数か月前「KOKIDOSHA」今は「メガクルーザー」
自衛隊で使用済みとなった車両は民間への払い下げが禁止されており使用済み車両は再利用できないよう、破砕(溶解)をして鉄くずとして処理する規則がある。かつては解体された部品を集めて再度組み立ててマニアが趣味として所有しているケースもあったが現在はそれも厳しくなっている。
【画像】「高機動車」って何? さらに知る 詳細イラストや実地から【ディテール】 全16枚
公道を走れる車両としてナンバーを取得することなどは100%ありえないし、クルマの形で海外に持ち出されることも不可能なはずだ。
しかしながら、ロシアで展開する複数の中古車サイトでは「トヨタ・メガクルーザー」として自衛隊で使用済みとなった複数の高機動車が販売されている実態がある。
実は数か月前までは、これらの多くは「KOKIDOSHA」(高機動車)として販売されていた。現在は筆者が探した7~8台の中には「KOKIDOSHA」として販売されている車両はなかった。
事情通によると今年4月頃から「トヨタ・メガクルーザー」として販売されるようになったそうだ。なぜ、メガクルーザーなのか? 詳しくは後述するが、2023年3月に日本の国会(安全保障委員会や衆院外務委員会)にて何度か高機動車に関する質問がおこなわれたことに関係している可能性が高い。
発端となったのは2022年11月にウクライナのテレグラムサイト「NMTE」に投稿された写真である。写真にはロシア軍で日本国自衛隊が使用していた車両が軍事車両として使用されているという説明がついていた。
その後、動画共有サイトでは実際に高機動車とみられるロシア軍の車両が複数台連なって走行するシーンを撮影した動画も流れている。
どうみても、日本の自衛隊で役目を終えた高機動車にしか見えない車両がウクライナを攻撃するロシア軍の車両として使われているわけだが、車両を管理する防衛装備庁は「自衛隊で使われている高機動車に外観は似ているが確実な証拠がない」としてこれを否定している。
高機動車とはどんなクルマなのか?
高機動車とは1990年代前半から普通科連隊を中心に配備が始まった車両で、本来の目的である人員輸送やトレーラーの牽引の他、対空ミサイルや対戦車ミサイルなどの搭載も可能な汎用性の高い車両としても知られる。
もちろん、圧倒的な信頼と悪路走破性を誇るトヨタ製の四輪駆動車であり、最低地上高も42cmを確保しているから日本の自衛隊では使用済みとなっていても必要な地域では手に入れたいクルマなのだろう。
トヨタ・メガクルーザー(UBX20)をベースに開発されているため高機動車の型式番号は「UBX10」(トヨタ製15B型搭載)、「XCD10」(日野製N04C型搭載)となる。トヨタ自動車が開発し日野自動車にて製造されてきた。
これまでに約4300台が自衛隊に納入されており2023年2月末現在でうち1800台が使用済みとなっている。
高機動車と民生用のメガクルーザーの違いは明確だ。高機動車の後部は幌型となっており、前席以降は荷台に向かい合わせで4名×2列のシートが配置され最大8名が座れる仕様となっている。
これに対して民生用メガクルーザーは幌型ではなくクローズドボディのSUVで前列に運転席/助手席、後列に4席分が横に配置されている。
決定的な違いは4.1Lディーゼルターボエンジンの違いだ。前述したようにエンジンの違いで型式番号も異なる。高機動車は2003年度までトヨタ製「15B」型を搭載していたが排ガス規制の段階的な強化に対応し2004年度以降は日野製の「N04C」型に切り替えている。いっぽう、2001年で生産を終了したメガクルーザーは15B型のみだ。
ロシアでメガクルーザーとして販売されている高機動車の中には搭載エンジンが「N04C (common- rail, turbo)」と記載されているものもあるが、これはメガクルーザーには搭載されるはずのないエンジンである。
さらに注目すべきはロシアの中古車サイトに出ている高機動車のページにある「注意書き」だ。
ロシアの中古車サイトに「注意書き」
下記は、ロシアの中古車サイトで売られている高機動車と見られるクルマに関するレポートである。
車体番号レポート
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「電子PTSが発行されませんでした。EPTSデータベースにはこの車両に関する情報がありません」
「おそらく、EPTS登録手続きをまだ通過していないか、いくつかの問題があるため、所有者が意図的に間違った車台番号を指定した可能性があります。気をつけて!」
これが本当にメガクルーザーであり、正規の手続きを経てロシアに入ってきているなら当然、車台番号も書類もあるはず。
