マイナーチェンジを受けたシトロエン「ベルランゴ」に小川フミオが早速テストドライブ。フランスが手がけたミニバンは実に個性的だった。
デザイン変更で存在感高まる
シトロエンの輸入元であるステランティスジャパンは、シトロエン・ベルランゴの改良型を2024年10月から発売開始。内外装のデザインが変わった新ベルランゴに、さっそく試乗した。独自の“フワフワ”した気持ちよい乗り心地は健在で、力強いディーゼルエンジンとともに、個性的なのキャラクターが味わえた。
一部改良で目をひくのは、意匠の変わったフロントグリルだ。ヘッドランプの形状、エアインレット、それにバンバー一体型エアダムに手が加えられた。なにより、シトロエンのエンブレムが1930年代まで使われた縦楕円のものとなったのが興味深い。
これまでのモデルとかなりイメージが変わっていて、従来は全体に丸みを帯びたボディパネルに、ポコポコと孔をうがってヘッドランプを入れたり、エアインレットを設けたりして、少々ユーモラスな造型感覚だったのが、今回はシャープとなった。
どっちがいいか? 好みがわかれそうだ。少なくとも路上で走っているところを見た限りでは、新しいベルランゴ、存在感が大きい。
インテリアでは、オートマチック変速機のギヤセレクターが、従来の円筒を回すタイプから、前後に動かしてポジションを変える一般的なトグルスイッチになったのが特筆点といえる。
メーターは液晶式になり、インフォテインメントシステム用モニターはこれまでの8インチから10インチへとサイズアップ。その下にはUSBタイプCのソケットが2つ設けられた。ADAS(先進運転支援システム)のスイッチ類もステアリングホイールのスポーク上に移されている。
アクティブクルーズコントロールとレーンポジションアシストも改良を受けた。さらにインフォテインメントシステムの一部の機能はOTA(オーバー・ジ・エア=無線)でアップデートされるようになっている。
作りの良いボディこのクルマのいいところは、使い勝手にある。1498cc4気筒ディーゼルエンジンは、96kWの最高出力と300Nmの最大トルクを発生。全長4405mm、全高1830mm、車重1600kgの5人乗りモデルには、十分すぎるパワーだ。
アクセルペダルを軽く踏んだだけで、即座に加速に移る。エンジンはディーゼルだが、どちらかというと、回転で稼ぐようなタイプで、回していくと(けっこう気持ちよく回転が上がる)グングンと力が出てくる。まるでガソリンエンジンのようで、なかなか楽しい。
ドライブモードも備わっていて、ノーマルないしはエコが選べる。クルマの特性に慣れていないうちは、ついアクセルペダルを踏みこみすぎて、思った以上の加速感に面くらいがちだ。そこで私は、しばらくエコで走ってから、後にノーマルで走るようにした。
ノーマルモードだと、300Nmもの最大トルクのおかげで、交通の流れにしっかりキャッチアップできるし、場合によってはリード可能だ。
ステアリングフィールは中立部分がやや甘めで、しかもスピードがゆっくりだ(曲がるときは大きく回さなくてはならない)が、サスペンションストロークの長さを感じさせる“フワリフワリ”と動くボディと、上手くバランスがとれている印象だ。
「クルマの快適性を100年以上にわたって追求してきた」と、謳うシトロエンでは、ベルランゴにも「アドバンストコンフォートシート」なるシートを採用。特徴は、中央部は柔らかく、サイドサポート部はしっかりとした感触を持つ構造にあるとされる。
私はこのシートが好みで、70年代までのシトロエン車のソフトさではないものの、確かに“フワリ”という感じの座り心地と、走行中にからだをサポートしてくれる機能を両立させているのが良いと思う。
インテリアでは、天井の「モジュトップ」が継続採用されているのが嬉しい。パノラミックガラスルーフと、多機能ルーフストレージをひとつにしたもので、後者のストレージは「フローティングアーチ」と呼び、約14リッターもの容量を確保。その恩恵で、ここにさまざまなモノを収納可能だ。車内では手荷物の置き場に困ることが多々あるだけに、利便性の高い機能である。
私がベルランゴで感心するのは、上記のような使い勝手のよさと、さらにもうひとつ。ボディのつくりのよさだ。後席用スライドドアの開閉時、一切ガタピシ感がなく、見事な剛性感でもってスライドドアがぴしゃりと閉まるので、実に気持ち良い。頼りになる感じといってもいい。
燃費はリッターあたり18.1km(WLTC)と発表されている。荷物をたっぷり載せて、どこまでも走っていけそうな、良きパートナーだ。クルマは生活のための道具とするフランス流ミニバンの改良版は、日本でも評価されるだろう。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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