プチバン市場を開拓したスズキ ソリオ。軽より大きく、かといってミニバンより小さいほど良いサイズ。そのうえスライドドアを備えりゃ売れないワケがない、見事なパッケージングが評価されている。
ところがそんなソリオに最大のライバル「ルーミー」が2016年に登場。今や販売台数で大負け状態のソリオだが、それでも支持され続けている。そのワケとは!?
ルーミーに販売台数で大負けのソリオ……それでも評価されるワケ
文/青山尚暉、写真/スズキ、トヨタ、ホンダ
■ルーミーはソリオの約6.5倍の売上!! だがソリオは評価上々
販売台数ではライバルのルーミーに大きく差をつけられているが、ユーザーからは熱い支持を集めているスズキ ソリオ
2022年4月の乗用車新車販売台数でヤリスやカローラを抑え1位に輝いたのが、11108台を売ったトヨタ・ルーミーだ。トール×スリム×スライドドアのボディにダイハツ軽自動車のノウハウを詰め込んだコンパクトトールワゴンである。
5ナンバーサイズの中でも幅狭な車幅、両側スライドドアと、軽自動車で圧倒人気の、N-BOXなどのスーパーハイト系の兄貴分といった仕立て、キャラクターの持ち主だ。
狭い道、駐車スペースなどで威力を発揮してくれるボディサイズであることはもちろん、スライドドアならではの後席乗降性の良さ、そして何と言っても驚異的と言える室内空間の広さが注目ポイントだ。
そんなルーミーと同クラスには、兄弟車のダイハツ・トール(2022年4月の販売ランキングで36位、792台)、そしてスズキ・ソリオ(2022年4月の販売ランキングで22位、1706台)がある。
トールはともかく、ルーミーとソリオでは、販売台数に大きな開きがある。それはトヨタの販売拠点の多さもあるだろうし、ルーミーの場合、5月中旬の工場出荷時期目処が1-2カ月であるところも優位点と言えるかもしれない。
が、だからと言って、ルーミーに対して、ソリオがコンパクトトールワゴン、プチバンとして劣っているわけでは、決して、ない。むしろ優れている部分もあったりする。自動車専門家の間でも、ソリオは実用車として絶大なる評価を得ているのも本当なのである。
【室内比較】シートサイズ・乗降性はソリオに軍配!! 収納性能もバツグンだった
各所に備え付けられた収納スペースや収納機能もソリオの魅力だ
では、まずはコンパクトトールワゴン、プチバンの大きな魅力となる、室内、荷室空間を比較してみよう。
まずは前席だ。身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で、前席頭上スペースはルーミーが270mm、ソリオが300mm。シートサイズはルーミーが座面長460mm、座面幅500mm、シートバック高610mm。ソリオは座面長500mm、座面幅510mm、シートバック高610mm。
頭上方向の余裕、シートサイズでソリオがリードしていることが分かる。
乗降性にかかわる両側スライドドアの開口部寸法はどうか。ルーミーは開口幅600mm、開口高1190mm。ソリオは開口幅640mm、開口高1230mm。重要なステップ高はルーミーが366mm、ソリオは360mmだ。
つまり、ステップ高は同等ながら、スライドドアの開口部はソリオのほうが広いことになる(もっともルーミーのスライドドアからの乗降性が悪いという意味ではない)。
次に、コンパクトトールワゴン、プチバンのひとつのハイライトとなる後席居住性である。身長172cmの筆者のドライビングポジション背後に座れば、頭上にルーミーは190mm、ソリオは220mm。膝周り空間はルーミーが最大385mm、ソリオは400mm!!である。
ただ、両車ともに圧巻の広さを持っていることは間違いなく、両車ともに広すぎるぐらい、広いと感じるはずだ。が、シートのかけ心地は異なる。
ここでのポイントとなるのが、フロアからシート座面先端までの高さ=ヒール段差だ。これが高いとより椅子感覚の自然な着座姿勢になり、着座性(腰の移動量)、立ち上がり性に優れることになる。
そのヒール段差はルーミーが335mm、ソリオは355mmで、足腰の弱った高齢者を後席に乗せる場面では、ソリオ優勢と言えるかも知れない。尚、後席のスライド量はルーミーが240mm、ソリオが165mmである。
細かいことを言えば、ソリオはスズキの軽自動車でも好評の、スマホを置くのにちょうどいい運転席シートサイドポケット、助手席シートアンダーボックス(樹脂製でバケツ代わりにもなり、車外に持ち運べる)といった、使ってみると感動に値する実用性も備えているのだ。
【荷室比較】アウトドア派はルーミーか!? ソリオの積載性も見事
