新型車の開発にあたり、これまでにない斬新な装備の採用は開発者にとってはやりがいがあり、競合車との差別化となってオンリーワンの存在になる場合もある。
しかしながら、それらのなかには時代のあだ花に終わったものや失笑を買うようなものも少なくなかった。今回は、日本のおもてなし精神が生み出したユニークな装備をご紹介しよう。
世界に類を見ない謙譲の12気筒――― 2代目センチュリーの魅力と知られざる真実
文/北沢剛司
写真/トヨタ、日産、ホンダ、三菱、スバル、スズキ、ダイハツ、ベストカーweb編集部
■自動で装着できるシートベルト
北米仕様のパッシブシートベルトをそのまま日本に持ち込んだ三菱エクリプスの電動フロントシートベルト。自動装着できるのは肩ベルトだけで、腰ベルトは手動で装着しなければならなかった
トップバッターは三菱エクリプスの電動フロントシートベルト。1980~1990年代の北米向けモデルには、ドアを閉じると自動的に装着できるパッシブシートベルトが設定されていた。そのため左ハンドルのまま国内販売された初代三菱エクリプスや初代ホンダアコードクーペなどにはこの装備が採用されていた。
なかでも三菱エクリプスでは電動フロントシートベルトを採用。ドアを閉じてイグニッションをオンにすると、シートベルトがAピラーから電動で運ばれ自動的に装着位置になるギミックだった。
しかし、自動装着されるのは肩ベルトだけで、2点式の腰ベルトを別途装着しなければならないという根本的な問題があったため、1代限りの装備となった。
一方のホンダアコードクーペでは、ドア側に肩ベルトと腰ベルトを内蔵し、シート横のバックルで3点式シートベルトの自動装着を実現していた。しかし、ドアを開くとシートベルトが行手を阻むように現れ、乗降性にも難があった。
パッシブシートベルトは北米でエアバッグ装着が義務化されたことでほぼ姿を消したが、現在もホンダ・フィット e:HEVの福祉車両にはオプション設定されている。
■子どもの成長がわかる身長計
2代目ポルテとスペイドの助手席側Bピラーに装備された身長計。ママ目線で設計された車両ならではの唯一無二のアイテムだが、果たしてどれほど使われたのだろうか?
トヨタが本格的なトールワゴンとして開発したポルテ。2004年に誕生した初代モデルでは、助手席ドアに大型電動スライドドアを採用。使い勝手の良いファミリーカーとして大いに支持された。
そして2012年に登場した2代目ポルテと姉妹車のスペイドでは、子育て世代のユーザーに向けた驚きのお役立ちアイデアが実現する。
それが子どもの身長が測れる身長計。助手席側Bピラーにデザインされた目盛りは80cmから120cmまでの計測が可能。中央に「100」の数字があるほかは線と丸でデザインされ、違和感を感じさせないよう工夫されていた。
この身長計が実際どれほど役に立ったかは不明だが、自宅の柱で身長を計るよりはるかに手軽だったことは確か。欧米の自動車メーカーにとってはまったくアンビリーバボーなアイデアだったはずだ。
■おせっかいすぎるワイパー
レパード(左)とマークII(右)のサイドミラー。安全な後方視界確保に並々ならぬこだわりを見せた1980年代の日本車メーカー。トヨタは1989年の初代セルシオで超音波雨滴除去ミラーを採用し、さらなる進化を見せた
雨天時のドライブでいかに安全な後方視界を確保するか。1980年代にはそのテーマに果敢に挑んだ日本車メーカーがあった。1980年に登場した初代日産レパードのフェンダーミラーには、世界初となるワイパー付電動リモコン式フェンダーミラーを装備。
当時はその着眼点と「世界初」に感動したが、ワイパーがかえって視界を妨げるという本末転倒な状態に。そこで1988年の初代シーマでは、ワイパーがドアミラー上部のカーブに沿って装着するという進化を遂げ、ここにも技術革新の跡が見られた。
そんな日産のチャレンジに刺激されたのか、トヨタにも驚きの機能が登場する。それが1988年登場の6代目マークII 3兄弟にオプション設定されたサイドウィンドウワイパー。ドアミラーではなくサイドウィンドウをクリアにすることで後方視界を確保しようとしたのは、日産に対する対抗心もあったのか。
しかもワイパーだけでなくウォッシャー液も噴射できる高い機能性を備えていた。残念ながらバブル絶頂期をもってしても後方視界にそこまでこだわるユーザーは少なく、1代限りで終わってしまった。
