巨大リアウイングに妥協ない空力機能
近年のバッテリーEVやハイブリッド・スーパーカーの最高出力に見慣れてしまうと、最新のポルシェ 911 GT3 RSが発揮する525psには驚かないかもしれない。だが、このクルマの核心はそこではない。
【画像】前例ないシリアスさ ポルシェ911 GT3 RS 競合するスポーツモデルと比較 GT3も 全151枚
レン・スポルトを冠する軽量で特別なGT3 RSには、ワイドなボディに数多くの最新技術が投入されている。ただし、992型の911 GT3より車重は若干重く、最高出力は僅かに高いものの、最大トルクは若干だが細い。
さらに英国価格は、911 GT3より3万3000ポンド(約544万円)も高い。確かに、一見すると大きなアドバンテージはなさそうに思える。
しかし、このGT3 RSはポルシェのGT部門が手掛けた、エクストラ・スペシャルな911だと断言できる。実際、ファンの間では極めて高い人気を誇り、購入希望者のなかでも手にできる人は一握りに限られる。
彼らは、凄まじいダウンフォースに吸い寄せられているのかもしれない。何しろ、911のレーシングカーより強力なのだ。
過去に例がないほど、最新のGT3 RSには巨大なリアウイングが与えられた。その高圧的にすら見える幅や高さには驚かされる。加えて、空力的な付加物にも妥協はない。いかにもレーシングカー然とした容姿だ。
ボディ幅いっぱいに広がったリアウイングには、油圧で角度が変化する、アクティブ・ドラッグリダクション・ベーンと呼ばれる機能も組み込まれている。フロントノーズの下側には、同様に働くアクティブ・フラップが内蔵されている。
GT3カップより強力なアクティブエアロ
これらが機能すると、284km/hでの走行中に最大860kgのダウンフォースが生成されるという。実に、991型911 GT3 RSの2倍以上の力でボディが路面へ押さえつけられることになる。マクラーレン・セナが同等の速度で生む力より大きい。
さらにいうなら、最新の911 GT3カップ・レーシングカーよりも強い。ポルシェの開発ドライバーが公道用のGT3 RSからスリックタイヤを履くGT3カップに乗り換えた場合、コーナーではスピードを若干落とす必要があるかもしれない。
このアクティブエアロの賢いところは、ダウンフォースを必要な時に必要なだけ生み出せること。ドライバーはボタン1つで、アクティブエアロのスイッチを切ることができる。そうすれば、抵抗を抑えて直線スピードを稼ぐこともできる。
オンの状態なら、必要なダウンフォースを生成するよう、制御をGT3 RSにお任せできる。グリップ状態に合わせて。
ポルシェは、ワイドなボディや広がったトレッド、大径のホイール、アクティブエアロにまつわる電動アクチュエーターや油圧システムなどで増える重量を、可能な限り相殺した。その結果、車重は1450kgに留めている。
フロントフェンダーやバンパー、ドア、ルーフ、ボンネットはカーボンファイバー製。クラブスポーツ・パッケージに設定されるスチール製のロールケージも、希望すればカーボン製に変更できる。
路面が濡れていても確実に機能する
それでも、GT3 RSは同等の装備のGT3より15kg重いという。直線加速の勢いではGT3 RSの方が勝るが、それは専用のカムシャフトが生むプラス15psと、ショート化されたギア比による結果だ。
今回試乗した英国シルバーストーン・サーキットの路面が乾いていれば、この壮大なGT3 RSの能力をしっかり確かめられただろう。突出した横方向のグリップ力や高速域での安定性、強力な制動力に、舌を巻いていたに違いない。
ところが実際はウェット。既に手を焼くほど速いGT3に対して、どこまでGT3 RSの能力が高められているのが、つぶさに判断することは難しかったといわざるを得ない。多少は確かめられたけれど。
GT3 RSは、これまでのGT3より目に見えて鋭く加速するわけではないようだ。カタログ値の0-100km/h加速は3.4秒に対し、3.2秒がうたわれている。
しかし、よりダイレクトなステアリング・レスポンスと、それに同調する鋭い身のこなしを実現させている。歴代の、ボディ幅の広いRSモデルを特徴付けてきたものといえる。
今回の目玉といえるアクティブエアロは、路面が濡れていても確実に機能する。タイヤがアスファルトへ押さえつけられているのを体感できる。シャシーはピタリと路面へ吸い付き、高速コーナーでの安心感には関心する。
スピードが落ちるとダウンフォースが減り、グリップ力も明らかに落ちる。雨の日には、ミシュランのカップ・タイヤだけでは充分なグリップ力を得られないことを、思い出させてくれた。
この続きは後編にて。
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