過日の11月20日に納車となった、中古車評論家たる小生にとって初めての新車、スバルXV 2.0。新たに採用されたSGP(スバルグローバルプラットフォーム)については、どうやら今のところ世の中ほぼ満場一致で「素晴らしい!」という評価になっているようだ。
しかし過給器なしの2L水平対向エンジンや、流行りの多段ステップATではないリニアトロニック(金属チェーンを使ったスバル独自のCVT)については「惜しい!」とか「残念!」とか、場合によっては直截に「イマイチ!」などという厳しい意見も一部評論家筋からは聞こえてくる。
自家用車の平均速度が低下してきている?この変化の2つの要因とは
問題は「何と比較してそう思うのか?」ということ
これについて前回小生は、「時代の空気が変わったこと」と「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)が普及したこと」で、主に高速道路上の平均速度が下がっていること(※筆者独自調べ)を根拠に、「2L自然吸気エンジンもリニアトロニックも何ら問題なし!」と結論づけた。
しかし前回は「結論づけただけ」で終わってしまったため、今回はより詳細にその根拠らしきものを、実際のXVユーザーとしての視点で述べていきたい。
1.6L版については失礼ながら割愛させていただくが、新型XVの2L自然吸気エンジン+リニアトロニックという組み合わせに対する批判(というか「惜しい」との声)の内容は、主に下記の2点に集約される。
1. 簡単に言ってやや非力である。もうちょいパワーおよびトルクが欲しい。
2. CVTのせいで加速のリニア感が乏しいため、あまり楽しくない。
人によって言い方や強度はさまざまだが、「要するに言いたいこと」は上記2点であるはずだ。
これについては「で、何をもってそう感じるのか?」と考えることが重要であろう。
まずは「他のクルマと比較して」というのが考えられるわけだが、これはもう言い出したらキリがない話である。
新型XVが採用している2L自然吸気エンジン+CVTというパワートレインも、ノンターボの旧世代軽自動車から乗り替えた人は「超絶パワフルで反応も素早い!」と感じるだろうし、300ps超級の多段AT車に乗っている人からすれば「このクルマはかったるくていけねえな……」と感じることだろう。
それゆえ、ここは語ってもあまり意味のない部分である。
唯一言えるのは「2L級のクルマとしては別にぜんぜん非力じゃないです」ということだ。普通か、むしろ普通以上に用を足しますよ。ちなみにそう感じる小生は別に旧式のノンターボ軽自動車に乗っていたわけではなく、ルノー メガーヌRSやランチア デルタ インテグラーレEVO.II、ポルシェ911カレラ2等々をこれまで愛用してきた人間であるということを、いちおう申し添えておく。
過去の文脈で考えるなら、XVは確かにかったるい部分もある
結局のところ、「これまでの自動車趣味カルチャーの文脈にのっとって考えるならば、新型XVの2L自然吸気+CVTはイマイチ楽しくなくて、ちょっとかったるい」ということが言われているのだと、小生は理解している。
これはある意味そのとおりだ。
前述のとおり小生も6MTのメガーヌ ルノー・スポール等々に乗って、どちらかと言えば「うおおおおおおおおお!」というニュアンスで走っていた昭和生まれの中高年なので、それそのままの感覚と価値観でXV2.0のことを評価するならば、結論は多くの評論家諸氏とほぼ同じになる。すなわち「SGPは本当に素晴らしい。しかしエンジンはできれば1.6Lか2Lのターボが欲しかったし、CVTではなく多段ステップATにしてほしかった」と。
しかし今、小生は基本的にはそう思っておらず、自然吸気2L+リニアトロニックという組み合わせにほぼほぼ満足している。
なぜならば、冒頭で申し上げた「時代の空気が変わったこと」と「ACCが普及したこと」によって路上の文脈はすでに大きく変わっているからだ。そしてそれと同時に、というか連動して、「自動車趣味カルチャーの文脈」も変わるべきだと考えているからだ。
今の時代ならではのドライビングプレジャーとは何か
