現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > テスラの「EV墓場」が米国に出現! やっぱり原因は“直販システム”だったのか?

ここから本文です

テスラの「EV墓場」が米国に出現! やっぱり原因は“直販システム”だったのか?

掲載 103
テスラの「EV墓場」が米国に出現! やっぱり原因は“直販システム”だったのか?

テスラの“EV墓場”世界的に拡散

 筆者(アンリ・ブロッサム、自動車ジャーナリスト)は先日、当媒体に「“EV墓場”が米国にも出現? ネット上でテスラ新車の“屋外放置”画像が話題、販売低迷がもたらした新たな辛らつな光景とは」(2024年6月6日配信)という記事を書き、国とドイツでテスラの新型車が大量に放置されている“EV墓場”の存在を報じた。振り返りのため、概要を箇条書きにする。

「EV」が日本で普及しない超シンプルな理由 航続距離? 充電インフラ? いやいや違います

・テスラは2024年第1四半期、販売台数で20%減の38万6810台を記録し、EV需要の軟化が浮き彫りになった
・世界的に電気自動車(EV)販売の減速が進むなか、テスラも生産台数を上回る納品前在庫が急増している
・米国やドイツでは、大量のテスラEVが放置される“EV墓場”の光景が広がりを見せており、SNSで拡散されている
・販売の減速により、テスラは新モデルの投入見込みがなく、モデルYやモデル3に依存せざるを得ない状況である
・EV業界全体が需給調整を迫られ、新型車の開発見直しや延期が検討されるなか、今後の展望は不透明である

 本稿ではさらに、行き場を失った新車が大量に放置される事態を招いた要因として、テスラの直販システムについてさらに掘り下げ、そのメリットとデメリットについて考えていく。

直販の弱点

 自動車メーカーは、ディーラーを通じて車を販売するのが一般的だが、近年はオンライン販売が普及している。特に、市場に新規参入する際、販売網を構築するための費用や労力を抑えるために、オンライン販売に重点を置くケースが増えている。日本市場に再参入した現代自動車や、EVの販売を開始した比亜迪(BYD)は、オンライン販売に重点を置いていることで知られている。

 テスラは、日本だけでなく世界的にオンライン販売に力を入れていることで知られている。テスラのウェブサイトにアクセスすると、各モデルの紹介ページから試乗予約ページに誘導され、最寄りのテスラ店舗を検索して試乗予約ができる。

 テスラジャパンは現在、全国12店舗で試乗会を実施しているが、今後は試乗会を増やし、販売促進につなげたい考えだ。2024年5月には、神奈川県横浜市のみなとみらい地区と大阪府堺市に新店舗をオープンした。

 テスラの販売方法は、他の自動車メーカーが取り組んでこなかった直販のみという“一本足打法”だが、果たして効果的なのだろうか。直販の弱点を考え、そして“EV墓場”出現の最大の原因とされる在庫管理について考えた。

在庫の増減がもたらす影響

 一般的な自動車の生産の流れは、まず顧客の注文に基づいて生産計画が立てられる。必要な部品が納入され、車両が組み立てられた後、ディーラーに納品される。 その後、各ディーラーで一定期間在庫された後、顧客に納品されるのが一般的である。

 テスラのように直販を行う場合、ディーラーでの一定期間の在庫というバッファ(余裕)がなくなるため、生産工場に在庫を抱える必要がある。 バックオーダー(注文残)が出るほど販売が好調であれば、生産後すぐに納品されるため、在庫は最小限に抑えられる。

 一方、需要の急減などで納品までの期間が長引き、生産工場で在庫が積み上がると、テスラの工場周辺で“EV墓場”のような現象が見られる事態にもなりかねない。このように、直販には販売が低迷した際に在庫管理が難しいというリスクがある。

 また、ディーラーに納品せずに顧客に直販することは、販売網の構築・維持コストの削減や価格競争力の維持という点で有利であるように見える。しかし、テスラは在庫管理に多額のコストを要する高いコスト構造を抱えていることも明らかにしている。

販売モデルがもたらす変革と課題

 では、テスラのオンライン販売による直販は、現在の自動車業界におけるベストプラクティス(最善の方法)といえるのだろうか。そのメリットとデメリットを考えてみよう。
 まず、メリットとしては、

・販売網を持たないことでディーラーの中間マージンをカットできる
・顧客と直接コミュニケーションを取り顧客ニーズを的確に把握できる

ことが挙げられる。また、ブランディングの観点からも、テスラが目指すブランドイメージを直接顧客に直接示すことができ、ブランドへの信頼を高めることができる有効な手段である。

 一方、デメリットとしては、前述のとおり

・在庫管理が複雑になる
・在庫管理のリスクをともなう

ことが挙げられる。また、オンラインで簡単に注文・購入できるとはいえ、注文から納品までには一定の時間がある。

 米国では、ディーラーが事前に注文を受けた新車を、顧客が好むと思われるボディカラーやオプション装備で展示しておくのが一般的だ。顧客が気に入ったモデルを見つけたらその場で購入でき、さらに古い車を下取りに出して新車で帰宅することもできる(米国ではライセンスプレートは後日郵送される)。

 さらに、テスラのユーザーのなかには、修理やメンテナンスといったアフターサービスに不満を抱く人もいるという。具体的には、修理に必要な部品の入手が遅れることや、サービスセンターへの予約が取りにくいといった問題点が指摘されている。修理部品に関しては、ディーラーが存在しないことで在庫のバッファがないことは明らかだ。

