先代モデルではプラットフォームを共有していたBMW1シリーズが、現行型ではFF(前輪駆動)へと変更された。前輪駆動のプラットフォームを採用した2シリーズグランクーペが追加されたことで、後輪駆動の2シリーズクーペのニューモデルは登場しないのではないかと不安になった。
しかしFRにこだわるBMWは、その不安を一掃した。2022年2月に現行型となる2シリーズクーペを発表し、3月からデリバリーを開始することになっている。
新型BMW2シリーズ試乗!! 日独クーペ対決! スバルBRZはBMWの実力に届くのか?
コンパクトサイズの2ドアクーペといえば、2021年に登場したGR86/スバルBRZがある。そこでここでは、同じFRの2ドアクーペであるBMW2シリーズクーペとスバルBRZの比較試乗を行った。
文、写真/萩原文博
希少種となったFRの2ドアクーペ
220i Mスポーツの走行シーン
2022年2月に登場したBMW2シリーズクーペは、1966年に登場したBMW02シリーズの系譜を受け継ぐモデル。そのスポーティで美しいデザインと高いパフォーマンスはコンパクトクーペのカテゴリーにおけるベンチマークといえる。
現行型2シリーズクーペは、先代のスポーティな走りにさらに磨きをかけるため、軽量化と同時にサスペンション取付部やアンダーフレームを強化した高剛性ボディを採用。その結果、ロール剛性の強化、スポーティなハンドリングに加えて、衝突時の安全性能も向上させている。
また、軽量・高剛性なアルミニウムをボンネットをはじめ、エンジン・キャリアやエンジン・キャリア接続部に採用することで、ボディ剛性の強化と軽量化を両立させているのが特徴だ。FRの駆動方式を採用し、前後50:50の理想的な重量配分を実現し、BMW特有の駆け抜ける歓びを具現化している。
2シリーズクーペの外観デザインは、ワイドで逞しさ溢れるボディと躍動的なキャラクターラインによって、アスリートのような筋肉質なスタイリングを形成している。また、シャープで精悍なフロント&リアデザインによってクーペらしいスタイリッシュな雰囲気が漂っている。
一方、現行型BRZは2021年7月に登場した。採用しているシャシーは旧型からのキャリーオーバーだが、スバルグローバルプラットフォームの開発から得たノウハウを採用。さらにインナーフレーム構造や構造用接着剤などによりボディを再構築しているこだわりようだ。
その結果、旧型に対してフロント横曲げ剛性約60%、ねじり剛性を約50%向上。ハンドル操作への応答性を高めて、より軽快な動きを実現させると同時に旋回時のトラクション性能を向上させている。
現行型BRZは、ルーフ、エンジンフード、フロントフェンダーに軽量なアルミニウムを採用。エンジン出力や安全性の向上に伴う車両増を抑制すると同時に、前後左右重量の適正化し、さらなる低重心化を実現。また、前後重量配分は55:45(MT車は53:47)となっている。
BRZの外観デザインは、フロントのヘキサゴングリルにより低重心を主張するとともに、グリルからはじまり、後方へ連なる芯の通った想像系により、体幹の力強さを実現。さらに、絞り込んだキャビンと力強く張り出したフェンダーのダイナミックな抑揚が、高いポテンシャルを感じさせる。
それでは、BMW2シリーズクーペとスバルBRZを様々な角度から比べてみる。まずはボディサイズからだ。今回試乗した220iクーペMスポーツは、全長4,560mm×全幅1,825mm×全高1,405mm。一方のスバルBRZ S は、全長4,265mm×全幅1,775mm×全高1,310mmとBRZのほうがコンパクトになっている。
この数値差は、後席の広さにリンクしていて、BRZのリアスペースは+2の荷物置き場で、大人が移動するのは正直辛いと感じるレベル。一方の2シリーズクーペは、余裕とは言えないが、大人が乗って短時間の移動ならば問題ない広さが確保されている。
ボディサイズで大きなアドバンテージのある220iクーペMスポーツの車両重量は1,530kg。一方、BRZ Sの6速AT車の車両重量は1,290kgと240kgの差がある。この差が走りにどのように影響するのかがポイントだ。
