエンジンは2457cc水平対向4気筒DOHC(170ps/5600rpm、229Nm/4000rpm)。ターボ版は6MTも選べた。トランスミッションはCVT。シフトレバーのうしろにあるダイヤル式スウィッチは走行モード「SI-DRIVE」の切り替え用。電動パーキングブレーキは全車標準。2008年9月にアメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズが倒産し、麻生太郎首相(当時)が「100年の一度の危機」と表現した、いわゆる“リーマン・ショック”が先進諸国を襲った。2008年に60万台だったスバルの生産台数は2009年、50万台弱に落ち込んだ。そんななかで大型化されたレガシィに国内の自動車ジャーナリストは「ニッポン無視?」と疑問符をつけた。ご存じのように、その大型化レガシィは思惑通り北米で大ヒット。スバルの生産台数はあれあれよと増えつづけ、2016年に100万台を突破して現在に至っている。
試乗車は2011年の2.5i S Package EyeSightというNA搭載モデルである。スバル大躍進のもうひとつの功労メカ、先進運転支援システム「アイサイト」は、2011年6月にレガシィに施されたマイナーチェンジによって搭載グレードが拡大されている。試乗車はそのマイチェン後のモデルだ。
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ステレオカメラを使った先進安全装備群「アイサイト」を初搭載。アイサイトの作動状況は、メーターパネル内のインフォメーション・ディスプレイ(モノクロ)に表示される。ステアリングホイールはACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)のスウィッチ付き。はや8年も前のことで、夜泣きしていた赤ちゃんがハイハイから直立歩行し、喋ったかと思えば幼稚園、春になれば卒業式、小学校の入学式を迎えて、いま2年生、というような歳月だけれど、筆者的にはつい昨日のことのようです。
S Packageというのは18インチ・タイヤとビルシュタイン製ダンパーを備えるモデルで、試乗車はブリヂストンのポテンザRE050Aを履いている。スポーティさを強調したモデルゆえ、街中での乗り心地は少々硬いと思ったけれど、中央道にあがってしまうとこれが快適に転じる。
全車横滑り防止装置を搭載。タイヤサイズは225/45R18。シルバーの加飾を各所に使ったインテリア。インテリアカラーはブラックのほか、アイボリーも選べた。ドライバーズ・シートは10ウェイ電動調整機構付き。最高出力170ps、最大トルク229Nm を発揮する2457ccのフラット4 SOHCは、現代でも通用する。排気量が大きくなっても、スムーズなのはやっぱりフラット4という形式ゆえだろう。
それと、4WDの安心感。室内はこれまで乗ったなかで1番広くて、楽チンだ、と後席住人のカメラマンのヤスイさんの評判もいい。助手席のイナガキさんも、しばしスヤスヤと眠っている。
センターアームレスト付きのリアシートはリクライニング機構付き。リアシート専用のエアコン吹き出し口。ラゲッジルーム容量は、通常時520リッター。リアシートのバックレストは、ラゲッジルームサイドにあるレバーで倒せる。リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式。ラゲッジルームのフロア下には、小物入れ用の収納スペースがある。「より遠くまで、より快適に、より安全に」。スバルのグランド・ツーリング思想、ここにあり。
「ノスタルジーではなく、われわれの進化を知ってほしい」と広報のK氏は強調していたけれど、『SUBAR GT EXPERIENCE』は1989年初代レガシィから現代のレヴォーグ1.6まで、時空を飛び越える、夢のような旅だった。【前編はこちら!】
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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