4月13~14日に岡山国際サーキットで行われた2019年のスーパーGT第1戦。GT300クラスは予選・決勝ともにブリヂストンタイヤユーザーが上位を席巻する結果となった。
ここでは昨シーズンから強さを発揮しているブリヂストン打倒を目指す土屋監督のHOPPY 86や、岡山で激しいトップ争いを繰り広げたARTA NSX GT3とK-tunes RC F GT3にまつわるトピックスをご紹介。
スーパーGT:ブリヂストン装着のNSXは実力伯仲/GT500トピックス
■「待ってろBS!」25号車HOPPY 86 MCが次戦ニューウエポン投入。予選トップ4、表彰台独占。強すぎるBSを止められるか?
2019年の開幕戦岡山は、ヨコハマ(YH)タイヤユーザーが表彰台を独占した。しかし、シーズンを振り返るとYHの勝利は岡山のみ。タイとSUGOでダンロップ(DL)が優勝しているが、8戦中5戦をブリヂストン(BS)が制している。シリーズチャンピオンは当然として、シリーズ3位までがBSユーザーであった。
そして今季の開幕戦、快晴のもと行なわれた予選でトップ4にBSが並ぶ。雨はもともとBSが得意とするシチュエーションだが、荒天の決勝で表彰台を占めたのもBSだ。とくに衝撃的だったのが、今季からBSを履く52号車の埼玉トヨペットGB マークX MCが予選3番手、決勝3位というリザルトを残したことだった。
埼玉トヨペット マークXは2017年シーズンから参戦するディーラーチームで、過去の2シーズンで入賞したのは2018年SUGO戦での7位のみ。予選でのQ2進出も2回しかなかった。もちろん、経験を積んでチームが進化し、今季はドライバーラインアップも変更、速くなった要素はタイヤ以外にもある。それでもやはり、タイヤの影響が大きいのは間違いないだろう。
ARTA NSX GT3の高木は、ポールポジションを獲得した最大の要因を「タイヤ」だと明かした。ミッドシップのホンダNSX、フロントエンジンのレクサスRC FとメルセデスAMG、それにマザーシャシーというレイアウトも車重もタイヤサイズも異なる4台が予選でトップ4に入ったのは、「それぞれのクルマに合わせたタイヤをBSさんが頑張って開発してくれたから」だという。
YHやDLも負けじと開発を進めているが、BSの開発力がそのさらに上にあるのは、リザルトが証明するように隠しようのない事実だ。
この現状に、昨季からパドックでは「BSじゃなきゃ勝てない」と合言葉のように言われてきた。しかし、GT500を主戦場とするBSには、GT300への供給台数に限りがある。BSが欲しい、でもお金を払っても手に入れられないチームのなかには、諦めムードが漂うこともある。
その一方で「BSじゃなきゃ勝てないと思われることが恥ずかしい」と話すのが25号車のHOPPY 86 MC、土屋武士監督だ。25号車はストレートスピードでGT3に劣るマザーシャシー
で勝つべく、無交換で戦えるタイヤをYHと開発。
「コース上で抜けないならピット時間を縮めよう」。それが実り、2016年シーズンのチャンピオンとなった。しかし、2018年シーズンのLEON AMG(65号車)は、重くてタイヤに厳しいGT3でのタイヤ無交換を果たして王者となった。25号車のタイヤは少なからず進化を続けてきたものの、そのベースは16シーズンのものであり、苦戦が続いていた。
今季に向けて25号車は、タイヤ開発に大鉈を振るったという。その新タイヤは開幕戦に間に合わなかったが、3月末の富士テストでトップタイムを刻んだ。実戦投入は次戦富士。そしてその新タイヤは富士スペシャルではなく、この先どのサーキットでも戦闘力を上げてくれるそう。「待ってろBS!」。武士監督は力強く口にした。
25号車のこの動きは、ほかのYH、DLユーザー、そしてタイヤメーカーへの刺激にもなる。これまでは強すぎるBSにネガティブな意見も多かったが、これからは「打倒BS」を合言葉に、さらにハイレベルな戦いが繰り広げられることになるだろう。
■最多勝を争う新田守男と高木真一が開幕戦から直接対決。若き相棒に継承される、経験と“宿命の戦い”
2019年シーズンのGT300は宿命の対決で幕を開けた。荒天のため5回のセーフティカー(SC)先導があり、2回の赤旗で決勝は30周で終了。その状況において、GT300最多勝記録20回で並ぶK-tunes RC F GT3(96号車)の新田守男、ARTA NSX GT3(55号車)の高木真一が魅せた。
SC先導から4周目でスタートが切られると、直後の1コーナーで2番手スタートの新田がポールシッターの高木のインに飛び込む。ここは高木が抑えきるが、サイド・バイ・サイド、テール・トゥ・ノーズの戦いはバックストレートまで続いた。
新田は続くヘアピンのブレーキングでしかけるつもりだったが、その直前にHOPPY 86 MCのクラッシュがありSC導入。いったん仕切り直しとなる。
新田と高木はかつて12年間コンビを組み、そのすべてでミッドシップの車両を使っていた。フロントが軽いミッドシップはフロントタイヤが温まりにくいこと、さらに互いの走りを熟知しており“早めのしかけ”をともに承知していた。
11周目にレースが再開されると、2コーナー立ち上がりの水溜まりで加速が鈍った高木を新田が抜いていく。新田はその瞬間を「僕の“しかけ”が分かっていたからこそ、真一は
ラインを変えて機先を制すつもりだったんだと思う」と振り返った。新田はそのまま勝利し、21勝目を手にした。
この宿命の対決は、前日の予選からすでに始まっていた。新田と高木はそれぞれQ1を走り、Q2は55号車が福住仁嶺、96号車は阪口晴南が担当した。そしてふたりのルーキーのみがコースレコードを更新し、福住がポールポジションを獲得、阪口が0.016秒差でそれに続いた。
55号車と96号車の今季のチーム環境には共通点が多い。ベテランとハコ車でのレースが初めてというコンビ。監督はいずれもドライバーとして名を馳せた鈴木亜久里監督(55号車)と影山正彦監督(96号車)。タイヤも同じブリヂストンだ。
新田と高木は惜しみなく自分たちの経験を若き相棒に伝え、両監督はルーキーにQ2を任せるほどに信頼を寄せる。勉強家の福住と阪口は大先輩から多くのことを吸収し、早くもデビュー戦で期待に応えてみせた。
新田と高木は「あまり戦いたくない相手。本当は(チームメイトとして)一緒に乗っていたい」と口をそろえる。しかしこの2台が今季、対峙することは多いはずだ。そして、福住と阪口はプライベートで会うほどに仲が良い。新田と高木だけでなく、福住と阪口という新たな“宿命の対決”も、今季最終戦まで続いていく。
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