5人分のキャリーケースが積み込めるラゲッジスペース。さらに2WD車ではラゲッジ下にサブトランクを備える
荷室はどうか。開口部地上高はルーミーが527mm、ソリオは660mm。重い荷物の出し入れ性ではルーミーが有利だ。荷室フロアのサイズはルーミーがフロア奥行き500~740mm(後席スライド位置による)、幅1035mm、天井高1530mm。
一方、ソリオはフロア奥行き440~605mm(後席スライド位置による)、幅1030mm、天井高1530mm。幅、高さ方向ともに両車ほぼ同一。奥行きのみルーミーがリードする。
また、ルーミーには荷室に多機能デッキボードが備わり、荷室高を可変できると同時に、ボードを反転すると防汚シート面になり、拡大した荷荷室フロアの汚れを気にせず荷物を積み込める仕立てになっている。アウトド派にはうれしい配慮ではないか。
とはいえ、ソリオの荷室も使い勝手は優秀だ。5名分の機内持ち込みサイズのキャリーケース5個を積み込めるだけでなく、床下にも同キャリーケース1個がすっぽり入るサブトランクを備え、コンパクトカーとしてこれ以上望めないほどの積載力を備えているのである。
【先進安全装備比較】装備自体は五分五分もルーミーが一歩リード
高速走行時のドライバーの負担を軽減してくれる全車速追従型のACC(アダプティブクルーズコントロール)も用意
では、現代のクルマに欠かせない先進運転支援機能はどうだろう。衝突軽減ブレーキを含む基本的な機能は両車ともに揃い、高速走行時のドライバーの負担を軽減してくれる全車速追従型のACC(アダプティブクルーズコントロール)も両車に用意されている。
ただし、電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能が付くのは、現時点でルーミーだ(スズキは全車種において、現時点で採用なし)。
【走行性能比較】燃費も静粛性もソリオの圧勝!! 買う前に絶対に試乗を
おっと、ソリオの風向きが悪くなってきた!? いやいや、まだ、肝心の走行性能について触れていない……。その点でどうかと言えば、筆者はソリオ優位と見る。何しろ、ルーミーは3気筒エンジン、ソリオは4気筒エンジンだ(気筒数がすべてとは言わないが)。
ルーミーを走らせれば、MCで厚みを増した前席シートクッションの良さを実感でき、中低速域の乗り心地はしっとりマイルド。誰もが運転のしやすさと快適感を実感できると思う。
しかし、高速域ではいきなり乗り心地が荒くなりがちで、エンジンを高回転まで回すシーンではこもり音が盛大で室内に充満する場面も。得意な走行シーンは街乗りの速度域、ゆったりした高速走行となる。
また、雨天走行時には後席にバックドア回りからの水しぶき音がこれまた盛大に侵入。とくに後席の人はそれが顕著に感じられるかも知れない。
一方、マイルドハイブリッドによる微力ながらもモーターアシストのあるソリオを走らせれば、コンパクトカークラスベストと言っていい、速度域を問わない乗り心地の上質さ、静かさに満足できる。
その理由は、ボディ剛性UPに直結する構造用接着剤を各所に用い、先代では前側だけだったサスペンションのウレタンブッシュを前後に奢っている。そして高応答タイプのダンパーを使い、リヤサスのストロークをUPするなど、徹底した走りの磨き上げが行われているからだ。
静粛性に関しても、すべてのピラーに発泡剤=バッフルを充填。リヤフェンダー内にライニングを追加するなどしてロードノイズを低減したことも大きい。実際、試乗中に大雨に見舞われた際も車内の静かさに大きな変化なし。
それはルーフに高減衰マスチックシーラーを用いたことで、雨がルーフを叩く音が低減されているからだろう。そしてエンジンを回したときのノイズレベルも小さく、ACCがなくても、快適な高速走行、長距離走行を楽しめるのである。
なお、WLTCモード燃費はソリオのマイルドハイブリッド車が19.6km/L、ルーミーのガソリンNAが18.4km/L、ターボ車が16.8km/Lと、さすがにマイルドハイブリッド優位となる。このあたりも評価の高さにつながっているはずだ。
また、ソリオは暑い日にうれしい、アイドリングストップ中でも一定時間、エアコンから冷風が送られるエコクール機能を備える。
よって、コンパクトトールワゴン、プチバン選びの際は、デザイン、室内、荷室をしっかりチェックするとともに、オールマイティに使うのなら、ある程度の距離の試乗も欠かせない。
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過去にも、ストリームに対してウィッシュやモビリオはシエンタなど、床抜け目のない戦略だ。