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不遇が保った最高のオリジナル状態 アルヴィス10/30 隠れたワークス・マシン(2)

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不遇が保った最高のオリジナル状態 アルヴィス10/30 隠れたワークス・マシン(2)

不遇が最高のオリジナル状態を保った

起伏の緩やかな道で、アルヴィス10/30のドライビング体験の中心にあるのは、細いタイヤ。常に進路はソワソワし、路面の凹凸や亀裂へ進路が乱される。絶対的な速度域が低いため、手に汗を握るほどではないけれど。

【画像】隠れたワークス・マシン アルヴィス10/30 同年代の量産車 蒸気機関ロードローラーも 全107枚

ブレーキは、リアアクスル側に組まれたドラムのみ。それでも、動力性能を考えれば制動力は充分。減速時に不安を感じることはない。

ステアリングホイールの反応はダイレクトで、レシオはスローながら遊びは最小限。小さなボディで大型車に迫る洗練性を与えようとした、アルヴィスの創業者、トーマス・ジョージ・ジョン氏の意志はしっかり10/30で体現されていたといえる。

現代人が運転時に配慮するべきは、クラシカルな4速MT程度といっていいだろう。1920年代に、本物のドライビング体験といえるものを提供していた。

ブルーに塗られた、10/30のモータースポーツ・キャリアはさほど長くなかった。アルヴィスはより高性能なモデルを開発し、1922年9月には売却されている。

しばらく一般道で乗られていたようだが、ダムアイアンと呼ばれるシャシー端部にある部品が破損。1932年以降は、保管された状態にあった。

「不遇が最高の状態を保ちました」。と、アルヴィスのブランドを継いだレッド・トライアングル社の代表を務める、アラン・ストーテ氏は笑顔を浮かべる。シャシーが壊れ、修理する費用を工面できなかったことで、オリジナル状態が残されたと考えている。

コダワリが随所に表れるディティール

裕福な人が乗っていたら、改造が加えられ、どこかの時点で激しい損傷に見舞われていたかもしれない。そのかわり、再生する価値が認められるまで、ガレージで長い眠りについていた。

最初のレストアへ着手されたのは1959年。マイレトン自動車博物館の学芸員に買い取られ、走れる状態が取り戻された。

その後、アメリカ人が購入しカリフォルニアへ輸送。ロサンゼルスの高速道路でオーバーヒートを起こし、そのまま約30年間修理を受けることはなかった。

1989年にアランが放置された10/30を発見し、レッド・トライアングル社がレストア。カリフォルニアで明るいイエローに塗られていたボディは、当初の落ち着いたブルーへ塗り替えられた。

とはいえ、ボディカラー以外は、ほぼ1922年当時の状態が保たれていたそうだ。10/30の残存車は4台あると考えられているが、その中でも特にオリジナルへ近いという。

ラジエターの頂部を飾るブルーとグリーンのロゴなど、ディティールにはアルヴィスのコダワリが随所に表れている。後年、アルヴィスはランカスター爆撃機を製造したアブロ社のロゴと似ているという理由で、逆三角形にレッドのロゴへ置き換えた。

ダッシュボードにはアルヴィスではなく、それ以前のT.G.ジョン&カンパニーのロゴが記される。エンジン上部のアルミ製部品も同様。創業初期のモデルであることを物語る。

ラジエターの先端にいるウサギのマスコット

2シーターのボディを、コーチビルダーのクロス&エリス社が手掛けた理由は定かではない。スポーティな印象は薄いものの、バランスが整い見た目に心地良い。

フロントガラスのフレームは細く、ソフトトップの骨組み部分には、丁寧に加工された木材が用いられている。アルミ製のボディパネルも、仕上げが美しい。

キャビンはタイトだが、ボディ後方のパネルを開くと格納式のリアシートが出現する。リアフェンダーには、乗り降りしやすいようフットレストが備わる。大人なら1人だが、子供なら2人は座れるだろう。

アルヴィスのマスコット、野ウサギがラジエターの先端に座っている。可愛らしいだけでなく、車重の軽さを重視したトーマスの意志も伝わってくる。

完全なオリジナルというわけではない。フロントガラスには、小さなワイパーが1本追加されている。ボディ側面へ伸びた自転車用ブレーキワイヤーを引くと、2段に分かれたフロントガラスの上半分が拭ける。多少は視界が保たれる。

アランは、補助ライトのブラケットはオリジナルながら、ライト自体は後に追加されたものだと考えている。アルヴィスのレーシングカーとして、取り付けられたアイテムではないという。

自動車史に刻まれる成果を残した起源

アルヴィスの狙い通り、隠れたワークス・マシンといえた10/30は、1922年の春から夏にかけてレースで活躍。ミドルレンジの高級車として、平均より上の経済力を持つ英国人から支持を集めた。生産能力は小さく、ディーラー網も限られていたが、好調に売れた。

さらに、正式にモータースポーツ活動もスタート。1926年の第1回英国グランプリへ、初の純粋な英国製マシンとして出場を果たした。1928年には、前輪駆動のマシンでル・マン24時間レースへ参戦し、1.5Lクラスで優勝した初めての英国チームにも輝いた。

アルヴィス初の量産モデル、10/30は、その後の例ほど価値が認められていない。しかし、自動車史に刻まれる成果を残したブランドの起源として、見過ごされるべきではないだろう。筆者にとって、大きな興奮を誘う初対面となった。

協力:レッド・トライアングル社

アルヴィス10/30(1920~1923年/英国仕様)のスペック

英国価格:550ポンド(新車時)/7万5000ポンド(約1357万円)以下(現在)
販売台数:619台
全長:−mm
全幅:−mm
全高:−mm
最高速度:96km/h
0-97km/h加速:−秒
燃費:11.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:708kg
パワートレイン:直列4気筒1460cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:30ps/3500rpm
最大トルク:−kg-m
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

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