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トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)GRMNに試乗 ヨーロッパ初となるブランドの今後に期待

掲載 更新
トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)GRMNに試乗 ヨーロッパ初となるブランドの今後に期待

もくじ

どんなクルマ?
ー トヨタGRMNブランドの口火役
ー ヨーロッパ全域400台限定

『ヤリスGRMN』すべての画像をみる

どんな感じ?
ー エリーゼ並の1.8ℓ直列4気筒
ー 不満の残る車内品質
ー 特徴的なドライビング性能

「買い」か?
ー GRMNの今後のモデル展開に期待

スペック
ー トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)GRMNのスペック

どんなクルマ?

トヨタGRMNブランドの口火役

「その場所に行きたいなら、ここからは出発しない方が良い」

トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)GRMNから連想してしまった、遠くの場所への道を尋ねた時の、イギリスの古い言い回しだ。

ホットに焼き直されたヤリスは、昨今の例にならって加給エンジンを搭載したコンパクトカーだが、目標としていた姿とは違うのではないか、という不調和をそこかしこに感じてしまう。

一方で、興味をそそられる、シンプルで好感が持てるホットハッチでもある。理想からは離れていても、様々な理由を考えると、走り好きのドライバーはこのクルマを認めるべきだとも思う。

その理由は、このクルマが重要な変化の始まりだと言えるから。

このヤリスは、トヨタが長年に渡って築き上げてきた、ヨーロピアン・スタイルのホットハッチで、その取り組みは今も進行中。加えて、GRMNブランドのクルマとして、ヨーロッパで開発・製造、販売される、始めてのパフォーマンス・スペシャルでもある。

まず、ヨーロッパ初となるGRMNについて簡単に説明を。

ヨーロッパ全域400台限定

英国人にとって発音しにくい、このGRMNは「Gazoo Racing Meisters of N・・rburgring(ガズー・レーシング・マイスター・オブ・ニュルブルクリンク)」の頭文字で、トヨタ車の中でも、最もパフォーマンスに標準を合わせたモデルラインのブランド名となる。

昨年、トヨタが事実上のファクトリーチームを結成し、TOYOTA Gazoo Racingから世界ラリー選手権へ復帰したが、このGazoo Racingという名前を冠した幾つかのチューニングカーを複数のセグメントでリリースしている。その中でもGRMNはトップモデルに用いられることとなる。

今回のヤリスGRMNは限定車で、イギリスへ導入される車両は80台。ヨーロッパ全体でも400台となっている。希少性に加えて、車両価格は26295ポンド(398万円)と挑戦的な設定がなされている。冒頭にも触れたが、なぜGazoo Racingの始動にあたって、このパッとしないコンパクトカーを選んだのか、疑問に思えてしまうことも事実。

トヨタによると、高度にチューニングされたGRMNモデルは今後も限定生産とされる予定で、販売価格は近似するライバルモデルよりも高めに設定されるそうだ。また、ヤリスGRMNには直接的なライバルはいないと考えているようだが、市場にはより速くパワフルな「スーパーミニ」が存在することも認めている。

その走りを確かめてみよう。

どんな感じ?

エリーゼ並の1.8ℓ直列4気筒

ヤリスをチューニングして与えられたパフォーマンスは、GRMNのステータスを示すのに充分印象的なものだが、徹底的、と言えるほどの内容ではない。

主要箇所をホワイトボディの状態で強化し、より短いサスペンション・スプリングを装備。スプリングレートは、標準モデルの60%増しとなっている。

さらに特製のザックス製パフォーマンスダンパーのほか、フロントには太さを増したアンチロールバーと、強力な4ポットキャリパーが装着される。BBS製の鍛造17インチ・アルミホイールは1輪当たり2kgの軽量化につながっていて、205幅のブリヂストン・ポテンザRE050Aタイヤが組み合わされる。

ステアリングレシオはクイックになっているが、トレッド幅はノーマルのまま。また、この手のホットハッチ・スペシャルで見られる、軽量サスペンションアームや専用のナックルは装備されておらず、車高やサスペンションのロールセンターの位置を比較的自由に、独立して設定することが可能となっている。

ちなみに、ヤリスGRMNのリアサスペンションは、ノーマルモデルと同じトーションビーム式となる。

エンジンは販売数を伸ばすストロングポイント。

スーパーチャージャーで加給される1.8ℓ直列4気筒エンジンは、イギリス・トヨタ製で、ロータス・エリーゼと近似するスペックにチューニングが施された。212psを7000rpmで発生し、最大トルクは25.3kg-m。小排気量ターボが一般的なこのクラスに、新しい風を吹き込むはず。

