アウディというブランドをひと際魅力的な存在としているのが、RSモデルとSモデルに代表されるスポーツモデル。Motor Magazine誌はアウディ特集の中で、RS6セダンとS6アバントの試乗をとおして、その走りの特徴、考え方、コンセプトに迫っている。ここではそのレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年4月号より)
アウディ躍進の牽引力になっているSモデルとRSモデル
世界中で多くの支持を受け、ライバルたちが落ち込むなか販売台数を伸ばしているアウディだが、その大きな牽引力になっているのがRSモデルとSモデルである。
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今回は、RS6に新しく加わったセダンとS6アバントに試乗することができたので、インプレッションを交えながら、アウディのRSモデルとSモデルの魅力を探求してみよう。
プレミアムセグメントに属するクルマたちは、そのブランドの中でもスポーティなモデルたちの人気が高い。BMWではM3、M5、M6などのMモデルがその代表だ。通常のカタログモデルでは満足できないユーザーを満足させるために、BMW M GmbHがプロデュースしたものだ。
メルセデス・ベンツの場合にはAMGがそれに当たる。AMGは、そもそも独立した別の会社だったが、メルセデス・ベンツのファミリーに入って完全にメルセデス・ベンツの一部門になり、いまでは、メルセデス・ベンツのカタログモデルとして欠かせない存在となっている。そして、AMGがメルセデス・ベンツのスポーツモデルという位置づけに、昔もいまも変わりはない。
BMWのMモデル、メルセデス・ベンツのAMGが、アウディではRSモデル、Sモデルに当たる。そのなかでもとくにRSモデルはスペシャル中のスペシャルな存在である。
NSU(エヌ・エス・ウー)と略されるネッカーズウルムのアウディの工場の一角に「クワトロGmbH」というアウディの子会社があり、RSモデルはこの工場で生産される。インディビデュアルのクルマも手がけるから、ちょうどBMW M GmbHと同じ位置づけになる。
ボディの骨格部分や電装品などはノーマル車と同じアウディの工場で造られるが、エンジン、シート、フェンダー、バンパー、サスペンション、タイヤ、ステアリングホイールなどRSモデル専用パーツは、クワトロGmbHの工場で組み付けられる。ここではマイスターレベルの熟練工がじっくりと時間を掛けてハンドメイドで仕上げていく。こうやって最後の工程まで人が責任を持って丁寧に造られるRSモデルは、やはり単なるスポーツモデルの範疇には収まらないスペシャルなモデルといえる。
S6もNSUの工場で生産されるが、こちらは通常のアウディの工場の方で造られる。エクステリアがRS6ほど特別なものではないから、通常のアウディ工場のラインで流すことができるのだ。
とはいえ、S6でもかなりの特別仕様車といっていい。A6ではヘッドライトユニットに組み込まれたLEDポジショニングライトがS6ではフロントバンパーのエアインテークに組み込まれ、より精悍なマスクになっている。シートも「S6」とバックレスト上部に大きな刻印された専用の本革シートに換えられている。
そして、搭載エンジンは5204cc V型10気筒FSI、つまりNA(ナチュラルアスピレーション)の直噴である。最高出力320kW(435ps)/6800rpm、最大トルク540Nm/3000-4000rpmという大きなパワーと図太いトルクを発揮するが、これにはル・マン24時間耐久レースで数回の優勝を経験しているFSI技術が生きている。
A6のボディにいくらNAとはいえ5.2Lエンジンを搭載するというだけで、いかに凄いモデルかがわかるだろう。もちろんサスペンションもS6専用にチューニングされたものだ。ブレーキは18インチホイール以上を装着することを前提に目いっぱいディスクローターを大きくし、S6のロゴが入った専用キャリパーを備える。
RS6もS6と同じV型10気筒エンジンであるが、排気量が4991ccと少し小さい。その代わり片バンクにひとつずつ、計2つのターボチャージャーが備わっている。もちろんTFSIだから、アウディ得意の直噴から426kW(580ps)/6250-6700rpm、650Nm/1500-6250rpmというとてつもないパワーとトルクを発揮する。
FSIにしろTFSIにしろ、アウディの直噴技術はレースで実績を積み、それを市販のスポーツモデルにフィードバックしているのだが、パワーやトルクを出せるだけでなく、排出ガスをきれいにし、燃費を向上させ、スムーズに走らせることにも貢献する細かい制御ができるのが特徴だ。20世紀はエンジンの電子制御が進んだが、21世紀に入って直噴技術の進化が目覚しい。アウディは、その最先端を進んでいるといっていい。
RS6のダンパーはスポーツサスペンションプラスと呼ばれている電子制御で、ダイアゴナルにダンパーの動きを連絡させたDRC(ダイナミックライドコントロール)との組み合わせで、乗り心地とハンドリングの味を変えることができる。MMI(マルチメディアインターフェイス)を通じてコンフォート、ダイナミック、スポーツという3つの味を選択できるのだ。
ブレーキは、この走りを支えるために特大のベンチレーテッドディスクになり、フロントは6ピストンのキャリパーで武装する。キャリパーにはRSの白い文字が浮かび、視覚的にも、スペシャルなモデルであることを訴えている。さらに、熱による変形が起きてもジャダーが出ないように、ハブとローターを独立させたタイプである。
S6にないRS6のエクステリアの大きな特徴は、膨らんだフェンダーだろう。275/35ZR20(102Y)XLというファットなタイヤを前後に収めるためにはブリスターフェンダーが必要なのだ。ちなみにS6のタイヤサイズは265/35ZR19 98YXLだから、これでも一般的にはかなり太い方だが、フェンダーはノーマルのままでギリギリに収まっている。S6の1855mmという全幅はA6と同じだが、RS6ではそれが1890mmにまで成長している。
