新モデルを電動化するだけでは不十分
ポルシェで合成燃料プロジェクトを率いるマルコス・マルケス氏は、内燃エンジンをこよなく愛している。経歴を振り返ると、アウディの5気筒ターボエンジンや、V型10気筒エンジンを積んだアウディR8などが含まれている。
【画像】ポルシェの合成燃料工場へ パナメーラ 4S E-ハイブリッド タイカンと911 ダカールも 全121枚
860ps以上を狙った、5.0L水平対向8気筒ツインターボにも関わったという。話題がずれるが、こちらにも興味が湧いてくる。
既にポルシェは、ドライバーズカーと呼べるバッテリーEV(BEV)で、開発競争のトップにいる。それでも、合成燃料へ積極的に関わる理由を彼にうかがった。
「それがポルシェの常です。問題解決のために努力し、居心地の良い場所に留まろうとはしません。燃料はこれまでのビジネスとは異なるため、強力なパートナーを探し、助けてもらっています。相手にとっても、技術に確証を持たせることへつながっています」
現在の地球上には、13億台の内燃エンジン車が既に走っている。近未来の新モデルを電動化するだけでは、環境保護に充分な量のCO2を削減できない。民間の航空機は、2022年だけでも1秒当たり1万8000Lの航空燃料を燃やして、空を飛び交っている。
合成燃料は、ジェットエンジンにも対応できる。993型の911 カレラでも使えることを、ポルシェは実証済みらしい。このプロジェクトは、努力するに値するものだと理解できるだろう。
水素とCO2と結合させメタノールを生成
ハルオニ工場の計画は2021年に発表され、2022年12月から本格稼働が始まった。ただし、トタルエナジーズ社のように有機物を利用したバイオエタノールなどではなく、風力が生み出す電気を利用して、液体の燃料を生成している。
電気で水を分解し、水素を取り出しCO2と結合させる。その結果、eメタノール(CH4O)と呼ばれる合成燃料が生み出される。これは原油に相当し、エクソンモービルの工場で水素化処理と精製過程を経て、内燃エンジンで使える燃料になる。
オクタン価は、100RON以上も可能だという。2023年には、ハルオニ工場で作られた合成燃料が、ポルシェのワンメイク・スーパーカップ・レースで使用される計画にある。
1回のレースで平均5000Lを消費するそうだが、工場の生産能力は年間13万L。充分まかなえるようだ。
再生エネルギーで生み出された電気を遠くまで送電することは、コストが掛かり効率も悪い。だが風の強い辺境の地で作られた、エネルギー密度が高い液体燃料は輸送が容易。合成燃料のプロジェクトは、他の地域でも計画が進められている。
2026年には、オーストラリアのタスマニア島でもHIF社の工場が稼働する。ここでは風力と太陽光を用いて発電し、年間1億Lの供給が目指されている。チリにも別の工場が計画している。
アメリカ・テキサス州では、ひと足先に2024年に稼働へ移る。年間7億5000万Lの生産能力を備えるというが、こちらの電力は原子力発電が担うとのこと。
供給量は不充分 製造過程にも課題
果たしてこれから先も、罪悪感を抱かずにレブリミッターまでエンジンを回すことが許されるのだろうか。叶うなら素晴らしいが、まだ道筋は盤石とはいえない。
HIF社の全工場がフル稼働を始めても、作られる合成燃料は年間で10億Lにも届かない。グレートブリテン島を走るクルマだけでも、年間460億Lのガソリンや軽油を燃やしている。他社の計画を合わせても、現在の消費量に匹敵する生産は難しい。
合成燃料の製造過程にも課題がある。今のところ、BEVに充電して1kmを走れる電気より、内燃エンジン車が1kmを走れる合成燃料を作る方が、電気の消費量は大きいのだ。
また、地球規模では違ったとしても、輸入された合成燃料を燃やせば、国で排出されるCO2の量は減らない。少なくとも、一般的なクルマがBEVへ転換していく大きな流れは変わらないだろう。
HIF社の合成燃料は、駆動用バッテリーでは対応できない輸送機械で利用される可能性が高い。航空機や大型の船舶など。
既存の内燃エンジン車に対しては、主要な石油メーカーが購入し、ガソリンなどにブレンドされることになるはず。ポルシェ自身も、合成燃料をユーザーへ提供する戦略は今のところ立てていない。
先述のカップカー・レースや、エクスペリエンス・センターなどで利用されるようだ。イメージの旗振り役として。
とはいえ、筆者が運転するパナメーラでは合成燃料が燃えている。ハルオニの工場で1度給油し、壮大なトーレ・デル・パイネ国立公園を目指す。
特別な燃料で走っていることを感じさせない
右足へ力を込めれば、システム総合で559psというパワーが放たれる。それを受け止めるのは、オールシーズンタイヤ。実質的にCO2を排出していないという事実が、運転する気持ちへ更なる充足感を与える。
BEVだとしても、その電気は石炭やガスが生み出している可能性はある。原発はリスクが大きい。再生可能エネルギーで作られた合成燃料は、まったく違う。
舗装されたばかりの峠道からそれ、なだらかに広がるグラベルへ進む。エアサスペンションで車高を持ち上げ、パナメーラは豪快に水しぶきを上げる。V6ツインターボエンジンは、特別な燃料を燃やしていることを実感させない。
オクタン価97RONの合成燃料でも、3.0Lユニットは滑らかに吹け上がる。サウンドもレスポンスも、筆者が以前から知っている通り。垂涎の911 ダカールでも同様だろう。
泥まみれになりながら、パナメーラのウォッシャータンクの大きさには驚いた。フロントガラスへ何度も吹き付けても、空にはならない。光沢のあるチェリーメタリックの塗装は、マット仕上げのパタゴニア・カラーになってしまったが。
合成燃料は魅力的だが、楽観的になることはまだ難しい。とはいえ再生可能エネルギーで生産され、ポルシェで機能することが確かめられたことは、大きな朗報といえるかもしれない。内燃エンジンへ、僅かだとしても、可能性をもたらすことは間違いない。
ポルシェ・パナメーラ 4S E-ハイブリッド(欧州仕様)のスペック
英国価格:10万5300ポンド(約1695万円)
全長:5049mm
全幅:1937mm
全高:1423mm
最高速度:297km/h
0-100km/h加速:3.7秒
燃費:35.7-45.5km/L
CO2排出量:50-64g/km
車両重量:2225kg
パワートレイン:V型6気筒2894ccツイン・ターボチャージャー+電気モーター
使用燃料:ガソリン
駆動用バッテリー:17.9kWh
航続距離:54km
最高出力:559ps(システム総合)
最大トルク:76.3kg-m(システム総合)
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック
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