欧州で開催されたスニークプレビューやワークショップ、そして国際試乗会までも本誌が追い続けてきた992型となる新型911に、いよいよ日本でテストドライブすることができた。果たしてそのパフォーマンスは期待を上回っていたのだろうか。(Motor Magazine 2019年11月号より)
モデルチェンジごとに出力と効率をアップ
1964年にデビューした初代から数えて8代目。18年末に開催されたロサンゼルスモーターショーで初披露されたコードネーム992型と呼ばれる「最新の911」が、いよいよ日本上陸だ。
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まずはカレラS/カレラ4Sと、「S」の記号が与えられたハイパフォーマンスなクーペバージョンからローンチされた992型は、その後カブリオレボディ、そしてベーシックなカレラシリーズと、すでに着々とバリエーションを拡充中である。
伝統の「猫背型」ボディの最後端に低く搭載されるツインターボ付き3L水平対向6気筒という心臓部の基本デザインは、いずれのモデルでも共通となる。一方、Sグレード用は最高出力450psに最大トルク530Nm、ベースグレード用は385psに450Nmと、同じ排気量ながらそのアウトプットに明確な差を設けることで歴然たるヒエラルキーをアピールするのは、従来の991型同様の戦略なのである。
加えれば、「モデルチェンジのたびに出力と効率をアップさせる」というポルシェならではの流儀は今回も踏襲され、従来型用の心臓と比較をすると、Sグレード用で30psと30Nm、ベースグレード用では15psが上乗せされた。
そんなエンジンはキャリーオーバーと紹介されるものの、ピエゾ式インジェクションシステムや非対称インテークカムシャフトを用いた可変バルブ制御システムの初採用などによる本体のリファインや、インタークーラーレイアウトの変更、ターボチャージャーの設計変更など、実は極めて多岐に及んで手が加えられたことで、前出ポテンシャルのアップが実現されていることになる。
懐の深いワイドボディを後輪駆動モデルにも採用
前出911独特のシルエットに加え、フードよりも高い位置に置かれたヘッドライトなどによって、今回も「どこから目にしても911そのもの」と言える992型のスタイリングである。一方、新たに「中央部がへこんだプレスライン」が加えられたフロントフードや、水平基調が強調されたダッシュボードなど、「空冷エンジン時代」へのオマージュがかつてなく強く演じられているのが、新しい992型ならではと言えるルックス面での特徴でもある。
後輪周辺のボリューム感溢れる造形は、歴代911ならではの特徴だが、今回そうした傾向がより強まって感じられるのは、従来は4WDモデルに限って採用されていたいわゆる「ワイドボディ」が、後輪駆動モデルにも展開されたためだ。
その背景には、後輪が前輪よりも1サイズ大径な前後異径タイヤが標準化されたことがある。「大きな後輪」を収めるため、懐の深いワイドなリアフェンダーが、全モデルで必須となったのだ。
一方、オプションのスポーツクロノパッケージとの組み合わせで用意される992型での「売り」となる、湿潤路面上での走行安定性を高めるウェットモードは、そんな大径化が図られたタイヤに対応したとも考えられるアイテムである。大径化によって接地面形状が縦長となれば、ハイドロプレーニング現象への対応は、より難しくなると考えられるからだ。
この先のMT仕様の設定も否定されていないものの、今のところ発表済みの992型のエンジンが組み合わせるトランスミッションは、パナメーラ譲りの8速DCTのみ。4WDシステムもアップデートが図られ、「フロントのクラッチ及びディファレンシャルユニットが水冷式となって、より大きなエンジントルクの伝達が可能になった」というのが技術的なトピックのひとつだ。
テストドライブを行ったクーペは、そんなシステムを搭載したカレラ4S。レーダーを用いたアダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなど、最新のモデルらしいADASの装備に始まり、アクティブスタビライザー「PDCC」やリアアクスルステアリング、ドライブモードをワンタッチで変更させるスポーツクロノパッケージなど、走りの性能に直接関与するアイテムも多数オプション装着していた。
中央に配置されたタコメーターはアナログのまま残された
