はじめに
ようやく新型ディフェンダーの、現実的なテストの機会を得た。このクルマをわれわれが試乗するのははじめてではないが、これまでは地球上でももっとも過酷と思われるような、メカニズムに極限の信頼性を証明するよう強いるオフロードばかりだった。
つまり、一般ユーザーが主に体験するこのクルマのキャラクターを、本当に知ることができるテストドライブはまだ実施していないといえる。情け容赦なく繰り返される日常遣いでは、都会というジャングルをかき分け、単調なハイウェイを退屈に耐えて流し、朝から晩まで家族の酷使に耐えなくてはならないのだ。
ただただ機械的に、乗り込んで、走り出して、目的地を目指す日々。今年の新型車の中でもおそらくもっとも重要で興味深い一台であろうこのディフェンダーだが、顧客の元へ納車された途端、そんなルーティーンワークを課される個体が大多数を占めるはずだ。
新型ディフェンダーには、3ドアショートの90と、5ドアロングの110が用意されるが、販売はまず110からはじまる。エンジンはディーゼルとガソリンがそれぞれ2機種ずつだ。
今回のテスト車はトップグレードのX仕様で、エンジンは専用設定のマイルドハイブリッドを組み合わせた直列6気筒ガソリン。Xグレードは、このP400と銘打たれたパワートレイン一択となる。当然というべきか、価格は高い。
ただ、より販売比率が高くなるであろうディーゼルモデルは、試乗記をお届けできる別の機会があるだろう。そこで今回は、新型がディフェンダーというブランドバリューに恥じない高みに達したのか、最上位機種で検証したいと思う。
意匠と技術 ★★★★★★★★★☆
クラシックミニと同様、かつて旧型ディフェンダーは奇抜なものに見えたが、いまや履き慣れたスリッパのように馴染み深いものとなっている。それだけに、こうしたアイコニックなモデルの刷新はリスクを伴う困難な仕事だ。そしてランドローバーが、長い間その術を見出せずにいたのは間違いない。
しかし、ミニやフィアット500がそうであるように、ランドローバーの象徴にもそのときが訪れた。オリジナルのランドローバーが示した基本形は、この新型車にもある程度ながらも受け継がれている。
フロントウインドウは衝突安全基準と空力設計の許す限り立たされた。0.40というCd値は、現代的な乗用車の許容範囲ギリギリで踏みとどまったといったレベルだ。
いまどきのクルマとしては、ボディサイドがフラットで、ウインドウラインが低い。切り立ったテールエンドには、サイドヒンジのドアと、フルサイズのスペアタイヤが備わる。
ボディ素材は今回もアルミニウム。それを支えるD7アーキテクチャーは、ジャガー・ランドローバー(JLR)のあらゆるエンジン縦置きモデルと、EVであるIペイスに用いられるものだ。
そうはいっても、他モデルと共有しているのはモジュールであり、ディフェンダーのそれはD7xと呼ばれる、ほかより頑丈なプラットフォームだ。
専用のホワイトボディは接着剤とリベットを併用して組み立てられ、スティールのサブフレームを前後に接合。地上高は、ほかのいかなるランドローバー車よりも高い。
牽引重量は3500kg(北米仕様は3700kg)で、エアスプリングにより900mmの渡河深度を実現する。JLRはこのクルマを、4×4だがSUVではないという。納得するわけではないが、彼らのいいたいことは理解できる。
旧型にあって新型にはないものを挙げるなら、非常にコンパクトなディメンションだろう。新型は衝突安全法規のクリアやテクノロジーの大量導入、さらに乗員の快適性までも追求した結果の代償だ。全長は、ロングホイールベースの110では5018mmに達する。ショート版の90は50cmほど短いが、それでも旧型110と同等だ。
われわれとしては、今後のバリエーション拡大にも注目している。リアオーバーハングが延長された130と、積載重量を900kgとした各サイズの商用バージョンの追加には期待したいところだ。
ランドローバーは、ピックアップの製作も技術的には可能だとしながら、量産化は否定している。ディフェンダーはトラディッショナルなピックアップのマーケットから離れて久しく、再参戦するにはJLRの生産規模が小さすぎる。
なにより、新型ディフェンダーはプレミアムなモデルとなった。110の価格は4万5000ポンド(約630万円)ほどからで、今回のテスト車であるP400 Xは本体価格がほぼ8万ポンド(約1120万円)に達する。
内装 ★★★★★★★★★☆
ランドローバーは、ラグジュアリーさとユーティリティを両立したインテリアを目指したように思える。簡単な仕事ではないが、その目論見はみごとに身を結んでいる。
