■超くさび形でミッドシップに4WDという、まさに「ドリームカー」
1960年代はマイカーの普及・高速道路の延伸による「高速化時代」の到来に応じて、車種やバリエーションの増加・性能向上が進み、国産車が急速に進化した時代です。
【画像】超カッコイイ! 日産の「“和製”スーパーカー」を画像で見る(33枚)
その一方で、クルマに関わる様々な社会問題も顕在化していました。
そんな中迎えた70年代最初の年、1970年秋に東京・晴海で開催された第17回東京モーターショーには、「安全対策」「大気汚染」に対する取り組みを紹介する「安全公害センター」が設置され、安全・低公害を追求した電気自動車や、クルマと社会のあり方への回答であるシティコミューターも参考出品されました。
しかしモーターショーには華やかさが必要です。未来的なスポーツカータイプのコンセプトカーも、各メーカーが競い合うように持ち込んでいました。
トヨタは、レーシングカー「トヨタ7」の5リッターV型8気筒エンジンをミッドに搭載したコンセプトカー「EX-7」を出展。
未来の都市間高速を安全・快適に移動できるグランドツアラーを目指していました。一筆書きで描いたような流麗な車体は全高わずか1050mmという低さで、乗降の際は屋根ごと跳ね上がる仕組みを持っていたEX-7は、まさにドリームカーといえる存在でした。
このほかマツダも、お得意のロータリーエンジンを載せたミッドシップスポーツカー「RX500」を展示しました。
EX-7とRX500は市販されませんでしたが、1970年代半ばに起こった空前のスーパーカーブームが到来する以前に、すでにこのような本格的なスポーツカーが国産メーカーから出ていたのは驚きです。
そして日産も、このショーに2台のコンセプトカー「126X」と「270X」を展示しました。
なかでも126Xは、EX-7と同様に都市間を高速で移動するグランドツアラーをコンセプトとして製作された4人乗りのコンセプトカーで、展示ブースには、「都市間交通の花形」「インターシティカー」などと記されていました。
126Xの見所は、何といっても極端なくさび形のボディ。同じ角度で駆け上がるボンネットとフロントウィンドウの傾斜は25度以下。大きく斜めに切り抜かれたサイドウィンドウと、それに沿うように車体下部に流れるモールディングも特徴です。
ボディ先端は抑揚が強い造形で、バンパー風のフレーム内は点灯するようになっています。低いボンネットにはリトラクタブルヘッドライト開口部のような線が入るほか、中央には縦に貫くグレーの帯を持ちます。
帯の中には赤・黄・緑色のライト計10個が縦に並んでおり、加速中は緑、減速中は赤、一定速度の際は黄色が点灯します。
これにより、歩行者はクルマがどのような動きをしているのか、視覚的に判断できるようにしたといわれていました。
一般的な横開きのドアは備えておらず、屋根・窓が一体となって前ヒンジで上に跳ね上がる仕組みを備えています。
車体後部には、3リッター直列6気筒の「H30型」を電子制御(EGI)化、180馬力を発生すると想定されたエンジンを、横置きに45度傾けて搭載。
後方視界はゼロだったので、車内のモニターで確認するようになっていたほか、追突防止の警報装置も備えていました。
しかも駆動方式は4WDとされていました。ミッドシップ+4WDの想定は、時代を大きく先取りしていたことになります。
ボディサイズは全長4890mm×全幅1890mm、ホイールベースは2800mmとかなり大柄でしたが、全高は1135mmしかありません。サスペンションは4輪ストラットを想定していました。
車内も変わりに変わっており、シート、床、ダッシュボードなど内装すべてが毛足の長い布で覆われています。ドライバーの目の前には円形のステアリングホイールはなく、操縦桿のようなデザインの銀メッキ製レバーが2本突き出しています。
なお、「とされた」「想定」という書き方をした通り、126Xは実際には走行できないモックアップだったものの、前衛的な126Xは大いに注目を集めたのです。
※ ※ ※
モータリゼーションや技術が未発達だった当時、クルマに対する夢は今以上に強いものでした。
そのため126Xのデザインはインパクトが大きく、筆者(遠藤イヅル)の年齢(1971年生まれ・53歳)前後の世代なら、図鑑や子供向けの本に頻繁に掲載されていたことを覚えている人も多いのではないでしょうか。
イギリスのミニカー「マッチボックス」でも製品化されており、海外にもインパクトを与えたことがわかります。今後も、126Xのような夢あるコンセプトカーの出現を願いたいと思います。
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みんなのコメント
メーカーなら販売しない車ならなんでも作れるだろう…、そんな時代だった。