“EV墓場”がもたらすブランド危機

 もし、テスラの新型車が大量に放置される“EV墓場”が世界中に現れ始めたら、ブランド力が低下することは避けられないだろう。

 需要が低迷するなか、在庫を一気に処分するには値下げが最速だが、販売価格の下落はブランド力のさらなる低下を招く負のスパイラルに陥る恐れもある。

 テスラは四面楚歌(そか)の状況にあるが、すでに実施している減産などの調整で乗り切る以外に当面打つ手はない。

 これはテスラにとって真の試練だが、業界に先駆けて導入した直販システムが効果的な販売方法であるかどうか証明するには、おそらく時間がかかるだろう。

 突如として現れた“EV墓場”は、テスラに直販システムを見直すよう警告しているのかもしれない。

こんな記事も読まれています

BYD「EV世界一」を達成、大成長を遂げた根本理由とは? そのカギは前進的“模倣”だった
BYD「EV世界一」を達成、大成長を遂げた根本理由とは? そのカギは前進的“模倣”だった
Merkmal
EV普及に欠かせない「EV用タイヤ」 普通のタイヤとどう違うのか?
EV普及に欠かせない「EV用タイヤ」 普通のタイヤとどう違うのか?
Merkmal
BYD、“パクリメーカー”の汚名を返上し「リチウムイオン電池」で大成長 その背後にあった「非特許技術」の活用とは
BYD、“パクリメーカー”の汚名を返上し「リチウムイオン電池」で大成長 その背後にあった「非特許技術」の活用とは
Merkmal
ディーラーvsカー用品店 クルマのメンテはどちらで行うべき? 両者は今後、共存できるのか
ディーラーvsカー用品店 クルマのメンテはどちらで行うべき? 両者は今後、共存できるのか
Merkmal
イノベーションの袋小路【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
イノベーションの袋小路【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
グーネット
【BYD シール】「売れるかは未知数」縮小する日本のセダン市場で、中国のEVはどう戦うのか
【BYD シール】「売れるかは未知数」縮小する日本のセダン市場で、中国のEVはどう戦うのか
レスポンス
EVシェア欧州拡大へ急加速! 中国「奇瑞汽車」戦略的合弁と生産拠点構築、垣間見える“中国ビッグ5”のメンツとは
EVシェア欧州拡大へ急加速! 中国「奇瑞汽車」戦略的合弁と生産拠点構築、垣間見える“中国ビッグ5”のメンツとは
Merkmal
自動車の未来を占う「構造材」 ギガキャストorプレス板? 覇権を握るのはどちらなのか
自動車の未来を占う「構造材」 ギガキャストorプレス板? 覇権を握るのはどちらなのか
Merkmal
充電バカっ早! eMPが発表した超急速充電器の「ユーザーフレンドリー」っぷりがスゴイ
充電バカっ早! eMPが発表した超急速充電器の「ユーザーフレンドリー」っぷりがスゴイ
THE EV TIMES
EVファンは熱視線? 駐車場で発電「ソーラーカーポート」、導入メリットと大注意点とは
EVファンは熱視線? 駐車場で発電「ソーラーカーポート」、導入メリットと大注意点とは
Merkmal
ルノーが中国企業と組む理由 次期「トゥインゴ」でVWと決裂、コスト削減を急ぐ
ルノーが中国企業と組む理由 次期「トゥインゴ」でVWと決裂、コスト削減を急ぐ
AUTOCAR JAPAN
2030年「トラック輸送費」34%アップの衝撃! この数値は妥当か?不当か? 中小の運送会社は本当に持ちこたえられるのか
2030年「トラック輸送費」34%アップの衝撃! この数値は妥当か?不当か? 中小の運送会社は本当に持ちこたえられるのか
Merkmal
えっ、ステーションワゴン復活? ボルボ「V60」「V90」販売中止から一転、英国で再導入
えっ、ステーションワゴン復活? ボルボ「V60」「V90」販売中止から一転、英国で再導入
AUTOCAR JAPAN
クルマの「ドアバイザー」は必要?不必要? 装着率わずか「48%」の現実、メリット・デメリットを再考する
クルマの「ドアバイザー」は必要?不必要? 装着率わずか「48%」の現実、メリット・デメリットを再考する
Merkmal
欧州vs中国「EV戦争」 最高48%の関税賦課も、中国の“報復措置”はまだ起きそうもないワケ
欧州vs中国「EV戦争」 最高48%の関税賦課も、中国の“報復措置”はまだ起きそうもないワケ
Merkmal
「子持ち様」批判は大間違い! 子連れに優しい社会は「独身者」にも優しい社会だ クルマ目線で考える
「子持ち様」批判は大間違い! 子連れに優しい社会は「独身者」にも優しい社会だ クルマ目線で考える
Merkmal
BYD、国内第3弾の電気自動車『シール』を販売開始。“e-スポーツセダン”の確立を目指す
BYD、国内第3弾の電気自動車『シール』を販売開始。“e-スポーツセダン”の確立を目指す
AUTOSPORT web
「日本の運転マナー = 三流レベル」は本当か? データ&歴史で再検証、原因は“警察”にもあったのかもしれない
「日本の運転マナー = 三流レベル」は本当か? データ&歴史で再検証、原因は“警察”にもあったのかもしれない
Merkmal

みんなのコメント

103件
  • san********
    「EV墓場」の記事でガソリン車が積みあがってる画像じゃないの?メディアとしてこのような掲載はどうなのよ?
  • as4********
    >修理部品に関しては、ディーラーが存在しない事で在庫もない

    例えば車検や修理で消耗部品の交換を余儀なくされた時、その時点から生産の発注をかけるのだろうか?
    だとするとその度に2〜3ヶ月の部品待ちで乗れない、なんて事態も出てくるだろうに。

    自分にはちょっと無理かな。
    家電じゃ無いんだから。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村