ボディカラーやトルクスボルトが剥き出しの箇所があり、ダッシュボードには面積の広いパネルやグリップハンドルが据え付けられる。メーターパネルは小ぶりだ。こうした要素のすべてが、元祖ディフェンダーを彷彿させる。それでいて、質感やフィニッシュ、フィッティングは、旧型とは違うものだ。
豪華さという点では、レンジローバーやディスカバリーほどではなく、アウディQ7やボルボXC90といった競合するSUVにも及ばない。それでも、マテリアルのチョイスはジープ・ラングラーやトヨタ・ランドクルーザー(プラドの欧州仕様)よりは上。しかも、必要十分という以上の広さと開放感を味わえる。
それはそうだろう。ミラー込みで2105mmという全幅はなかなかワイドで、フロントシートの中央に補助席を据え付けることもできるほど。これはせいぜい子ども用といったサイズで、たたまれている時間のほうが長くなるだろうが、その場合はとても広いセンターコンソールとして機能する。
ドライビングポジションは立ち気味で身体に合わせやすく、大きなステアリングホイールの向こうの見晴らしはファンタスティック。ボンネットの前端まで視界に入る。大面積のウインドウと大きなドアミラーにより、側方視界も上々。ただし、後方視界はテールゲートにやや遮られ気味だ。
後席の空間も、前席と同じく広い。シートは大きく、ヘッドルームもレッグルームも十分すぎるほどある。その背後にある荷室は、上ヒンジのテールゲートより開口面積が小さいものの、積載スペースは大容量。テスト車には未装着だったが、3列目シートを2座追加することも可能だ。
走り ★★★★★★★★☆☆
ディフェンダーは内燃エンジンのドライブトレインを複数設定し、来年にはプラグインハイブリッドが追加される予定だ。ディーゼルのD200とD240、ガソリンのP300が直列4気筒ターボで、今回のP400はガソリン直列6気筒マイルドハイブリッドとなる。
それぞれの呼称は、使用燃料を示すアルファベットと、最高出力を表す数字を組み合わせたもので、すべてのエンジンはJLRのインジニウムファミリーに属する。いずれもZF製の8速ATが組み合わされ、もちろん四輪駆動。ローレンジのファイナルギア比も備える。
P400のエンジンはツインスクロールターボと、穏やかな48Vハイブリッドシステムを備える。電力のみで走行することはできないが、スターター/ジェネレーター兼用モーターは発進をアシスト。また、電動スーパーチャージャーが生むトルクは、2000rpm以下でのターボラグを減らし、3.0L直6の負担をいくらか軽くする。
このエンジンは非常にスムースで、ソリッドなレスポンスと十分すぎるトルクの持ち主だ。ハイブリッドシステムはCO2排出量を6g/km削減するとされるが、WLTPサイクルの燃費は8.2~8.9km/Lで、われわれがオンロードテストでマークした値もだいたいそんなもの。世間を納得させることができる数字とはいい難い。
パフォーマンスもまた、満足いくものとはいえない。0-97km/h加速の公称タイムは6.1秒だが、今回のテストではそれに及ばなかった。以前にJLRのプロダクトでスペック表通りの数字をマークしたことはあるが、それもラクな仕事ではない上に、そこにはポルシェやアウディのような再現性もないのだ。
加えて、数字が示唆するほどには速く感じられない。それはこのクルマでも同じだった。2388kgの車両重量も、その言い訳にはならない。
使い勝手 ★★★★★★★★☆☆
インフォテインメント
ランドローバーは新世代のインフォテインメントシステムが完成した、と宣伝するだろうが、それを鵜呑みにしたオーナーは気の毒だ。
エンターテインメントやインフォメーション、コミュニケーションといった分野におけるこのメーカーのシステムはえてして、ほぼ誰もがせいぜいセカンドベスト止まりと口を揃える。しかも、バグが出て再起動を繰り返す代物だ。
この新型システムについて、信頼性がどうなのかはまだ結論づけられない。ただし、はじめて他社のシステムと同じくらいには使いやすくなったというのが、現時点での正直な感想だ。
エアコンのコントロールが実体ダイヤルなのは評価に値する。また、頻繁に使う機能は、多機能ステアリングホイールの、指先に触感的なフィードバックがあるボタンで操作できる。
それ以外はタッチ式ディスプレイを介するが、レスポンスは早く、レイアウトもよく考えられている。さらに、スマートフォンのミラーリング機能も完備している。
操舵/快適性 ★★★★★★★★★★
このセクションに関していえば、満点評価に値する。これは、ランドローバーがディフェンダーの走らせ方をきっちりとものにしているからだ。
当然ながら、JLRのエンジニアたちは新型車開発にあたり、目に付くライバル車を軒並み評価テストした。その中には先代ディフェンダーも当然ながら含まれ、誰もが気づく欠点も洗い出した。その上で導き出したのは、乗り心地はひどいものだが、それでもドライビングは比較的魅力を見出せるという結論だ。