専用設計のマフラーはセンター出しとなり、攻めた走りをした時は、少し荒削りながら色っぽい、快音を聞かせてくれる。まるで巨大なkazoo(カズー=おもちゃの楽器)のように、思う存分吹き鳴らすことも楽しみのひとつになるだろう。

不満の残る車内品質

ヤリスGRMNは「ウルトラ・スウェード」表皮のスポーツシートを備え、しっかり身体をホールドするが、その空間は恐らく皆さんの理想とは少し違う世界だと思う。シートポジションは高く、ペダルの位置も近いので、身長が185cm以上のドライバーはちゃんと座れないだろう。

更にステアリングコラムのテレスコピックは調整幅が短いうえ、アクセルとブレーキペダルとの空間も無駄に広く、ヒール・トゥをするのが難しい。これらは恐らく、ヤリスGRMNのようなクルマを好むひとなら、かなり気にかけるポイントなはず。

さらに車内全体の品質も、価格を考えると不満が残る。内張りは全体的に暗く単調で、場所によってはデザイン自体も古く安っぽく見えてしまう。ドライビング体験を重視するひとなら、あまり気にしない部分かもしれないが。

一方で、ロータスがチューニングしたエンジンは、軽量なホットハッチが搭載するものの中では、今までにない特長を持っている。A地点からB地点へ、極めて高速に移動するだけではない、独自性のあるもの。

短い直線加速で、よりパワフルで高価なモデルを打ち負かすほどの活力は持ち合わせていないが、目が覚めるようなレスポンスを示す。低速トルクはそれなりだが、7000rpmからレッドラインで、アクセルペダルで極めてアナログに、リニアな操作を可能とする。

多くのターボ過給のエンジンとは異なる特長となっている。

特徴的なドライビング性能

乗り心地も、標準モデルの貧弱さと比較すれば、充分妥当なもの。

いっぽうこのセグメントの中でもヤリスの全高は高い部類に入るため、重心位置は高め。それに、ミニ・クーパーSやフォード・フィエスタSTのようにコーナーに飛び込んでいけるような敏捷性は備わっていない。

しかし、クルマが向きを変える際、アウト側のタイヤからの感触は落ち着いたもの。他のライバルモデルとは異なるコーナリング感覚だが、活発な性格に生まれ変わった。

コーナリング中に重心移動を意識し、エンジン回転数と出力に合わせたコントロールをすれば、ヤリスは充分それに応えてくれるだろう。

ボディコントロールは極めて優れており、ダンピングがしっかりと詰められているため、路面の小さな石や大きな凹みでも最小限の動きで、柔軟にいなす。前輪への荷重割合が高く、重心移動も加わると相応に重くなるが、ステアリングのフィーリングは正確性が高い。

トルセンLSDはやや滑りが多いが、25.3kg-mのトルクを外側前輪に伝達し、クルマと格闘することも可能だ。

ハンドリングは、ライバルとなるホットハッチほどの広い調整しろを備えてはいないものの、コーナリング中のブレーキの加減で、ヤリスの姿勢をある程度操作できる。一般道でもサーキットのように、ドライビングを楽しめるクルマに違いはない。

優れたダンパーとマニュアルギアを備え、ドライブモードは初期設定のひとつだけと極めてシンプル。馴染みのある好ましい雰囲気を持っており、本物のエンジンノイズを響かせる。

これが気に入らないなら、ヤリス・ハイブリッドを選ぶべきだ。

「買い」か?

GRMNの今後のモデル展開に期待

長所も短所もあるが、短所に関してはさほど重大ではなく、26295ポンド(398万円)の価値に見合ったホットハッチだとは言える。

トヨタによると、ヤリスGRMNは既にすべて売約済みとの事だが、もしかすると一生懸命探せば、イギリスのディーラーが在庫として1~2台、持っているかもしれないとも話していた。

ちなみに、その価格だけでなく、WRCを連想させるボディペイントの件もあり、わたしは購入する予定はない。日曜日の朝、郊外の一般道を飛ばす楽しさは素晴らしいが、そのためにわたしがホットハッチを手に入れたいと思うことは、さほど多くはないし、何よりちょっと恥ずかしい。

このヤリスGRMNを通じてトヨタに最も求めることは、本当のエンスージアストが喜ぶような、真のドライバーズカーを生み出すこと。そして、例えば来年発表予定のスープラなど、Gazoo Racingがもっと魅力的なベース車両に焦点を当てた時、大きな期待を抱けるものになるはず。

今後も、GRMNモデルは安価になることはなくても、それは、決してありふれた仕上がりとはならないだろう。

その時を心待ちにしたいと思う。

トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)GRMNのスペック

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