ハイブリッド車がすっかり定着したなかで、最近増えてきたのが「マイルドハイブリッド」。これに呼応する形で対照的な“普通のハイブリッド”を示す「ストロングハイブリッド」なる呼称まで登場した。最近ではベンツS450や6月発売の新型スバル フォレスターにも(かつてXVで採用していたスバル独自の)マイルドハイブリッド仕様が復活する予定。いったい何が“マイルド”で、どこが“ストロング”と違う?
文:鈴木直也/写真:SUZUKI、TOYOTA、編集部
ベストカー2018年4月26日号
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マイルドハイブリッドのメリットは「コスト」
こちらはスズキ ソリオのマイルドハイブリッド。モーター機能付きの発電機によって、発進・加速時に「エンジンの出力を抑える」とスズキは表現。EV走行ができない点などもストロングハイブリッドとの違いだ
ハイブリッドといえばトヨタの独壇場だが、最近話題になっているのが“マイルドハイブリッド”だ。何をもって“マイルド”なのかは微妙だが、一番のポイントは電池の電圧だろう。
例えば、プリウスは200V電池を650Vまで昇圧してモーターを駆動しているが、これが典型的なストロングハイブリッド。技術的に最も贅沢なシステムといっていい。
ただし、アクアにまでこんな凝った昇圧システムを採用できるのは、累計1000万台という数の力をバックにコスト削減が可能なトヨタならでは。
ホンダもアコードやオデッセイ ハイブリッドなどのi-MMDでは700V昇圧回路を使っているが、フィットなどのi-DCDは電池電圧の170Vでモーター駆動。
同じように、エクストレイルは200V電池、スズキ(ソリオとスイフト)だと100V電池をそのまんま使う、よりシンプルなシステムを採用。
マイルドハイブリッドもストロングハイブリッドもラインナップするスイフト。こちらは13.6ps/3.1kgmを発揮するモーターを組みあわせた「ストロングハイブリッド」のイメージ図
つまり、ハイブリッド王国トヨタと正面対決しようとすると、挑戦者はコスト的にすごく厳しい戦いを強いられるということ。プリウス誕生以来20年、ハイブリッド車におけるトヨタのコスト競争力は、依然としてライバルを大きくリードしているのが現実だ。
だったら、「いっそ48Vまで電圧を下げたらイロイロと楽になるよ」というのが、最近のマイルドハイブリッドの戦略だ。駆動系を高電圧化するほど効率が高まるのはわかってるけど、そのぶんコストもうなぎ上り。
しかし、12V系をそのまんま使ったのでは、電動系で使えるパワーがせいぜい1~2kW程度で、これじゃ効果もスズメの涙……。そんな状況下で費用対効果の折衷案が、電源電圧を48Vまで上げたマイルドハイブリッドシステム。
コンチネンタルなどのサプライヤー主導で共通規格を作ってコストを引き下げ、ストロングハイブリッドほど劇的ではないものの、現実的な燃費向上を狙うというコンセプトだ。
ベンツのマイルドハイブリッドはマイルドじゃない!?
直6エンジンに電動スーパーチャージャーを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムを搭載したベンツS450
これに飛びついたのがEUのCO2排出量規制が待ったなしの欧州勢だ。
2021年までにメーカー平均CO2排出量95g/kmが義務づけられているのに、頼みの綱のディーゼルは例の事件で大失速。
かといってEVは間に合わないし、CO2排出量計算でPHVを優遇しても台数的にはたかが知れている。欧州勢は今そこにある量産車に対応可能な現実的ソリューションを切実に必要としているのだ。
最新のメルセデスベンツS450は、新設計の直6エンジン(M256)とともに48Vマイルドハイブリッドを採用して話題になっているが、これが48Vハイブリッドシステムの“ショーケース”といっていい。
なぜ“ショーケース”かというと、たぶんこれが48Vマイルドハイブリッドの“最高級品”と思われるからだ。
マイルドハイブリッドとはいってもベルト駆動のオルタネーターではなく、スターター兼用のジェネレーターはエンジンと9速ATの中間にマウントされる。
モーター出力は16kWもあるし、48Vリチウムイオン電池は容量1kW/hとプリウスの1.3kW/hにかなり近い。率直にいって「ちっともマイルドじゃないじゃん」と、個人的には思う。
ただ、このM256型エンジンはベンツがエンジン戦略をV6から直6へ劇的に転換する第一号。48Vマイルドハイブリッドの可能性を示すため、盛り込める技術要素はすべててんこ盛りで入れてきた、という印象だ。
トヨタがマイルドハイブリッドをやらない理由
実はトヨタにもマイルドハイブリッドあり! クラウン マイルドハイブリッド(2001年発売)。直6、3Lエンジンに36Vで駆動される3kWのモーター/ジェネレーターを組み合わせたシステムだった
もちろん、48Vマイルドハイブリッド採用の主眼は、エネルギー回生と加速アシストによる燃費向上だが、このS450では電動スーパーチャージャーによる低速域の過給ブーストという小技を追加してきている。
この電動スーパーチャージャーは0.3秒で7万rpm/1.4バールに達する強力なもので、モーターは最大5kWも消費する。
そういえば、同じく48Vマイルドハイブリッドを採用したアウディA8は、2kWのモーターを各輪に配した電動アクティブサスペンションを採用。
低コストが売りの48Vハイブリッドにこういうギミックを入れ込んでくるのが、欧州プレミアムのしたたかなところで、「けっして安さだけが取り柄じゃないよ!」とアピールすることを忘れていない。
いずれにしても、48Vマイルドハイブリッドの主戦場は、Sクラスのような高級車ではなく、もっとたくさん数を売る量産価格帯の車。そこでどのくらいの燃費向上効果があるかで真価が問われることになる。
この48Vマイルドハイブリッドをトヨタがどう考えているのか興味あるところだが、2017年11月の電動化戦略記者会見でボクが質問した時の答えは以下のようなものだった。
いわく「各国の環境規制にも影響を受けるので一概には言えないが、48Vマイルドハイブリッドについては、CO2削減の“費用対効果”という点であまり魅力を感じていない」のだそうだ。
ストロングハイブリッドに絶大な自信を持つトヨタだけに予想どおりのお答えだが、ストロングとマイルドの戦い、興味深く見守りたいと思います。
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