4月末、日本のスーパーフォーミュラの車両を使った画期的なレースイベントがアブダビで開催された。それがアブダビ自律運転レーシング・リーグ、通称”A2RL”だ。
スーパーフォーミュラSF23に、自動運転のための機構を取り付けたA2RLのマシンは、なんと無人。あらかじめプログラミングされ、自律走行するマシンがサーキットを駆け抜けていく姿は、モータースポーツの新たな時代の到来を予感させた。
■スーパーフォーミュラマシンを使った自動運転レース”A2RL”。歴史的最初のレースはドイツのTeam TUMが優勝
そんなA2RLを、スーパーフォーミュラの関係者も数名現地で観戦したという。そのひとりが、スーパーフォーミュラを開催する日本レースプロモーションの上野禎久社長だ。
「日本で育ったスーパーフォーミュラがヤス・マリーナ(サーキット)の煌びやかな照明の下で走っている姿だけでも感慨深かったですが、現状人間の乗ったクルマの10秒~12秒落ちくらいでヤス・マリーナを走る無人の車両を見た時に、すごく未来を感じました」
上野社長はスーパーフォーミュラ第2戦の定例会見の中でそう語った。
「彼らとも話をして『いつの日か日本でやりたいね』という話もされていました。未来を想起させるようなレースが生まれたことをとても喜んでいます」
「人が乗っていないとはにわかに信じ難いほど、素晴らしい技術が披露されていますので、ぜひご関心を持っていただければと思います」
A2RL側から「いつの日か日本でやりたい」との言葉をもらったと語った上野社長だが、日本での開催については実際に議論をしているとのこと。AI学習のため事前の走り込みが必要だったりと様々な課題はあるものの、「いつやるということではないんですけども、デモンストレーションを含めて、近い将来できたらなと思っています」と語った。
アブダビに出向いていたのは上野社長だけではない。スーパーフォーミュラに参戦するTGM Grand Prixを運営するセルブスジャパンからも、池田和広代表を含めて数名が現地で観戦したという。
「バブリーな国でしたね(笑)」と冗談まじりにアブダビの感想を語る池田代表。無人のレースには賛否があるかもしれないが、A2RLはエンジニアリングカンパニーにとっては非常に魅力に映っている様子。かつてはチーム郷のメンバーとしてル・マン24時間総合優勝も経験した池田代表の“世界”への熱も高まっているようで、参戦にかなり前向きであることを明かした。
「あの熱の入りようだと、5年後、いや数年後にはかなりの精度で開発が進んでいくのではないかという印象を受けました。何より、エンジニアたちが国を挙げて競い合っているという雰囲気がレースでしたし、『レース良いよな』という気持ちになりました」
「昔ドイツに行っていた時の情熱がつきはじめちゃって、レースをやる意味を再確認しました。今は日本チームもいないし、『来年日本代表で参加します!』って思わず言ってきちゃいました(笑)。出れるかどうかはこれからの話ですけどね」
セルブスジャパンは、フォーミュラEの黎明期にもアムリン・アグリにスタッフを送り込むなど、エポックメイキング的なカテゴリーには積極的に関わってきた。「新しいものが始まる時は、やはり自分たちの目で見ることは大事にしています」と池田代表は言う。まだ確立されていない技術の場に身を投じ、技術の進歩やモビリティの進化に貢献できることに、やりがいを感じているのだ。
さらにはインタビューの中で、将来的にFIA F2への参戦も検討していると明かした池田代表。「権利を買って(自チームとして参戦)というところまでは難しいと思いますが、今まで(日本国内での)受け仕事として、必要とされるところで技術提供をしてきた。その延長線上で、F2で必要とされるところからの仕事を受けられれば、ヨーロッパでレースをやりたい人たちがより気軽に行けるようになるはず」と野望を口にした。
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