すでに亡くなられた高名自動車評論家氏が生前、どこかの雑誌に書いてらっしゃった文章に「ボクの若い頃は国道246号線とかも自家用車なんて数えるほどしか走ってなかったから、とにかく東京から御殿場とかまでひたすらカッ飛ばして楽しんでましたよ(大意)」というのがあった。
路上の文脈がそうであった時代ならば、たしかにXVにもターボが付いていたほうが圧倒的に楽しいだろうし、CVTではなくMTまたは多段ステップATのほうがより美しかったかもしれない。
しかし今はそんな時代ではない。「公道で飛ばす奴は低能」というなんとなくのコンセンサスが漂う、それなりに混雑した幹線道路や高速道路を、一部のクルマはACCをセットしつつ走る時代なのだ。そしてそのなかで、「じゃあ今の時代ならではのドライビングプレジャーっていったい何なのさ?」ということを考えるべき時代なのだ。
そういった時代において運転する限り、新型XV2.0は本当に「楽しい」クルマだ。
アイサイトver.3の「介入しすぎない絶妙な制御」をのんびりと堪能しつつ(アイサイトver.3の半自動運転はまるで人間と機械の共同作業のようで、あれはあれで新しい形のドライビングプレジャーだと思う)、時に手動で、凡百のクルマとはまるで異なる味わいのシャーシ性能をじっくりと味わう。そしてそのために、特に馬鹿げた違法速度を出す必要はない。少々の違法=当局も公式に黙認している交通の流れの範囲内ぐらい……でぜんぜん十分なのだ。
他人の意見は参考にあるが、あくまで「参考」でしかない
もちろん、そういった新規文脈内であっても「ここ一発のエンジンパワーとトランスミッションの素早い反応がもっとあったなら、さらに楽しいのに」と思う瞬間はある。世の評論家諸氏は、その部分を指摘してらっしゃるのだろう。そしてそこについては小生も同感である。なんだかんだ言って小生だって昭和の男ですから。
しかし、「そこ」はもう捨てちゃってもいいと思うのだ。
どうやって捨てるかとといえば、ひとつは時代の変化を認識することだ。「ズバッといきたいのは山々だけど、それってもう古いよね、ある意味。無段変速ならではの良さってのも確実にあるんだから、それを感じつつ、新幹線の運転士さん気分でスムーズにスーッと行きましょうよ。まぁオレ新幹線運転したことないけどさ、うわっはっはっはっはっ!」と。
もうひとつある考え方は「車両価格とのトレードオフ」だろうか。
「無論、ここでズバッとイケたほうがクルマ好きとして、いや人間の生理から見ても好ましいことは論をまたない。その意味で、XVにも1.6Lないしは2Lのターボと8速ATぐらいが載っていたらなぁと、吾輩もごくたまに思わないではない。しかしXVにそれらを載っけたら果たしていくらになる? 350万円か、450万円か? オプション込みの総額は500万円ぐらいか?
……車両250万円級で、総額でも300万円ちょいぐらいで収まるXVという安価なクルマが、ここまで強烈なシャーシ性能を炸裂させてくれているというのに、貴様それでもまだ文句を言うのか? 貴様それでも男か? 狭量すぎる! 喝だ喝っ!!! キエエエエエッ!!!」などという独り言をブツブツつぶやけば、いつの間にやらターボと多段ATを求める気持ちなど雲散霧消する。そして「うむ、これはこれでなかなか善きものである。バランスいいし」と、また独り言を言う。
……と、「新型XVのエンジンとCVTがかったるい問題」について小生は以上のように思っているわけだが、これは何もスバルXVに関してのみ当てはまる話ではないはずだ。
さまざまな新型車が、毎日のように「良い」とか「イマイチ」とかの評価にさらされている。しかしその評価軸そのものが今の時代に……というか今のあなたに合っているのかどうかは、あなた以外には絶対にわからない。
無論、毎日のように各種新型車の試乗業務に邁進しておられる評論家各氏の意見は、大いに参考になることは間違いないだろう。
しかしそれはあくまでも「参考になる」であって、「絶対」ではないのだ。
[ライター/伊達軍曹]
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