それがないということは……この高機動車とみられる車両が自衛隊で使用済みとなって本来は絶対海外に出るはずがない車両である可能性がある。
国会答弁に立った防衛装備庁の土本長官
令和5年3月17日の第211回国会(衆院外務委員会)にてロシア軍が陸上自衛隊の高機動車とみられる車両を使っているとの疑惑を巡る質疑がおこなわれた。
質問したのは自らも予備自衛官の経験がある鈴木あつし(国民民主党衆議院議員)委員である。
予備自衛官時代、高機動車を操縦した経験もあると委員会の中で述べており、高機動車の仕様についても非常に詳しい。
鈴木氏は以下の質問をした。
「安全保障委員会(3月9日)で斎藤アレックス議員からも質問したがロシア国内で整備中とされる軍用車両の中に、わが国の陸上自衛隊の高機動車が写っているという問題について改めてご説明をお願いします」
答えたのは防衛装備庁長官の土本政府参考人である。
「委員御指摘の情報については承知しております。用途廃止いたしました高機動車は、鉄くずとして処分するため、1つは、機微性のある部分をまず取り外すということ、その上で、防衛省・自衛隊と特定できる銘板、これは組織名等が書いてある板みたいなものでございますが、こういうものを取り外して業者に分解、破砕させているのが今の現状でございます」
「このため、高機動車と指摘される車両につきましては、防衛省におきましても画像を確認いたしましたが、外観上の類似性は認められるものの、画像だけでは自衛隊で売払いした車両と同一か否かは判断できないということでございます」
「しかしながら、過去にも自衛隊専用車の類似品が転売される旨の情報があったことから、転売防止策としまして、関連規則の改正を平成30年及び令和4年におこなってきたところでございます」
自衛隊車両の解体はザルだらけ?
土本氏の答弁に対して鈴木委員は予備自衛官をしていた経験から、「ヘッドライトの横についている管制灯火ランプの穴を見ても、どう考えても高機動車でメガクルーザーではない」と詰めた。
しかし、その後の土本政府参考人の答えは同じことの繰り返しで、「外観上は似ているが防衛省/自衛隊と特定できるものは全て取り外して業者に分解、破砕させているので確認できない」との回答だった。
おそらく現在も廃棄車両については防衛省、防衛装備庁などがこれまでに高機動車を売り払った全国25社の業者に対して確認をおこなっていると思われる。
高機動車をはじめ自衛隊で使用済みとなったすべての車両は再利用して市場に流通させないための厳格な規則がある。
陸上自衛隊では転売や再利用を確実に防ぐため、平成30年と令和4年に関連規則の改正をおこなっているとのことだが、高機動車は戦車などの完全な戦闘用の車両に比べると解体時の処理については実際にはそれほど厳しくはない、という情報もある。
「使用済み車両」に関する陸上自衛隊の仕様書には転売の禁止や引渡車両の解体/処分要領などが定められているが、これをまとめると以下となる。
・外観から自衛隊車両と判別できる車両のキャビン、ボディなどの外装部品、フレームは一切転売禁止
・使用済み車両を落札した業者は車両を引き渡した3か月以内に規則に従ってプレス、せん断処理または電炉等における溶解まで実施
・車台番号ごとに破砕または溶解後15日以内に撮影した工程写真を添付
・車台番号の断片確認が困難な場合には官側の現地確認を受ける
高機動車も使用済みとなればこれらの規則に従ってバラバラに破砕または溶解されるべきであり再利用はもちろん、ロシア軍が使用する車両として販売されることなどあってはならないことである。
しかし、自衛隊車両の解体もおこなっているとある解体業者は驚きの実態を語ってくれた。
「バラバラにされたパーツが輸出されて海外で組み立て車両として再利用しているなんて話は以前からありましたが、高機動車は戦車と違ってここまで細かくしませんよ」
「自衛隊のバッジやナンバーをはずして車台番号をわからなくすればOKでは? 川崎や横浜など首都圏の港は監視の目が厳しいですが、地方の港だったら……」
「提出が義務付けられている破砕溶解後の写真も、他車のものを使い回してるんじゃないですか?」
日本国民の税金で購入され、日本の自衛隊で使われていた車両がウクライナを攻撃するためにロシア軍で使用されている……。
悪夢としか言いようがない。引き続き防衛省や関係者に取材を進めて事実を明らかにしていきたい。
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みんなのコメント
販売ルートをしっかり洗って業者を特定して欲しい。
この業者の金稼ぎのために日本人全員が恥かかされてる。
あいつらに日本語も法律も通用しないからな。