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曰く付きのポルシェ「901」、本家がレストアするとどうなるか? 【Playback GENROQ 2018】

掲載 更新 34
曰く付きのポルシェ「901」、本家がレストアするとどうなるか? 【Playback GENROQ 2018】

1964 Porsche 901 No.57

1964年式 ポルシェ901“No.57”

曰く付きのポルシェ「901」、本家がレストアするとどうなるか? 【Playback GENROQ 2018】

完全なる復活劇

2017年12月、ポルシェ・ミュージアムは新たな収蔵車となるシャシーナンバー300 057の1964年型タイプ901をお披露目した。3年の月日と手間をかけ、ボロボロの状態から蘇ったNo.57はポルシェのレストア技術の粋を集めた1台ともいえるものだった。

「1964年までに82台が造られたといわれる極初期の“901”」

ポツダム郊外で自動車の機械工をしていたベルント・イーボルトは、1971年に1台の赤い“ポルシェ911”を手に入れた。今となっては当時の状態がどうだったか知る由もないが、彼はこの911に特別な“意味”があることを知っていた。そして1975年に廃車にした後、仕事をリタイアした後にレストアしようと、部品取りに購入した1968年型の911Lとともに倉庫の中に仕舞い込んだ。

この赤い911に再びスポットライトが当たるのは、2014年のことだ。経済的に困窮していた姿を見かねたイーボルトの娘がドイツのお宝発掘番組に出品することにしたのだ。そこで鑑定役を頼まれたのが、ポルシェ・ミュージアムだった。

「車名が901から911へ変更されることが決定した日にラインオフした個体」

“300 057”という車体ナンバーを最初に聞いたとき、ミュージアムの車両管理責任者のアレクサンダー・クラインはその耳を疑ったという。なぜならNo.57は、1964年までに82台が造られたといわれる極初期の“901”のうちの1台であるからだ。しかもその後の調査でNo.57がラインオフした日が1964年10月22日であることも判明した。それはまさにフェリー・ポルシェ博士がプジョーからの抗議を受け、車名を901から911に変更することを正式に決断した日でもあった・・・。

911Lと合わせて1万ユーロになれば・・・と思っていたイーボルトに対し、ミュージアムはNo.57だけで10万7000ユーロを提示。“いつかレストアしたい”という彼の願いとともに引き継がれることになった。

個人的にこのNo.57の存在を知ったのは、2015年に発行されたポルシェのオフィシャルマガジン、クリストフォーラス372号の記事だった。左右のフロントフェンダーとドアが欠落し、あちこちが埃と錆で覆われたNo.57の姿は、とてもショッキングだったのを覚えている。

「ナロー・ポルシェのレストアは非常に困難な作業を伴う」

あれから3年近くが過ぎた2017年12月13日。ポルシェは翌日からの一般公開を前に世界中のジャーナリストを対象にレストアが完成したNo.57のレストアに関するワークショップを開催。目の前に現れたのは、あの記事の姿が想像できないほど見事に蘇ったNo.57の姿だった。

約2年にわたり、本誌のロングターム・レポートで1972年式911Sのレストア記を担当している身としては、本家ポルシェ・ミュージアムがどのようなレストアをしているのか? ということに非常に興味をもっていた。というのも、記事をご覧の方ならご存知の通り、ひとくちに“ナロー”といっても、シリーズや年式毎に、形状やディテールの違いが無数に存在しているうえにボディ構造が複雑で、ウイークポイントであるフロントセクションやサイドシルが腐っていた場合、非常に困難な作業を必要とするからだ。

「ドナーとして1965年モデルのボディを購入し該当部分を移植」

今回のプロジェクトの責任者でもあるクラインによると、No.57のボディは思いのほか状態が良かったものの、フロントフロア、右インナーフェンダー、サイドシル、左右のドアヒンジポストの付け根などが朽ちていたうえ、運転席側のフロアには雑に補修された跡が残っていたという。

貴重な個体ゆえ、なんでも新品に交換するのではなく、可能な限りオリジナルを残して鉄板を継いでいくという方法が採られたのだが、驚いたのはその仕事の徹底ぶりだ。

まず様々な部品が外されたボディはブラスト処理するのではなく、特殊な薬品のプールに浸けて表面の塗装、アンダーコート、錆を剥離。そのうえで再生不能な部分を切除し鈑金していくのだが、量産モデルと各部の形状が異なるうえ、現在のスチールとは材質や厚みも違うことから、ドナーとして1965年モデルのボディを購入し該当部分を移植したのだそうだ。

「12ヵ月をかけて完成したボディは991の生産ラインで陰極ディップコーティングを施工」

またリヤフェンダーとサイドシルの接合部などパネルの合わせ目は、パテではなく当時の生産ラインと同様にハンダを盛って整形。こうして12ヵ月をかけて完成したボディは、恒久的に保存するため、991の生産ラインで陰極ディップコーティングによる完璧な防錆処理が施された。

ほかにも、バンパーとともに失われていたフロントのオーバーライダー、葉巻ホルダーの付いた灰皿など1964年型特有のディテールながら入手不可能なパーツは、設計図や残された実物の一部を元に3Dスキャンで型を作り再生。さらにハンドメイドのリヤグリルのデッドストックを北米で見つけ購入したり、メッキパーツやウインドウは、チッピングなどを丁寧に取り除いたうえで磨き上げて再使用するなど、形だけでなく風合いまでも当時のオリジナルを再現する努力が払われている。

「No.57に関わったすべての人々の“ポルシェ愛”の結晶」

それはエンジン、ギヤボックス、サスペンションといったメカニカルパートにおいても同様なのだが、ひとつ大事なことがあるという。

「No.‌57に限らず、ポルシェ・クラシックで行う一般カスタマーのレストアもオリジナルに忠実であることがモットーです。ただ、いかなる場合においても“安全が優先する”というのが我々のポリシーでもあります。例えばNo.‌57では、コルク製のガスケットは最新のマテリアルに、ハーネスはFシリーズ用の新品に、そしてボディから採取されたものをベースに調合したカラーコード6407のシグナルレッドの塗料は環境に配慮して水性塗料に置き換えられています」

こうしてイーボルトの想いを引き継いだNo.57のレストアは完成をみた。それはまたポルシェ・ミュージアムの高い見識やポルシェ・クラシックの技術力の象徴であるだけでなく、No.57に関わったすべての人々の“ポルシェ愛”の結晶のように思えた。

TEXT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/ポルシェジャパン、藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)

※GENROQ 2018年 3月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

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みんなのコメント

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  • 手間暇かけて、凄い復刻だね。賛否両論ありますがすごーい!見事!としか言いようがない。
  • 世界中のメーカーが雪崩を打って「電動化」の波に乗る現在
    「内燃機による自動車産業の遺産」だからね。

    改めて、所有する空冷911を
    今後も大切に乗ろうと思いました。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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