フォルクスワーゲン由来の空冷フラット4
今回ご紹介するポルシェ356/2は、32番目に作られた個体。オーストリアに工場のあった自動車メーカーのタトラ社で、一部が組み立てられている。
【画像】911の貴重な出発点 ポルシェ356 エレクトロモッド版と最新の992型も 全116枚
完成したのは1950年6月12日。フォルクスワーゲンの輸入代理店、スウェーデンのスカニア・ヴァビス社によって、他の14台とともにヨーテボリへ運ばれている。
ポルシェの歴史は興味深いが、オリジナルの356/2も印象深い。金属製のボディは繊細。いかにも軽そうなパネルは、レシプロ飛行機へ通じる可憐さがある。
全高は1300mmあり、現行の992型ポルシェ911より背が高い。タイヤがフェンダーの内側へ入り、斜めから眺めると、滑らかなボディが空中に浮いているよう。約80年前に想像した、未来の乗り物のようでもある。空気抵抗を示すCd値は、0.3を切るとか。
1949年のAUTOCARは、スイス・ジュネーブ・モーターショーで発表された356/2を紹介。「戦前のアウトウニオン・グランプリマシンのデザイナーによる優雅なクーペは、技術的に注目に値します」。と伝えた。
1951年には試乗。「流線型のクルマという印象。80km/h以上へ向けた加速力は、エンジンの排気量から想像する以上です」。と報じてもいる。
フォルクスワーゲン・ビートルを見慣れている人なら、356/2のエンジンは目新しいものではない。小さなリアハッチを開くと、空冷フラット4が収まっている。恐らく、フォルクスワーゲン・キューベルワーゲン用がベースだ。
キャブレターは、シングルではなくツイン。ポルシェによるチューニングで、最高出力は25psから40psへ向上している。
いい感じでヤレたワインレッドのレザー
軽いドアを開くと、上品なインテリアが広がる。ベンチシートへ腰を下ろすと、大きなステアリングホイール。腕まわりの空間は驚くほど狭い。ドアは、想像より強く閉める必要があった。
メーターと呼べるのは、ドライバー正面の速度計だけ。油圧計も備わるが、現在は修理中らしい。ダッシュボードには、小さなスイッチ類も数個並ぶ。フロアから、3枚のペダルが伸びる。
車内にはボディと同じ塗装が露出し、ワインレッドのレザーはいい感じでヤレている。ツイードのカーペットが魅力的。シート後方には、カーペット敷きの大きな荷室が広がる。
キーを捻りながら、アクセルペダルを軽くあおる。フラット4が目覚め、アイドリングが静かに始まる。プラスティック製のボールが載ったシフトレバーを避けるため、ベンチシートは中央が切り欠かれている。ゲートに入るような感覚は薄く、動きは曖昧だ。
1951年のAUTOCARの試乗レポートでも、トランスミッションのノイズと、シフトチェンジの難しさを指摘している。1速と2速には、変速時にギアの回転数を合わせるシンクロメッシュがなく、ダブルクラッチが必要。それでも、筆者には大きな問題ではない。
少なくとも、1973年式のビートルよりは変速しやすい。アクセルペダルは重めで、ペダルの間隔は広い。ブレーキペダルのストロークは長いが、踏み込めばしっかり効く。
40psから想像できないほど加速は活発
4000rpmで最高出力を発揮するエンジンは、パワーバンドが意外に広い。4速のレシオはロングだが、柔軟で粘り強く巡航しやすい。ギア比は、シュツットガルト時代と同じなら、3.54:1、5.54:1、9.17:1、15.95:1と変化するはず。
最高速度は136km/hとのことだが、長い時間をかけても、本当に到達できるのだろうか。ウォームギアが組まれたステアリングラックはスローで、高速で走りたいとは思えないけれど。
グレートブリテン島南部、バークシャーの道は幅が狭い。希少性を知るほど、リアエンジンとスイングアクスル、短いホイールベースという構成がもたらす、シャシー特性を確かめることは難しい。相当なオーバーステアなことは間違いないだろう。
車重は700kgと軽い。細いタイヤはサイドウォールが厚く、乗り心地は落ち着いていて快適。この頃は、引き締めた設計をしようと考える人は少なかった。
僅かにしなるシャシーは、長い月日を経過している。ステアリングは、入力を加えてから反応するまでに、ワンテンポ遅れる。トレッドが狭いから、やや神経質でもある。
それでも、40psの最高出力からは想像できないほど、加速は活発。1951年のル・マンでは、改造されたクーペが46psで160km/hに届いている。751-1100ccのクラスで、優勝したとしても不思議ではない。
コンベンショナルな機械構成が生む体験
間違いなく、32番目の356/2は特別な雰囲気で満ちている。貴重なポルシェであることも、しっかり実感できる。ところが不思議なことに、深く魅了されるほどの体験かと聞かれると、言葉に悩む。
想像するに、フォルクスワーゲンを由来とする、コンベンショナルな機械構成が生む「味」から逃れることはできないのだろう。同等の価値がある、レースで優勝したV12エンジンのフェラーリとは明らかに違う。
「最もオリジナルと呼べる、356の1台ですよ。すべての素晴らしいクルマと同じくらい、この356/2も希少性を感じさせる雰囲気で溢れています」。DKエンジニアリング社のジェームズ・コッティンガム氏が説明する。
素晴らしい状態にある、ザ・オリジナル。貴重なポルシェ・コレクションを完成させたいと考えるマニアは、競って欲しがるだろう。最高のスポーツカーの起源にある1台だ。
実際、今でも実用に耐え、見た目や乗り心地も素晴らしい。マニアにとって、これはさほど重要な事実ではないかもしれないが。
協力:DKエンジニアリング社
ポルシェ356/2(1948~1951年/欧州仕様)のスペック
英国価格:850ポンド(新車時)/270万ポンド(約5億1840万円)以下
生産数:52台
全長:3870mm
全幅:1669mm
全高:1300mm
最高速度:136km/h
0-96km/h加速:23.5秒
燃費:13.1km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:700kg
パワートレイン:水平対向4気筒1086cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:40ps/4000rpm
最大トルク:7.1kg-m/2800rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)
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みんなのコメント
違ったり(部品の手配次第だったり) そんな事を想像してしまう。