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スラントノーズの優勝マシン ポルシェ935 K3を再現 中身は911 カレラ2.7 MFI 前編

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スラントノーズの優勝マシン ポルシェ935 K3を再現 中身は911 カレラ2.7 MFI 前編

936を破り総合優勝を掴み取った935 K3

このスラントノーズのステレオデッキには、ドイツのブラウプンクト社ではなく、英国のレコード会社、デッカのロゴが入っている。見た目からして普通ではないことは明らかだが、特別なポルシェを作りたいと考えた人物を象徴する、小さな証といえる。

【画像】スラントノーズの優勝マシン 935 K3レプリカ 3.0 RSRとRS 3.8 917K 最新911も 全142枚

ベースは1974年式の911 カレラ2.7 MFI。ドイツ・ケルンに拠点を置くクレマー・レーシングが手掛け、ル・マン24時間レースで優勝たした935 K3へ強い影響を受けている。

初代オーナーはミッキー・モスト氏。アニマルズやジェフ・ベック、ホット・チョコレートなど、錚々たるミュージシャンの音楽プロデューサーを務めた。

クレマー・レーシングは、ポルシェ911 ターボのレーシングカー仕様、935をベースにした「K3」で1979年のル・マンへ参戦。規模で勝るポルシェのファクトリー・チームが準備したプロトタイプマシン、936を破り総合優勝を掴み取った。

ライバルチームは、軒並みメカニカル・トラブルに悩まされていた。激しい雨が続き、性能差は本来より大きく縮んでいた。多くの幸運がもたらしたとはいえ、勝利したことは事実だ。

アグレッシブなホワイトのボディには、鮮やかなレッドのラインが引かれていた。風洞実験で導かれた、滑らかなラインのように。当時のクルマ好きの脳裏へ、935 K3が強烈な印象を刻んだことは間違いないだろう。

ウォルター・ウルフ氏も欲した935 K3

程なくしてクレマー・レーシングには、ル・マン優勝車を再現した911を制作して欲しいと、少なくない依頼が入るようになった。F1チームのオーナーだったカナダの実業家、ウォルター・ウルフ氏もその1人だ。

彼が頼んだポルシェは、1979年の優勝マシンに忠実な1台。正真正銘のル・マン・マシンを、公道走行可能な状態へ仕上げたような内容だった。スラントノーズのボディは鮮やかなブルーで塗られ、サイドにレッドのラインが施された。

そしてモストも、ポルシェの大ファンだった。ポルシェ356をコレクションし、毎日のように特別な911 カレラ2.7 MFIを乗り回していた。

人気曲を次々にプロデュースした彼は、世界的なヒットメーカーの1人だった。サンデー・タイムズ紙の長者番付に名を連ねるほど、巨万の富を得ていた。

911 カレラ2.7 MFIの機械式インジェクション・エンジンと5速MT、サスペンションなどは、通称ナナサンカレラとして知られるカレラRS 2.7と同じ。1975年に930型の911 ターボが発売されるまで、市販ポルシェとしては最も高性能だった。

ただし、901型のボディシェルはGシリーズへアップデートされていた。カレラRS 2.7のような、派手なダックテール・スポイラーなども備わっていなかった。

モストは、他とは違う1台を欲したのだろう。極めて珍しい1974年式カレラRS 3.0へ与えられた、ホエールテールと呼ばれる巨大なリアスポイラーとワイド・フェンダーをまとう、カレラ2.7 MFIをポルシェに作らせたという。豊かな資金力で。

ベースはGシリーズの911 カレラ2.7 MFI

ワイドなカレラ2.7 MFIをモストは気に入り、ロンドンの市街地を走る姿がしばしば目撃された。だが、ル・マンで優勝した935 K3の魅力からは抜けきれなかったようだ。

クレマー・レーシングを訪れた彼は、新しい911ターボ 3.3や911 SC 3.0をベースに、公道走行できるクルマを仕上げては、と提案を受けたらしい。しかし、ポルシェのコレクターとして、所有する1台をベースにしたいという考えを持っていた。

そもそもレーシングチームのクレマーが、顧客の要望へ応じて特注の1台を製作することは一般的ではなかった。それでもモストは諦めきれず、1983年に説得へ成功。既に9年落ちになっていた911 カレラ2.7 MFIをベースに、今回の1台が生み出された。

現在のオーナーは、アラステア・アイルズ氏。カギをお借りし、ステアリングホイールを握らせてもらう。発進して最初に気が付くことは、ステアリングレシオがクイックなこと。

基本的にはカレラ2.7 MFIと同じもので、パワーアシストは備わらない。低速域でステアリングが重いものの、スラントノーズの向きを左右へ変えるには、最小限の入力で済む。

クレマーの技術者によって、前後のサスペンションには太いアンチロールバーが組まれている。カーブでは驚くほどフラットに旋回し、ステアリングのレスポンスをさらに強調している。

パワーオン時のトラクションは明らかに高い

地面に付きそうなほど低い、フロントスプリッターもクレマー独自のアイテム。クラシックな911の弱点といえる、高速走行時にフロントノーズが軽くなり、ステアリングホイールへ伝わる感触が薄れるという特性を改善している。

全体的な印象はこの年代の911と変わりないが、パワーオン時のトラクションは明らかに高い。僅かにリアを沈ませつつ、移動した荷重で285幅のリアタイヤが路面へ押し付けられる。今日の試乗コースには砂が浮いていて、気を抜けないが。

935 K3と同じフロントノーズやフェンダーラインを得たことで、15インチのホイールもワイド。フロントには2J増しの8J、リアには4J増しの11Jというサイズが組まれている。リアウイングも巨大だ。

機敏なステアリングと相まって、思い切り振り回しやすい。アクセルペダルを急に緩めても、リアがボディを押し出すような挙動は抑えられている。路面の凹凸を越えると、太いタイヤを通じて手のひらへ明確なキックバックが伝わる。

フロントにオイルクーラーが追加されているものの、パワートレインはカレラ2.7 MFIのまま。レーシングカー然とした見た目とは裏腹に、強烈に速いわけではない。

最終的にクレマー・レーシングがモストへ請求したカスタム費用は、9700ポンド。当時は、新車の911 SCの7割近い金額に達した。

この続きは後編にて。

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