「レース屋」水野和敏氏の知識と経験が理想のGT-Rを産んだと大谷達也氏は分析
R35型GT-Rの開発を指揮したのは、いわずと知れた水野和敏氏である。その長いキャリアのなかで、ニスモに出向してグループCカー、そして全日本GT選手権(現在のスーパーGT)向けR33GT-Rの開発を手がけた彼が、「究極のマルチパフォーマンス・スーパーカー」、R35にターボエンジンを選んだのは当然の選択だった。
【GT-Rを愛する理由】進化し続けるR35。技術陣の志と先見性に頭が下がる! by 大谷達也
新開発のVR38DETT型はバンク角60度のV6エンジン。GT-R伝統のストレート6を捨てたのは、全長が短いV6エンジンとして重量物を車体中央に集中させるのが第1の理由。また、V6はシリンダーを均等に冷却して燃焼状態を揃えるのにも有利だったことが決め手だったとされる。水野氏が手がけたグループCカーはすべてV型エンジンを搭載していた。その優位性は誰に諭されるまでもなく、承知していたはずだ。
なお、同時期のスカイラインにも同じV6エンジンのVQシリーズが搭載されている。だがVQシリーズがシリンダー部に鋳鉄ライナーを用いていたのに対しVR38DETTはシリンダー壁面にプラズマコーティングを施したライナーレス構造を採用。これによって余裕ある冷却水経路を実現し、燃焼温度の均一化と将来的な高出力化への礎を築くこととなった。
R35の技術陣が当初から、描いていた「高出力化への道」は、その後、着実に実践されることになる。
発売当初は最高出力480psだったが、2011年モデルでは早くも500psを突破。2024年モデルは標準型が570ps、GT-Rニスモは600psを絞り出す。これは歴代日本車の中でトップの数値だ。
世界トップクラスのパワーは確保した。しかし、どんなにパワフルなエンジンを積んでいても、その出力を的確に伝達できるトラクション性能が確保できていなければ宝の持ち腐れとなる。水野氏が手がけたグループCカーは予選時に1000psを優に超える最高出力を発揮していた。レーシングカーであればエンジンのミッドシップ化や高度なエアロダイナミクス、さらには極太のスリックタイヤなどによって十分なトラクション性能が手に入る。しかし「マルチパフォーマンス・スーパーカー」を標榜するGT-Rにこれらの施策を採り入れることはできない。
そこで採用したのが、R32以降のGT-Rを支え続けてきた4WDシステム「アテーサE-TS」だった。しかも、R35の場合はトランスアクスル・システムと組み合わせることで重量バランスの改善にも成功。この結果、ボディ中央を2本のプロペラシャフトが貫通する異例のレイアウトとなったが、4WDならではのスタビリティは「300km/hクルージング」という開発当初の目標を実現するうえでも大いに役立つこととなった。
こうしてR35は「レース屋」水野氏の知識と経験を総動員して開発された。結果、デビューから15年を経たいまも世界トップクラスのハイパフォーマンスモデルとして君臨しているのである。
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