■発電エンジンとしてロータリーを搭載!
昨今、自動車業界のトレンドは「電動化」です。
欧州ではCO2排出削減を目的とする燃費規制、北米ではゼロエミッション規制、中国では新エネルギー車(NEV)規制、そして日本では2050年までにカーボンニュートラルの実現など…。
まさに次世代に向けた大きな転換期。多くの自動車メーカーは「電動化=重要な経営課題」のひとつとしています。
【画像】「えっ…!」 これがマツダの「新型ロータリーエンジン車」です!(35枚)
そんな時代ですが、マツダは現在も「内燃機関の理想の追求」にこだわっています。そんな姿勢からか「マツダは電動化に否定的」、「ガラパゴス化」、「時代遅れ」などと揶揄(やゆ)する人もいますが、それは大きな間違いです。
実は今から15年前の2007年、マツダは技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」を発表していますが、その中のひとつ「ビルディングブロック戦略」にはこう記されています。
「クルマの基本性能を決めるエンジンや車両の骨格など、ベース技術を徹底的に改善。その上で電気デバイスを組み合わせ、CO2の総排出量を大幅に削減させる」
しかし、現在マツダの予想を遥かに超えるスピードで電動化の流れが押し寄せているのも事実です。そんな中、登場したのが2020年に登場したクロスオーバーSUV「MX-30」です。
このモデルは通常のラインアップには属さないSUV版スペシャリティモデルであると同時に、マツダの“電動化”をけん引する存在となっています。
デビュー当初は24Vマイルドハイブリッド(MHEV)のみの設定でしたが、2021年BEVが登場。しかし、MHEVは電動の恩恵が少なく、BEVは航続距離の短さが課題となっており、その中間のモデルが待ち望まれていました。
それが今回紹介するプラグインハイブリッド(PHEV)「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」(以下、新型MX-30 ロータリーEV)です。
マツダのハイブリッドモデルと言えば、2代目「アクセラ」を思い出します。
このモデルはガソリンエンジンの「SKYACTIV G」にトヨタから供給を受けるハイブリッドシステム(THSii)を組み合わせていましたが、今回のモデルはマツダが独自に開発したシステムとなります。
このシステムは発電機となるエンジンと電動パワートレインで構成されています。電動化パワートレインは170ps/260Nmのモーターと薄型ジェネレーター、17.8kWhのリチウムイオンバッテリーで構成されています。
ユーザーのの使用実態に関する調査結果を考慮し設定したというEV航続距離は107kmで、バッテリーを使い切った後はエンジンの発電による電力で駆動します。50リッターの燃料タンクを活かし、インフラに左右されない長距離ドライブが可能です。
ちなみに走行モードは3つ用意され、EVモード/ノーマルモード(=ハイブリッド走行)/チャージモードが用意されています。充電は普通・急速のどちらにも対応しており、V2L(2種類のAC電源を設置)やV2H(バッテリー満充電&燃料タンク満タンで約9.1日分の電力供給が可能)にも対応しています。
分類上はEVとしての使い方を拡張したシリーズ式ハイブリッドとなりますが、発電機となるエンジンに大きな特徴があります。
そのエンジンとは、11年ぶりに復活したロータリーエンジンです。
■復活したロータリーエンジンの特徴は?
ロータリーエンジンの特徴と言えば「軽量」、「コンパクト」、「排気量に対して高出力」ですが、これが電動化パワートレインと組み合わせる上で大きな強みとなっています。
ロータリーエンジン/ジェネレーター/モーターを同軸上に配置して一体化することでユニット全体の幅は僅か840mm。
これによりBEVモデルと同じ車体フレームへの搭載を可能にしています。ちなみにボンネットを開けると、MHEVモデル(エンジン+トランスミッション)よりもコンパクト&スッキリ見えます。
「8C」と名付けられた新ロータリーエンジンは830cc×1ローターと、従来の「RX-8」用(13B-MSP:654cc×2ローター)の改良版ではなく新規設計となっています。ちなみに1ローターと2ローターの違いよりもローター大径化など主要寸法が異なります。
●8C
・偏心量 17.5mm
・創成半径 120.0mm
・ハウジング幅 78.0mm
・圧縮比 11.9
●13B-MSP
・偏心量 15.0mm
・創成半径 105.0mm
・ハウジング幅 80.0mm
・圧縮比 10.0
数値だけだと「?」ですが、創成半径=レシプロエンジンのストローク、ハウジング幅=レシプロエンジンのボアのようなものだと思えば解りやすいでしょう。
要するに13B-MSPより実用性に振ったエンジン特性と言えるかもしれません。
ちなみに従来は鉄だったサイドハウジングはアルミに変更(マツダ独自のAPMC鋳造法で製造)することで15kg以上の軽量化と高強度を両立。これは航続距離アップも寄与しています。
ちなみにロータリー=高回転と言うイメージが強いですが、8Cは発電機のため最高回転を4500rpmに抑えています。とは言え、スペックは71ps/112Nmと同排気量のレシプロエンジンよりも優れている事が解ります。