同様に、ジープ・ラングラーはロードカーとして出来がいいとはいえないものの、好ましい誠実さを見出せた。そこで、手をつけずに残そうとした要素のひとつが、オンロードもオフロードもそつなくこなしながら、繕うことのない個性的な走りだ。
彼らは、それらすべてをうまく解決した。ステアリングはスムースで、レスポンスがリニア。ロックトウロック2.7回転のギア比もいい感じだ。ペダル操作は楽に調整できて、高いドライビングポジションは不要なスポーティさを無理に演出していない。
そうはいっても、新型ディフェンダーの乗り心地はフラットで落ち着いたもの。ボディコントロールとしなやかな乗り味は、このサイズと地上高を持つクルマとしてはすばらしいレベルにある。
市街地では、取り回しに苦労する大きさだと思うだろう。ところが、周囲の視認性に優れるので、巨体の割には駐車しやすい。ボディの見切りもいいので、アウディQ7などよりよっぽど自信を持って取り回せるのだ。
開けた道で速度が上がるにつれ、ロールは明確になってくる。それでも、その速さはよく制御されていて、ボディが傾いても振動はうまく抑えられている。そのため、ドライビングはそれなりに楽しく、少なからぬクルマとの一体感も味わえる。
オフロードでは、そうした特質が本領を発揮。すばらしい走破性のみならず、この上ない運転しやすさまでもたらしてくれる。テレインレスポンスシステムはスロットルレスポンスやスタビリティコントロールの効きをアジャストするが、ほとんどの場合、どのモードを選ぶか気を遣う必要はない。
アプローチ角は38°、ブレークオーバー角は28°、デパーチャー角は40°で、エアスプリングで最大まで引き上げた場合の地上高は291mmで、いずれも乗用車としては最良レベルだ。加えて複数の外部カメラと渡河深度検知機能も備えるので、ドライバーは周囲の状況への過剰に注意を払うことなく、自信を持って悪路に挑める。
スポーツカーがそうであるように、特殊なオフローダーは特定の問題に特化するものだ。その上で考えれば、ディフェンダーは4×4だというランドローバーの主張も、あながちただの言葉遊びとはいえない。
購入と維持 ★★★★★★☆☆☆☆
性能は非常に高いのだが、それに付けられた価格もじつに高い。
ディフェンダー110はエントリーモデルでも4万5000ポンド(約630万円)少々で、装備内容は悪くない。ところがよりパワフルなエンジンや、ひとつふたつのオプションを付け足せば、すぐに6万ポンド(約840万円)や7万ポンド(約980万円)を超えてしまう。ただ高額というだけでなく、直接的なライバルを見つけにくい価格帯に突入するのだ。
さらに気になることがある。顧客満足度調査での順位が低いことの多いランドローバーが、当然ではあるが今回は違うと主張しているものの、それも怪しい。その答えが出るのは少し先だろうが、ユーザーが高額なだけでなく燃料代もかさむことを知れば、いかなる結論に行き着くかは想像がつくところだ。
スペック
レイアウト
JLRは、EVのジャガーIペイスと、すべてのパワートレイン縦置きモデルのベースに、D7アーキテクチャーと銘打ったプラットフォームを採用している。これにはさまざまなバリエーションが存在し、そのひとつがディフェンダー専用であるD7xだ。
ホワイトボディはアルミ素材を接着剤とリベットを併用して組み立てられたもので、前後にスティールのサブフレームが組み付けられる。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがインテグラルリンク。8速ATを介し、四輪を駆動する。
エンジン
駆動方式:フロント縦置き四輪駆動
形式:直列6気筒2996cc、ターボ、ガソリン、マイルドハイブリッド+電動スーパーチャージャー
ブロック/ヘッド:アルミニウム
ボア×ストローク:φ83.0×92.3mm
圧縮比:10.5:1
バルブ配置:4バルブDOHC
最高出力:400ps/5500rpm
最大トルク:56.1kg-m/2000-5000rpm
許容回転数:6500rpm
馬力荷重比:169ps/t
トルク荷重比:23.8kg-m/t
エンジン比出力:134ps/L
ボディ/シャシー
全長:5018mm
ホイールベース:3022mm
オーバーハング(前):845mm
オーバーハング(後):1151mm
全幅(ミラー含む):2105mm
全幅(ミラー除く):2008mm
全高:1967mm
積載容量:857~1946L
構造:アルミニウム、モノコック
車両重量:2388kg(公称値)/-kg(実測値)
抗力係数:0.40
ホイール前/後:8.5Jx20