リトラクタブル式へと改められたハンドルを引いてドアを開き、いかにもスポーツカーらしく低い位置のドライバーズシートへと、スポーツカーらしく前方に足を投げ出す姿勢で腰を降ろす。
こうして、着座位置がそれなりに低いにもかかわらずカウルトップも相対的に低く、ドアミラー周辺の「抜け」もしっかり確保されることで視界に優れているのも、実は歴代911ならではの美点のひとつである。まずはトラクション能力の強力さが長所に挙げられるリアエンジンレイアウトは、同時にこうしたメリットも生み出している。
そんな911も時代の流れには逆らえず、今回はメーターのバーチャル表示化やディスプレイスイッチの採用が大幅に進む結果に。そうした一方、クラスター内中央にレイアウトされたタコメーターはメカ式のまま据え置かれ、状況に応じて即時の操作を行いたくなるドライブモードの切り替え機能や、空調コントロール類がハードスイッチとして残された点には、いかにも「操作系を走りながら作り込んだ」という開発の過程がうかがい知れる。
一方、このように扱いやすい操作系にもポルシェらしさが感じられる中で残念だったのは、前出ADASのひとつであるレーンキープアシストのON/OFF操作が、センターディスプレイ内のアイコンのみでしか行えない点である。
レーンキープアシストの機能が有難く思えるかそうでないかは、走行状況によって千変万化するもの。それに即応した操作のためには、手元に置かれてブラインドタッチが可能なスイッチが不可欠であるはずだからだ。
相変わらずの心地良い911サウンド
「それにしても、911はやっぱりいいな!」と、走り始めた瞬間に感心したのは、今回もやはりその心臓部だった。たとえアイドリングストップの状態からでも、目覚めた瞬間の低回転域から力感に溢れるのは言わずもがな。
街乗りで幹線道路を軽く流して行くような場面から、軽くアクセルペダルを踏み加えた際の(いい意味での)ターボ付きであることをまったく意識させないリニアなエンジントルクの上乗せ感なども、何とも心地良く「ゴキゲン」なのだ。
加えれば、そんな動力性能に磨きを掛けていたのは、高まりに伴ってレスポンスのシャープさを増して行く、いかにもスポーツ心臓らしいその回転フィーリングと、相変わらず「911サウンド」と表現したくなるその音色。6気筒時代に比べ精彩を欠くこととなった718ボクスター/ケイマン用の4気筒ユニットとは対照的に、こちらの魅力はターボ化された今になってもしっかり健在!
スペインで開催された国際試乗会での経験よりも「もしかすると良い音がしている」と思えたのは、欧州仕様にはマストとなった微粒子フィルターの装着が、日本仕様では免除されていることとも関係があるかも知れない。
「スポーツ」のモードを選択してすらなお特筆すべき水準にあるフラット感に富んだフットワークのテイストは、しかし従来の991型での経験からすればむしろ「予想どおり」とも思えたものである。しかしながら、これでフロントに245/35の20インチ、リアに305/30の21インチタイヤを履いているというのだから、そのボディコントロールの完璧さには、もはや「あきれるばかり」というのが本心だ。
一方、そんな992型が歴代911シリーズの中でも、すこぶる俊敏なハンドリング感覚の持ち主であるというのも、実は見逃せないポイント。とくに、今回そんな印象を新たにすることとなったのは、テスト車が複数の「走りのオプション」を採用していたこととも大きく関係がありそうだ。
かつて、水冷化された直後に日本での価格が「1000万円切り」したタイミングがあったことを思い出せば、最新の911が「なんとも高価になったな」と言いたくなるのは事実であるが、ボクスターやケイマンの人気定着を踏まえ、911がかくもスーパースポーツカーの方向へと舵を切ることが可能になったというそんな現状もまた、『ポルシェ成功』の証のひとつであるはずだ。(文:河村康彦)
■ポルシェ911カレラ4S主要諸元
●全長×全幅×全高=4520×1850×1300mm
●ホイールベース=2450mm
●車両重量=1610kg
●エンジン= 対6DOHCターボ
●排気量=2981cc
●最高出力=450ps/6500rpm
●最大トルク=530Nm/2300-5000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速DCT
●車両価格(税込)=1804万8148円
[ アルバム : ポルシェ911カレラ4S はオリジナルサイトでご覧ください ]
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