1日の生産量はわずかに50台弱!
2015年4月にデビューしたホンダのミッドシップオープン2シーター軽自動車「S660」は、発売から1年以上たった今もバックオーダーを抱えている。当初、1年近い納車待ちだったのが、半年弱の待ち時間にまで短縮されているものの、それでもデビューから1年を経たクルマとしては驚くほど長い期間だ。それだけ人気が維持されているということもあるのだろうが、S660に関しては生産上の特別な理由もある。
[動画]土屋圭市と開発担当者がモデューロS660に込めた情熱
現在の自動車工場というのは混流生産といって、ひとつの完成車組立ラインにおいて、いくつもの車種を平行して製造できるようになっている。たとえば、ホンダの工場であればフィットとヴェゼル、グレイスとシャトルは同じ寄居工場で作られている。こうしたケースであれば、その中で人気のある車種の生産を増やすということは可能だ。
しかし、S660は違う。たしかに八千代工業・四日市製作所で軽トラックのアクティや1BOXのバモスと混流生産されているが、それは最後の組み付け工程においてのみであり、ボディの基本を作り上げる溶接ラインはS660専用となっている。
そして、そこはかなりの部分で手作業が取り入れられた少量生産を前提としたラインになっているのだ。つまり、市場のニーズがあるからといって、おいそれと生産規模を拡大することが難しい。さらに、過去の軽オープン2シーターの販売実績を見ると、初期の売れ行きが高く、後半になるほど落ち込んでいく傾向にある。
もちろん、ホンダが1990年代に生産していたミッドシップ軽2シーターオープン「ビート」もデビュー直後に爆発的に売れ、その後は落ち付くといった動きを見せた。そうした前例も、生産規模を拡大することを躊躇させているのだろう。
そうしたいくつもの理由から、S660の生産台数は簡単に増やすことができないのだ。ところで、2016年に入ってからの販売実績を見ると、月平均1050台ほどのS660が新たに生まれている。専用溶接ラインのキャパシティは、おおよそ1日45台といわれている。休日を引いて計算するとわかるだろうが、八千代工業では、今もS660がフル生産状態なのだ。
(文:山本晋也)
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