似ているようでまったく違うRS6とS6のキャラクター
アウディのRSモデルとSモデルがどれほどスポーティなスペックになっているかは想像できたと思うが、BMWのMモデルやメルセデス・ベンツのAMGとの違いはどこにあるのか。
まず、一番の大きな違いは駆動方式だろう。アウディのRSモデル、Sモデルは、すべてフルタイム4WDシステムのクワトロである。エンジンパワーを上げて、サスペンションを固め、ファットなタイヤで走りを極めるという図式から一歩進んで、安全性と強烈なトラクションを両立させることを目指している。
もちろん、BMWのMモデルはDSC、メルセデス・ベンツのAMGはESPという電子デバイスによってトラクションと安定性を確保しているが、アウディのRSモデルとSモデルはクワトロにより電子デバイスに頼らなくても済む領域を広げようとしているのだ。だから冬の滑りやすい路面でも雨のアウトバーンでも安心感が高く、グランドツーリングでも疲れず安全性が高まるのだ。
アウディが掲げている「Vorsprung Durch Technik(技術による先進)」は、RSモデルとSモデルを、その象徴のように表現していると言っていい。
RS6のタコメーターは、6700rpmからレッドゾーンが始まる。ターボチャージャーによって1500rpmから6250rpmまで650Nmという強烈に太いトルクを発揮できるから、エンジン回転数を高める必要はまったくない。それでも6700rpmまではしっかりと使える範囲になる。それにしても、ドライバーズシートに収まって、4ドアサルーンなのに320km/hまで刻まれたスピードメーターと対面したときは、気楽な気持ちでアクセルペダルは踏めない、と自分に言い聞かせることになる。
しかし、実際に走らせるとRS6は決してじゃじゃ馬ではない。というよりアクセルペダルの踏み込みに対して過敏な反応はしないから、ごく普通のクルマとして扱うことができる。もちろんアクセルペダルを深く踏み込んでしまえば、その分強烈な加速Gが身体を襲ってくる。6速ATは次々とシフトアップしていくので、自分で運転しているのでなかったら、脳みそが後頭部に寄ってしまうような感覚になるだろう。なにせ640Nmを各ギアで目いっぱい使えるのだから。
でもこのときターボラグは感じない。これだけのトルクを出しながらも、アクセルペダルの動きにはリニアな加速力が出るようなプログラムを施してあるのだろう。アクセルペダルを踏み込み始めるとすぐに加速が始まる。
これだけの走りをする割に乗り心地はすこぶるいい。スポーティなモデルは乗り心地が悪くなると信じている日本のメーカーには見習ってもらいたいくらいであり、いいベンチマークになるだろう。滑らかな動きなのに動きすぎない。粘りがあるようなサスペンションの動きが、ハンドリング面では安心感につながっている。
SモデルやRSモデルがあるからSラインが生きている
一方S6は、NAのレスポンスの良さが光る。ハンドリング性能も、エンジンとリンクするかのような動きでとても気持ちがいい。RS6の粘り腰とはまた違った、別のちょっと固めのしっかりしたサスペンションセッティングである。とはいっても乗り心地が悪いわけではない。舗装がちょっと荒れているような道でもゴツゴツという振動をキャビン内に伝えてこない。ボクはこのドライな感覚のテイストが気に入っている。
S6に対して、RS6はさらに速く、さらにゴージャスに、さらに先進技術の粋を集めたモデルに仕上げられている。同じA6を基本に持ちながらも、こうした明らかにキャラクターの違うクルマを出せることに驚かされる。普通の商品企画ならS6かRS6のどちらかにしてしまうところだが、あえて2モデルを創るところがアウディの偉いところだと思う。
アウディのスポーツモデルには、ここで紹介したS6、RS6以外にも、S3スポーツバック、TTSクーペ、S8、S5、R8、S4という豊富なラインアップが揃っている。
さらにノーマルモデルの中のバリエーションのひとつとしてSラインというアイテムが用意されている。アルミホイール、シート、サスペンション、ステアリングホイール、バンパー、エンブレムなどのパーツを換えて、ちょっとスポーティに変身させているのだ。このSラインが用意されていてもSライン単独では興味が湧かないが、そこにRSモデルやSモデルがあるから、Sラインが生きてくるのである。
アウディはこれからも、これらのスポーツモデルが生きるラインアップを続けるだろう。それがアウディのさらなる発展の道だからだ。(文:こもだきよし/写真:永元秀和)
アウディ RS6 主要諸元
●全長×全幅×全高:4930×1890×1455mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:2100kg
●エンジン:V10DOHCツインターボ
●排気量:4991cc
●最高出力:426kW(580ps)/6250-6700rpm
●最大トルク:640Nm/1500-6250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●10・15モード燃費:5.9km/L
●タイヤサイズ:275/35R20
●車両価格:1645万円(2009年当時)
アウディ S6 アバント 主要諸元
●全長×全幅×全高:4940×1865×1455mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:2060kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:320kW(435ps)/6800rpm
●最大トルク:540Nm/3000-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●10・15モード燃費:7.0km/L
●タイヤサイズ:265/35R19
●車両価格:1260万円(2009年当時)
[ アルバム : アウディRS6とS6アバント はオリジナルサイトでご覧ください ]
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