この5月、フランスのルノーから、魅力的な新型車が登場した。今、大ブームのクロスオーバーモデル、それもルノーが「ダイナミッククーペSUV」と呼ぶアルカナだ。日本仕様として導入されたのは最上級グレードと言えるR.S.LINE E-TECH HYBRIDである。そのクーペライクかつ流麗なルーフライン、SUVらしく頼もしい下半身のエクステリアデザイン、そのエクステリアに呼応するブラックにレッド&ホワイトのステッチが随所に施されたスポーツシートを奢るスポーティなインテリアもさることながら、アルカナ最大の特徴は、輸入車のフルハイブリッド車であることだ。
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プラットフォームは走りに定評ある、ルノー・日産・三菱のアライアンスから生まれた、ルーテシア、日産ノートなどにも使われるCMF-Bを用いる。ボディサイズは全長4750×全幅1820×全高1580mmと、日本の路上でも大きすぎず、そしてSUVとしては低全高なのがポイントだ。駆動方式はFFのみだが、最低地上高200mmを確保。オールラウンダーとしての実力が垣間見える。
E-TECH HYBRIDによるパワーパッケージは1.6L直4エンジン、94ps、15.1kg-mに、駆動用のメインモーター49ps、20.9kg-m、サブモーターとしてHSGと呼ばれるハイボルテージスターター&ジェネレーター、20ps、5.1kg-mが加わったもの。そしてマルチモードATとして、ルノーF1由来のダイレクト感ある走りを実現する軽量コンパクトなドグクラッチを採用する。具体的にはエンジン側に4速、モーター側に2速のギヤを組み込んだ12通りの組み合わせを持つミッションで、メカニカルロスの少ない切れ目のない変速、変速ショックのなさを特徴とする。結果、WLTCモードで22.8km/Lというハイレベルな燃費性能を実現している。
HV、電動車乗りとしては気になるハイブリッドシステムの走行条件だが、出足から約40km/hまでは基本的にモーター走行。約40~80km/hまでがエンジンとモーターを併用するいわゆるハイブリッド走行、約80km/h以上のエンジンの効率がよい領域ではエンジンによる走行になると説明される。
この時代に欠かせない先進運転支援機能は日産とのアライアンスが生きたもので、そう、プロパイロット1.0相当を標準装備。歩行者、自転車検知機能付きのアクティブエマージェンシーブレーキ(衝突軽減ブレーキ)はもちろん、ストップ&ゴー機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)、レーンセンタリングアシスト、360度カメラ、イージーパーキングアシストなどをフル搭載。なお、ACCは高速道路上において約60km/h以上でONが可能。設定速度の上限はさすがの欧州車で160km/hとなっている(プロパイロットは130km/hまで)。
ACCが約60km/h以上でしかONにできないと聞くと、渋滞中は機能しないのか?・・・と思いがちだが、「ストップ&ゴー機能付き」とあるように、60km/h以上で走行後、渋滞などで速度が落ちた際も0km/h~のストップ&ゴー機能が作動する(つまり渋滞追従機能付き)。ただし、完全停止した状態での機能保持は約3秒。それを過ぎるとスイッチ、アクセル操作での再スタートとなる。電子パーキングブレーキやオートブレーキホールド機能、そしてブラインドスポットモニターなども装備されるから、基本的な先進運転支援機能はほぼ完ぺきと言っていいだろう。
クーペライクなスタイリングから、先進感とスポーティ感あるインテリアはけっこう狭そう・・・と思うのは間違い。身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で前席頭上に160mm、後席頭上に110mm、膝周りに160mmの余裕があり、筆者が後席に座っても狭さを感じることはない。しかも、後席のフロアからシート先端までの高さ=ヒール段差が350mmと比較的高く、自然な着座姿勢が取れ、後席エアコン吹き出し口や2つのUSBソケットもあるため、居心地は外から想像するよりはるかに良いと言っていい。ドアパネルはサイドシルを覆う、本格SUVと同じタイプだから、雨の中や泥道を走った後でもサイドシルの汚れ最小限で、乗降時に衣服を汚しにくい配慮もうれしい。
クーペルックだけに居住性同様に心配されるラゲッジルームはどうか。開口部地上高765mmは決して低くはないが、フロアは奥行き980mm(後席格納時1600mm)、幅1000mm、天井高最小400~最大740mm(フロアボード下位置/後席格納時には段差ができる)と、十二分。さすがにフロア手前部分はバックドアの傾斜が強いため、フロア後部に背の高い荷物の積載は難しいが、日常使いからリゾートライフ、そしてアウトドアまで使いやすいラゲッジルームと言えそうだ。
さて、アルカナを走らせてみよう。ドライブモードはECO、SPORT、ノーマルモードのMy Senseの3つ。センターディスプレー下に並ぶスイッチ、そしてタッチスクリーン式のセンターディスプレー内で選択できる。スタートはもちろんモーター走行だ。静かにスムーズに発進し、その状態はすでに報告したように最大約40Km/hまで持続し、電動車感はなかなかだ。無論、バッテリーの状態、約40km/h以上になればエンジンが始動し、ハイブリッド状態になるのだが、ドグクラッチミッションの変速のスムーズさと合わせ、極めてシームレスで、エンジンがかかったことなどほぼ気づかせない制御が好ましい。そして、電動車らしいアクセルレスポンスの良さも特筆できる。つまり加減速コントロールがしやすく、実に走りやすい。
韓国製のKUMHO、215/55R18サイズのタイヤを履く乗り心地は、良路では快適そのもの。が、荒れた路面、ザラついて路面ではやや硬さを感じさせるものだ。が、それは最低地上高200mmによる重心高、そしてレーンチェンジでの安定感を念頭に置いたものだと推測できる。とはいえ、R.S.LINEのスポーティで”熱い”インテリアデザインとのマッチングと考えれば、なるほどである。フワフワ、柔らかすぎる乗り心地はR.S.LINEに似合わない。
速度を上げていけば、やがてエンジン主体の走りになるのだが、さすがルノーユニット、高回転までスムーズさとともに回したときの控え目な快音がたまらない。気持ち良くて、思わず回したくなるエンジンである。
操縦性の良さもルノー一流だ。高速走行中のビシリとした安心感ある直進性、カーブを曲がった時の姿勢変化最小限の安定感、そして”曲がる楽しさ”さえ持ち合わせる。それを支えるのは、出来のいいシャシーだけではない。そう、R.S.LINE専用のスポーツシートの絶妙なホールド感である。カーブ、レーンチェンジの際の上半身の左右の無駄な動きが見事に抑えられ、視線が安定し、運転のしやすさだけでなく、長時間の運転での疲れにくさにも貢献してくれるはずである。なお、ドライブモードはそれぞれのモードにメリハリがあり、またECOモードでも十二分な加速力を穏やかに発揮してくれることを確認。もちろん、活発な走りを望みたいときはSPORTモードだが、当然ながら、ノーマルモードのMy Senseがオールマイティだろう。
ちなみにタッチスクリーン式のセンターディスプレーにナビ機能はない。手持ちのスマホを接続し、スマホのナビ機能を利用するタイプとなる(オプションでもマップ機能なし)。通信料が心配、という人もいるはずだが、ナビデータの更新料の支払い不要、常に新しい地図データが利用できるというメリットが上回る、という考え方もある。
こうした輸入クーペSUVはドイツ車を含め少なくないが、どれも高級、上級クラスの高額車がほとんど。しかしアルカナはモノグレードで429万円という、フルハイブリッド車として、そして車格感からして、かなりリーズナブルな値付けとなっている。
ルノー・アルカナ
文・写真/青山尚暉
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