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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第5回

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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第5回

トミタオート商会のビジネスは拡大を続けていた。自分が気に入ったクルマだけを扱うというシンプルな方針が70年代当時はまだ珍しく、マニアにウケたのだ。自分が誰よりもクルマ好き、クルマ好きの代表なのだから、自分が欲しいと思ったクルマはみんなが欲しがるはず。それだけの自負が富田にはあった。それでも資金繰りは苦しかったというが、乗り切れたのはひとえに心の若さゆえだった。古稀を越えた今でも富田は言う。何歳になっても自分が若いと思ってさえいられれば、何にでもチャレンジできるのだ、と。

20代も後半に差しかかった富田は、イタリア車が気になっていた。フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニ……。名前の響きからして、もう憧れの的だった。そんなとき、ひとりの男と京都で知り合う。イタリア在住の日本人デザイナーで、鞄や靴を日本へ輸出し成功を収めていたエンリコ山崎である。彼にイタリア車の話をしてみると、意外にクルマにも詳しく、イタリアでの買い付けもできるという。半信半疑だったが、富田は欲しいクルマをリストアップし彼に手渡した。

自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第4回

2週間後。彼から国際電話が入った。

「ディーノを5台、ミウラを3台確保したよ」。

それだけじゃなかった。ランボルギーニの代理店をしないか、という話もあるからできるだけ早くイタリアへ来いという。今から40年以上も前の話である。現代ほどヨーロッパは近くない。しかも富田には海外渡航の経験すらなかった。にもかかわらず、富田はビジネスディールを行なうために初めてのイタリアへと向かっている。

パスポートからビザ、エアチケットをひとりで手配し、初めての海外旅行にひとりで飛び立った。南回り20時間かけてミラノの空港(リナーテだろう)に着いてみれば、肝心のデザイナー氏の姿が見当たらない。小銭もなく公衆電話も掛けられない。イタリア語はおろか英語すらしゃべれない。途方に暮れていると、後から背中を叩かれた。エンリコだ。

「遅れてすみません。渋滞がひどくて」

エンリコはBMWで迎えにきてくれていた。イタリア車はよく壊れるので社会的地位の高い人はメルセデスかBMWに乗るのが当然だという。モデナ方面に向かってアウトストラーダをかっ飛ばすBMWの2リッターセダン。スタンダードな仕様だというのに、すさまじくよく走った。

これは別世界だな。日本の交通環境の遅れを再認識するとともに、日本人がこの性能に惚れこむ日も近いと富田は確信する。

それにしても、こんなに素晴らしい高速道路があるのに、主役になるべきフェラーリやマセラティなど1台も走っていないことにも富田は衝撃を受けた。「みんな普段は乗りませんよ。盗まれますから。別荘のガレーヂなどに隠し持っているんです」

連れていかれたクルマ屋も日本でのそのイメージとはまるで違っていた。鉄格子のはまった倉庫のようなビルの1階。入り口のドアも鉄製で、まるで機関銃のようなロック音に驚かされる。中へと入ってみれば、フェラーリを中心にずらりと名車が並んでいた。そこにディーノが5台ほどあったと富田は記憶している。

ほかにも上質なクルマが沢山あって富田は目移りしたが、希望のディーノに乗れと勧められる。まずはエンリコがドライブする隣に乗った。富田にとっても憧れの1台。それを生まれ故郷のイタリアで味わうことになるなんて!

交通量の少ないところではハンドルを握らせてももらえた。フェラーリの生まれ故郷でのディーノ初体験となったのだった。

結局、富田はこのとき、3台のディーノ(うち1台はGTS)と2台のミウラを買い付けることに成功している。

イタリアでの滞在を終えた富田は、自身たっての希望で西ドイツまでクルマで向かった。もちろん、エンリコのBMWで、だ。速度無制限の高速道路を一度体験してみたかったのだ。

ミラノからアルプスを超えてスイスへ。オーストリアから西ドイツはミュンヘンに入り、待望のアウトバーンを経験している。この初めての海外旅行の記憶として鮮明に残っているのは、ミウラとディーノ、アウトバーンだけだったという。それと、エンリコ家族と過ごした幸せなディナー。観光はいっさいしなかった。それほど富田はクルマに夢中だったのだ。

その後、富田はイタリアを何度も訪れることになる。エンリコの紹介でランボルギーニの西日本代理店にもなった。改めて詳述するが、カロッツェリアを日本に招聘するイベントも仕掛けた。すべてエンリコのツテあってこそだった。今にして思えば、エンリコはイタリアのデザイン界でそれなりに力を持った人物だったのかも知れない。

そして、新車のカウンタックやウラッコ、ハラマを大量に買い付けたころ、かのスーパーカーブームがやってきた。

次回予告

70年代も半ばを過ぎると、トミタオートの前にはカメラを持った子供たちが現れ始めた。スーパーカーブームの到来だ。東のシーサイドモータースに対して、西のトミタオート。東西両雄によって牽引されたブームは社会現象へとなっていく。必ずしもブームを認めていなかった富田の心に、新たな夢が宿りはじめたのもこの頃だった。

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