■スペアタイヤの空気圧もチェック
4輪のタイヤ空気圧を警告する装備は一般的になったが、回転中のタイヤではなく、スペアタイヤの空気圧を警告する装備は珍しい。ある意味、究極の予防安全装備だ
1981年に登場した6代目のR30型スカイラインには、スペアタイヤの空気圧低下を表示するスペアタイヤ警告灯が装備されていた。これはトランク内のスペアタイヤのタイヤバルブに空気圧モニターを接続し、エンジンがかかっているときに空気圧を測定するもの。
標準タイヤでは空気圧が約2kg/cm2以下になったとき、R30の5ドアHBで日本初採用となった応急用スペアタイヤでは約4.2kg/cm2以下になったときにルーフコンソールの警告灯が点灯するしくみだった。
まさに「転ばぬ先の杖」を体現する装備だが、そもそもスペアタイヤを使う機会自体がレアなので、ほぼ無用の長物だった。
■おしぼり冷温機
1980年代のハイソカーを代表する装備のひとつが、キャバレーのソファを彷彿とさせるワインレッドのフカフカなシート。それまでの日本車にはなかったゴージャスなインテリアはバブル時代を予見する雰囲気だった。
そんな良き時代の1987年に登場したY31型の日産セドリック/グロリアには、テレビ/ビデオデッキをはじめとするディーラーオプションが豊富に用意されていた。
なかでも全モデルに用意されたユニークなオプション品が「おしぼり冷温器」。これはシガーライターのDC12V電源を使ったボックス型の温冷蔵庫。リアのハットトレイには飲料向けのクールボックスが別途装備できたので、完全におしぼり用に特化した装備だった。
後席にボディコン姿の女性が座っていて、クルマに乗り込むと女性からおしぼりが手渡されるという使い方をイメージしていたのだろうか? まさにオトナの空間をさらにイケイケにさせる装備だ
■車内の乾燥を防ぐ加湿器
後席乗員の乾燥を防ぐために開発された日産の「モイスチャーコントロール」。その高い設計思想とは裏腹に、ホテルの部屋とは根本的に異なるクルマでの使用状況は考慮されなかったようだ
1980年代の日産の高級車には、後席のホスピタリティを充実させるオプション装備が豊富だった。なかでも特筆すべき装備が「モイスチャーコントロール」。
Y31型のセドリック/グロリアとシーマにメーカーオプションとして設定されていた後席向けの加湿器だ。
センターコンソール後端にピッタリ合うように設計されたこの装備は、内蔵された発振器により蒸気を発生させ、室内の乾燥を防ぐというもの。ガラスの曇りを防ぐために除湿するのが当たり前の車内空間において、真逆の価値観を提案するものだった。
■後席は天国、運転手は地獄のオットマンシート
後席に大切な方を乗せる機会の多いショーファーカーでは、後席乗員の快適性を第一に考えた設計が行われる。
日本を代表するショーファーカーのトヨタセンチュリーでは、後席左側に乗車する方のために、助手席のシートバック中央部を開いて足を伸ばすことができるオットマン機能付助手席シートが標準装備されていた。
同社のクラウンや日産のセドリック/グロリアにも見られたこの装備は、限られた室内空間で足を最大限に伸ばすことができるため、後席左側の乗員にとっては素晴らしい装備だった。
反面、運転手にとっては左側から足の臭いがプ~ンと臭ってくる状況だったのも事実。いくら仕事とはいえ、かなりブラックな環境だったことは想像に難くない。
助手席のシートバック中央部を開いて後席から足を伸ばせるつくりは、からくり技術のような素晴らしいアイデア。しかし、運転手のホスピタリティはまったく考慮されなかった
現行センチュリーのオットマン機能は、助手席が前方に移動してシートバックがオットマンになる方式に。シートバックが貫通しなくなったことは、運転手にとっても大きな朗報だったはずだ
このような日本ならではのおもてなしを体現したユニークな装備は、結果的に時代のあだ花となって姿を消してしまった。しかし、設計者の前のめりな思いが伝わるそれらの存在は、われわれのハートをいまだに熱くさせてくれる存在だ。
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みんなのコメント
この2台もアメリカへの輸出用ですから。