記念すべき第1回のジャパンモビリティショー2023で、四輪二輪合わせて13台ものワールドプレミアをズラリと並べたスズキ。そのなかで特に注目のモデルにスポットを当てて、開発現場のリアルな声を聞いてみた。
スズキの軽自動車でいま一番販売台数を稼いでいる、大人気スーパーハイトワゴンのスペーシア。3代目となる次期型のコンセプトが、ノーマルとカスタムの2仕様同時にワールドプレミアされた。もうすでに軽自動車規格のギリギリまでサイズが拡大されているスーパーハイトワゴンには、どんな進化が残されているのか。そこには、スズキならではの回答が表れていた。
【写真で見る】スズキ 新型 スペーシア コンセプト 実車初公開!【ジャパンモビリティショー2023】
■ついに軽自動車にもオットマンが!「キチンと使いこなせる、使いやすさを重視したクルマを目指しました」。どのようなクルマに仕上げたのかをうかがったところ、スペーシア コンセプト担当の鈴木猛介(たけゆき)氏はこう答えてくれた。
「ご存知のとおり、このクラスのクルマは規格内ギリギリのサイズまで拡大しています。形を大きく変えることはできませんので、装備系を中心にもっと使いやすいクルマにしたかったのです。そのために、今回はいろいろなレイアウトや装備を一度全部リセットして、すべてを見直しています。そこから取捨選択をしながら決定していきました」。
この装備の見直しには、当然だが注目アイテムも含まれている。そのひとつが、リヤシートのオットマンだ。「じつはこのオットマン、最初は物落ち防止の柵から始まったんですよ」と、最新アイテムの解説は鈴木氏の意外な回答から始まった。
「(ユーザーアンケートの結果)後席に荷物を置く際、シートの上だと転げ落ちてしまうことがあるからか、フロアに直接荷物を置くという人が多いことがわかりました。そこで、リヤシート座面の前端に落下防止の仕切りのようなものを付けることになったのが、ことの発端です。シートと同じ素材にして、下方向に回転させればオットマンとしても使用できる。それがわかってからは、伸縮機能を入れたり改良を重ねて今の形に落ち着きました」。オットマンを上に向けることもなかなか思いつかないが、まさか逆の発想から来ていた機能だとは。
「もともとリヤシートの快適性というのも課題になっていました。広さは十分だけど、シートの座面は折り畳み機構があるせいで大きく作れない。オットマンであれば、足の裏側が支えられますので座面の大きさをカバーできます。そういった点では、ブレイクスルーになったアイテムだといえます」。
■使いやすさ重視のアイテムはまだほかにもユーティリティ重視の観点では、インテリアの収納も課題になったそうだ。助手席前のダッシュボードに備わる、ひときわ大きなトレイもそのひとつ。「現行モデルではここをキャリーケースのような形にしたボックス型の収納にしていました。しかし、それでは使いづらいという意見もありまして、今回はトレイ型にしています。パンデミックの影響でテイクアウト需要が増えたこともあり、車内で食事する機会が増えました。そんな背景から、食事もできるような大型のトレイ状にしています。大きさに関しては今までにないくらいの広さになっていると思います」。
そのほか、ラゲッジルームにも使い勝手を向上させるアイテムが追加された。「開口部にユーティリティナットを4ヶ所増やしています。オーナー様の使い方にバリエーションが増えますし、こちらとしてもさまざまな用品が提案しやすくなります」。
ほかにも、意外と需要が多い自転車の積載についても改良が加えられている。「(自転車を載せようとして)リヤシートを収納したときに、背もたれの前端を40mmほど下げました。これによって自転車のハンドル部分が天井部に引っかからないようになっています」。どんな小さなことでも、使う人にとってはプラスになる機能ばかり。次期スペーシアには、あちらこちらに使いやすさが詰まっている。
■ノーマルらしさとカスタムらしさエクステリアのデザインイメージは、前回のキャリーケースからコンテナへと変わったそうだ。「もっと大容量で、物が多く詰められるという思いからです。コンテナですとタフなイメージもありますので」。
ノーマルとカスタム、それぞれにもこだわりが感じられる部分が。「ヘッドライトをLEDにしますと、どうしても薄型ライトになりがちです。でもノーマル顔のスペーシアはそうではないと。ヘッドライトは細くしちゃダメということで、丸みを帯びた四角形状にし、スペーシアらしさを表現しました」。
「カスタムは、スポーティというよりももっと落ち着いた上質志向へと方向性を変えています。エンブレムや内装に使っているボルドーのカラーもその一環です。外装のクロームパーツもできる限り抑え、上質なアクセントとなるように配すると同時に、太さで力強さも表現しています」。このあたりはギラギラしすぎないようなサジ加減も大事だと鈴木氏は語ってくれた。
現行モデルでは、第3のスペーシアとしてアウトドアスタイルのギアがデビュー。次期スペーシアではまだラインアップが決まっていないようだ。
「現状の販売構成比で見ると、ノーマル:カスタム:ギアが大体4:4:2。まずは需要の多いこの2種から発表することにしましたが、ギアは出るとしてもちょっと先になるかと思います」。
とはいえ、ライバルのタントもファンクロスが好評という背景がある。今回登場の明言こそ避けられてしまったが、ニュアンスからしてギアもスタンバイしているような感じだった。ちなみに商用バンのベースは、当分現行モデルが継続販売されるようだ。
■BEV化は当分先か!?シャシーとパワートレーンに関しては、基本現行モデルのキャリーオーバー。軽量・高剛性プラットフォームのハーテクトと、マイルドハイブリッドの組み合わせだ。BEV化の予定はまだ当分先のようで、「あちらに展示したeWXが、まずは軽自動車規格でのBEVコンセプトということで、まだスタートし始めたばかりです。スペーシアはまだ当分先になると思われます。車両重量が多い分、BEV化するにしてもハードルがまだまだありますので」とのことだ。
スペーシアらしさを残しながら、ユーティリティ面を大幅に充実させてきた3代目スペーシアのコンセプト。市販モデルにここまで近いことからも、ほぼこの仕様で発売されることは間違いないだろう。まさに、使う人にとって今まで不満を感じていた部分が解消された、痒い所に手が届くスーパーハイトワゴンだといえる。今回のブースコンセプトと同じ、まさに「ワクワクを詰め込んだワゴン」に仕上がった新型スペーシア。こちらもスイフト コンセプト同様、もうまもなくお披露目となるはずだ。
<写真と文=青山朋弘>
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