19歳女子、憧れのサーキットデビューを果たす!
クラシックカーの趣味が、わが国においても定着して久しい。
サーキット初心者女子が体験してビックリ! 公道とは違う独自の「ルール」5つ
とくに1980年代以降には、国内でも爆発的にエンスー人口が増加したのだが、それから30年以上の時を経た近年では、そのエンスージアスト諸氏たちのお子さんやお孫さんたちが自動車免許を取得する年齢となり、新たなクラシックカー趣味の担い手となり始めている事例も少なからず見られるようだ。
今回は、群馬県の人気観光スポット「伊香保おもちゃと人形 自動車博物館」創業者にして、日本を代表するクラシックカー愛好家のひとりである横田正弘館長のお孫さん、大学一年生の朱泉(しゅい)さんが、弱冠19歳の若さで念願のサーキットデビューを果たすと聞きつけ、その一部始終を追ってみることにした。
第39回TBCCでのサーキットデビューが決定
ことの始まりは、2022年9月11日に開催された第38回「TBCC(Tokyo Bayside Classic Cup)」までさかのぼる。
千葉県袖ケ浦市の「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」を舞台に年4回が開催されるこのサーキット走行イベントは、1972年までに製造されたクラシックカーを対象とし、レース形式で行われる上級カテゴリーのほか、ビギナー向けのスポーツ走行会、第二次世界大戦前のクルマが走るヴィンテージ走行会などが行われる。
第38回のTBCCにて、愛車ブガッティT51GPおよびトルネード・タイフーンで2クラスの走行を行うために参加した横田館長は、その孫であるお兄さんと朱泉さん、まだ8歳の妹さんからなる三兄妹を引き連れて、袖ヶ浦フォレストレースウェイを訪れていた。
この三人は、館長が主催するミーティング型イベント「前橋クラシックカー・フェスティバル」やラリーイベント「スプレンドーレ伊香保」などでもボランティアスタッフとして熱心に働く姿をしばしば見かける、とてもおじいちゃん孝行なお孫さんたちである。
祖父がかっこよく走る姿を見て憧れていた
そして、この日のサーキット走行プログラムを終えたのち、館長はすでにクルマを運転できる年齢に達している上二人に、サーキット走行への興味があるかどうかを尋ねたという。
もともとは、一番上のお兄さんに「お前も走ってみるか?」と誘っていたそうなのだが、色よい返事は得られなかった。そこで、今年3月に運転免許を取得したばかりの朱泉さんにも軽い気持ちで聞いてみたところ、二つ返事で「出てみたい!」との返答が。実は祖父がかっこよく走る姿を見て、かねてから憧れていたとのことだった。
自分から言い出したことだけに、あとには退けなくなってしまった館長は、自身の所有するクラシックカーの中でも比較的安全そうな1965年型アルファロメオ・ジュリアTIを朱泉さんに預け、次回として12月11日に開催された第39回TBCCの計時スポーツ走行に参加させるに至ったという。
一方、一時的ながら朱泉さんの愛車となったジュリア・ベルリーナTIは、かなり気合いの入ったラリー仕様。もとはといえば、館長がはるかモンゴルの砂漠で開催される長距離耐久ラリーへの参加を目指して改造したもので、直列4気筒DOHC1570ccのエンジンは大人しいシングルキャブ仕様ながら、ロールケージなども組まれている。
こうして朱里さんは、多くのクラシックカーファンにとって垂涎の一台であるアルファロメオ・ジュリアTIとともに、人生初のサーキット走行に挑むことになったのだ。
趣味や文化も、こうして若い世代に継承されてゆく
11月ごろからか、横田正弘館長のSNSでは朱里さんおよびジュリアTIとともに運転の特訓を行う動画がいくつかアップされるようになった。
その9カ月前に、わずか二週間の短期集中コースで運転免許証を取得したという事実からすれば、朱泉さんはなかなか「スジが良い」タイプのようなのだが、館長はかなりのスパルタ方式でクラシックカー操縦法を仕込んだようだ。
そして、ついに訪れた12月11日。早朝から袖ヶ浦フォレストレースウェイにやってきた朱泉さんと妹さんは、はた目にもワクワクがとまらない様子。そのかたわら、館長はちょっと心配げな表情にも映る。それでも朱泉さんは、スタート前に行われるドライバーズミーティングにおいても、並みいるベテランエンスー諸氏を前にして、今回の初走行組代表として堂々とあいさつ。初のサーキット走行ながら物怖じする様子などまったく見せることなく、早くも大物の片鱗をうかがわせていた。
まずはカルガモの母鳥のように館長がリードしながら走る
この日のTBCCスポーツ走行枠は二本で、走行時間はそれぞれ約15分。レース形式ではないので予選などはなく、初心者向けガイダンスを受けたのちに、いきなりコースインすることになる。朱泉さんとジュリア・ベルリーナTIは、サーキットデビュー組の原則にしたがって最後尾につき、その前を赤い英国製レーシングスポーツカー、トルネード・タイフーンに乗る横田館長が、カルガモの母鳥のようにリードしながら走ることになった。
祖父と孫娘、二台の走りは終始ゆっくりしたものだったが、それでも館長は、後方から抜かしてゆくクルマへのコンタクトやライン取りなどを、実地でコーチしようとしているかに見える。
またエントリーしたりいという意気込みも
一本目の走行枠を終えてピットに戻ってきた朱泉さんは、妹さんと持参したお菓子を分け合いつつ大はしゃぎするなど、かなりリラックスした様子。初走行の感想をうかがってみると、一本目の一周目は、後方から追い越してゆく速いマシンたちが怖かったそうだが、その恐怖心も二周目には早くも薄れ、楽しい気持ちが大きくなってきたとのことであった。
そののち、二本目の走行枠では少しだけスピードを上げたものの、カルガモ走行スタイルは変わらず。ただ、コーナーでの挙動がはっきり見えるジュリアだから分かることなのだが、コーナーリングフォームが次第にキレイになってくるさまが見受けられた。
そして、一本目以上に楽しそうな表情でパドックに戻ってきた朱泉さん曰く「ぜひまたエントリーしたいです!」とのこと。今回は祖父についてゆっくり走ったが、次回はもっとペースアップして、よりスキルアップを図りたいという希望も語ってくれた。
いっぽう先導の大役を終えた横田館長は、満足げな表情をうかべつつ「いつか俺が居なくなったときに、昔おじいちゃんと一緒にサーキットを走ったという思い出が残ってくれれば、それでいいよ」と語っていた。
こうして趣味や文化も、次世代に継承されてゆく。19歳の新たなエンスージアストの誕生に、そんな感慨を覚えたのである。
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みんなのコメント
ということよね。