その一方、「ロータリーは燃費が悪い/排ガス性能が厳しい」と言う声も聞きますが、その辺りも抜かりなしで、効率的な燃焼を実現させる「燃料の直噴化」や「燃焼室形状の最適化」、「EGRシステム採用」などにより燃費を改善。
WLTCモードのハイブリッド燃費は15.4km/Lと従来のロータリーを考えれば大健闘ですが、欲を言えばさらなる低燃費化にも期待したいところです。
加えて、「ロータリーは耐久・信頼性が厳しい」と言う声も聞きますが、ここも抜かりなしです。
今回燃焼室の気密性を確保するためにローターの3つの頂点に取り付ける「アペックスシール」は耐摩耗性を高めるために厚さを2mmから2.5mmに拡大したほか、ハウジングトロコイド面のメッキ変更、更にサイドハウジングの表面に高速フレーム法によるセラミック溶射の採用などにより、摩擦抵抗と摩耗の低減を実現しています。
ちなみに8C導入に合わせて生産整備も大きくアップデート。
「高精度に作る」「軽く・強く作る」「フレキシビリティ」を実現させるために、これまで培ってきた知見・ノウハウに加えて、マツダの新世代技術群「SKYACTIV」で培ったベース技術を融合させています。
その中でも高精度は素材、加工、組み立ての一気通貫により取り組みを実施します。
具体的には3Dスキャンによる寸法管理で、汎用マシニングセンター1台で全てを加工(工程集約)による寸法精度改善、ローターバランス精度向上(測定→職人技から測定→演算して自動調整加工)などが行なわれています。
ただ、唯一変わらないのはエンジン組み立て時工程でした。気密が重要となるローターのシール部の組付け・確認は機械では判別できないため、伝承された匠(現在3名在籍)の技、指先に伝わる感覚が、今も最後の品質を支えています。
つまり新型ロータリーエンジンの8C生産は、デジタルとアナログの融合と言うわけです。
組み立てられたロータリーエンジンはモータリングテスト(エンジンをモーターで駆動して確認する)でバランス精度計測(振動)とシール機能計測(圧力)を全数チェックしています。
余談になりますが、RX-8生産終了後も補修用の13B-MSP用パーツの生産は続けられていましたが、8Cの生産に合わせて同じ工程での製造方法へと変更されています。
そのため、あまり大きな声では言えませんが、以前のパーツより精度は高まっているそうです。
■「ロータリー」搭載モデルのMX-30は内外装に「ニクい」演出も
このようにエンジンに注目が集まりがちな新型MX-30 ロータリーEVですが、見た目も他のMX-30と少し異なります。
ひとつは車体テール右側の「e-SKYACTIV R-EV」のバッジとフロントフェンダー上のロータリーエンジン形状(中央部は発電を意味する「e」の文字)バッジ。
ちなみにオレンジの刺し色はエネルギーを生み出す力強さをイメージしていると言いますが、筆者(山本シンヤ)は1991年ル・マン24時間を制したマツダ「787B」のレナウンカラーのオレンジを思い出しました。
もうひとつは専用デザインのアルミホイール。これはリム周辺の断面を最適形状にすることで空気抵抗の大幅低減と軽量化を両立させた機能部品になります。
インテリアではホワイト/ブラウンに加えて、ブラックを追加しています。
さらに、ロータリーエンジン復活(Return)を記念した台数限定の特別仕様車「Edition R」はマローンルージュメタリック×ブラックの専用ボディカラー、エンボス加工のヘッドレスト、専用フロアマット、専用キーと言った特別なアイテムをプラス。
なかでも専用キーはキー表面パネルがローター局面と同じ角度の曲線、キーシェル表面の両端の段差はローターアペックス(シール溝)と同じ寸法と、実際に見る事ができないロータリーエンジンの内部を触覚で感じられるニクい演出が行なわれています。
MX-30シリーズの開発主査である上藤 和佳子氏は、以下のように嬉しそうに語ってくれました。
「新型MX-30 ロータリーEVはEVの可能性を広げる新たな選択肢として開発しました。
そういう意味ではロータリーエンジンは脇役なのですが、社内外の様々な声を聞いて改めてこのエンジンの知名度と偉大さを実感しています。
ちなみに役員試乗の際にみんなロータリーエンジンの音を聞きたいのか、すぐにチャージモードにしてしまうんですよ」
今回復活したロータリーエンジンは時代の変化に合わせて駆動用から発電用として進化しました。
ただ、マツダファンの多くは駆動用のロータリーエンジンにも期待しているでしょう。
その辺りをマツダの技術トップ・廣瀬 一郎氏に訪ねてみると、「やるかやらないかは別ですが、当然エンジニアは色々な事を考えていると思いますよ。例えば今は1ローターですが2つ/3つの組み合わせとか。クラッチ機構を付ければ直接駆動だって。皆さんが考える事は、我々も…。」と教えてくれました。
ただ、そのような夢物語は新型MX-30 ロータリーEVが広く普及してからの話です。
マツダの“魂”と言ってもいいロータリーエンジン、今後も継続させるためにもみんなで応援したいところです。
そして今回試乗できなかった新型MX-30 ロータリーEVがどのような走りなのか、そしてどのようなフィーリングなのかについても、大いに期待しておきましょう。
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