搭載しているパワートレインは、220iクーペMスポーツが最高出力184ps、最大トルク300Nmを発生する2L直列4気筒ガソリンターボ+8速AT。一方のBRZ Sは最高出力235ps、最大トルク250Nmを発生する2.4L水平対向4気筒ガソリンエンジン+6速ATとなっている。
どちらも使用燃料はハイオクガソリンで、燃費性能はWLTCモードで220iクーペMスポーツは13.3km/L、BRZ Sの6速AT車は11.7km/Lと排気量の小さい220iクーペMスポーツがリードしている。
運転支援システムは、220iクーペMスポーツは最新鋭の安全機能ドライビング・アシストを標準装備。アクティブ・クルーズ・コントロール(ストップ&ゴー機能付)、レーン・チェンジ・ウォーニング(車線変更警告システム)およびレーン・ディパーチャー・ウォーニング(車線逸脱警告システム)、サイド・コリジョン・プロテクションおよび衝突回避・被害軽減ブレーキ(事故回避ステアリング付)、クロス・トラフィック・ウォーニング、ペダル踏み間違い急発進抑制機能を標準装備している。
さらに、車両が時速35km以下で直前に前進したルートを最大50mまでを記憶し、その同じルートをバックで正確に戻ることが可能となるリバース・アシスト機能が採用したパーキングアシスタントを標準装備している。
一方のBRZ Sの6速AT車には、運転支援システム「アイサイト」を標準装備。アイサイトver.3をベースとしていて、プリクラッシュセーフティをはじめ、後退時ブレーキアシスト、全車速追従機能付クルーズコントロール。AT誤発進・誤後進抑制制御、車線逸脱警報/ふらつき警報/先行車発進お知らせ機能。
さらにアイサイトセイフティプラス(運転支援)として、スバルリアビークルディテクション(後側方警戒支援システム)、ハイビームアシストの9つの運転支援機能を採用している。
ただし、スポーツカーのBRZらしく、約60km/h以上で走行している際に、車線からはみ出しそうになるとステアリング操作のアシストを行い車線からの逸脱を抑制する車線逸脱抑制機能は装備されておらず、あくまでもドライバーに主導権を与えている印象を受ける。
車両本体価格は、220iクーペMスポーツの車両本体価格は550万円。コンフォートパッケージをはじめとした47万2000円分のオプション装備が装着されており、試乗車の価格は597万2000円。
一方のBRZ Sの6速AT車は車両本体価格343万2000円。車両本体価格だけで200万円もの差が付いているのだ。
ピュアスポーツのBRZとラグジュアリースポーツの2シリーズクーペ
BRZ S 6速AT車の走行シーン
試乗してみると2台のキャラクターは大きく異なることがわかる。ズバリBMW220iクーペMスポーツは、ラグジュアリースポーツであるのに対して、BRZ Sはピュアスポーツカーだ。どちらもリアタイヤへのトラクションの掛かりが良く、ハンドルに対して非常に素直な旋回性能を見せる。
220iクーペMスポーツのハンドリング特性がニュートラルな味付けに対して、BRZはややアンダーステア気味だ。FRなのにアンダーステアと聞くと嫌な感じだが、多くの人が乗りやすいようにということを考えての味付けで、ポジティブに捉えている。
乗り味は、220iクーペMスポーツのデバイスを効かせた重厚感のあるフラットな乗り味に対して、BRZは軽快さを前面に押し出した走りが特徴。ロール量も適度に感じさせてくれるので、ドライバーは今クルマがどのような状態で走行しているのかが把握しやすいのだ。
そして、BRZのどこまでも廻っていきそうな感覚は2.4L水平対向4気筒自然吸気エンジンという大排気量・自然吸気ならではのもの。こういったフィーリングをこの時代にあじわえるのも非常に尊い。
安定感抜群のラグジュアリースポーツが欲しいというのであれば220iクーペMスポーツだろうが、ドライバーがクルマを操る感覚をダイレクトに感じられるのはBRZのほうだ。しかも価格差が200万円もある。
そうなるとFRを手軽に楽しめるという点で見ればBRZに軍配を上げたい。さらに言えば、スポーツカー=MTと言われがちだが、アイサイトを搭載したBRZはATでも十分スポーツを堪能できることを証明し、これまでの常識を覆してくれた。
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