タイヤ前/後:255/60 R20
スペアタイヤ:フルサイズ
変速機
形式:8速AT(ローレンジ付き)
ギア比/1000rpm時車速〈km/h〉
1速:5.50/7.9
2速:3.52/13.4
3速:2.20/19.6
4速:1.72/25.1
5速:1.32/32.8
6速:1.00/43.1
7速:0.82/52.5
8速:0.64/67.6
最終減速比:3.55:1
(ローレンジのギア比は上記値×2.93)
燃料消費率
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):6.3~6.7km/L
中速(郊外):8.8~9.4km/L
高速(高速道路):9.7~10.6km/L
超高速:7.8~8.5km/L
混合:8.2~8.9km/L
燃料タンク容量:90L
現実的な航続距離:814km
CO2排出量:255~275g/km
サスペンション
前:ダブルウィッシュボーン/エアスプリング、スタビライザー
後:インテグラルリンク/エアスプリング、スタビライザー
ステアリング
形式:電動アシスト機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:2.7回転
最小回転直径:13.1m
ブレーキ
前:363mm通気冷却式ディスク
後:350mm通気冷却式ディスク
各ギアの最高速
1速:51.5km/h(6500rpm)
2速:86.9km/h(6500rpm)
3速:127.1km/h(6500rpm)
4速:162.5km/h(6500rpm)
5速:191.5km/h(5851rpm)
6速:191.5km/h(4432rpm)
7速:191.5km/h(3634rpm)
8速(公称値):191.5km/h(2837rpm)
8速・70/80マイル/時(113km/h/129km/h):1669rpm/1907rpm
結論 ★★★★★★★★★☆
われわれはランドローバー・ディフェンダーをオン/オフいずれのコースでも走らせる機会を得たが、能力に不足はまったくなかった。4×4としての卓越ぶりに疑問の余地はない。
荒野での走りは、まるでオフロードなど見向きもしないひとびとのためのクルマに乗っているのではないかと思わせるほど楽なものだった。
それはハンマーではなく、空気式の釘打ち機を扱っているようだ。するべきことを最大限まで簡単にしたがっているクルマ、とでもいえばいいだろうか。
しかしまた、クロカン性能以外にも見逃せないポイントがある。オンロードでの走りも際立っているのだ。
トヨタ・ランドクルーザーやジープ・ラングラー、フォード・レンジャー・ラプターは、悪路走破性の代償としてオンロードの走行性能に妥協の跡がみられる。
一方でディフェンダーは、舗装路に踏み出しても穏やかかつしなやかなままで、さらには、いうなればファントウドライブ的な部分にも優れている。
そうした点が、このディフェンダーをアドベンチャーできるクルマと特徴付ける要素となっている。
そのアドベンチャーが林道トレッキングであろうと、農場や建築現場の見回りであろうと、はたまた子供の送り迎えと通勤の退屈な繰り返しであろうと、いかなるライバル車より疲れ知らずにやり遂げられるはずだ。
世界中の万能性が高いクルマをリストアップしたとしても、新型ディフェンダーは余裕でトップ3に入る。車両価格は高く、燃費は悪い。特に今回のテスト車の仕様では、それが顕著だ。そうした問題点を差し引いても、競合車を圧倒するクルマだ。
担当テスターのアドバイス
マット・プライアー後席エンタテインメントシステムを購入せずとも、オプションのタブレットホルダーとUSB電源ソケットを用いれば、手持ちのモバイル機器で事足りる。その方がはるかに賢明な選択だ。
マット・ソーンダースエンジニアにどのバージョンを選ぶか問えば、もっとも軽量でメカニズムがシンプルなものを選ぶことがほとんどだ。ディフェンダーに関しては、なににもまして110のエアスプリング仕様を指定するだろう。
オプション追加のアドバイス
税制面と燃費面を考えると、選ぶべきモデルレンジは4気筒を積むD240かP300。ベースグレードのSに、オフロードユースを追求したパッケージや牽引キット、そのほかいくつかのオプションを加えても、6万ポンド(約840万円)でおつりが来るはずだ。
改善してほしいポイント
・至急、プラグインハイブリッド仕様を追加設定してほしい。
・どこか、数kgでもいいから軽量化できる箇所を探すべきだ。
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みんなのコメント
ただ企業に金貰った促販コメントにしか見えない