加速性能を数値化した、指標となる基準値 ウエイト(車重)÷ パワー(馬力)の比率
いくらパワーがあっても車重が重ければ、物理の法則で当然ながら加速性能は鈍る。荷物を上に引き上げるときを想像して欲しい。軽い荷物なら、ヒョイと余裕で持ち上がるが、何から何まで詰め込んだ海外旅行サイズのキャリイバッグを持ち上げようものなら、「オリャー」と思わず声が出るぐらいの腕力が必要になる。腕力が同じであれば軽いほうが荷物を素早く移動させることができる。逆に、重量が同じなら、腕力があった方が素早く荷物を移動させられる。この重量とパワーの関係を数値化し、指標にしているのが、パワーウエイトレシオである。数式は、ウエイト÷パワーになる。単位はkg/ps。
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●パワーウェイトレシオはどう見る?
パワーウェイトレシオが「3」とか「8」とか言われても、数字だけ見たところでそれがスゴイのがどうかがなかなか分からないってもの。見方を超カンタンに説明すると、パワーウェイトレシオが小さいほど、加速性能に優れていることを意味する。
極端な例にはなるが、重量が1トン=1000kgのレーシングカーが1000馬力あれば1000kg÷1000psで、パワーウェイトレシオは「1」になる。一方、軽ハイトワゴンや軽トールワゴンと呼ばれる、ファミリー層にダントツの人気を誇る、N-BOX、タント、スペーシアあたりも重量がちょうど1000kg。軽自動車の自主規制馬力が64psとして数式に当てはめると1000kg÷64psで、パワーウェイトレシオは「15.6」。
このように、数式に当てはめて計算される数字を比較して、「タントより15倍も速く加速するんだ~」のように「あーだこーだ」言いながら一喜一憂するのが、パワーウェイトレシオの楽しみ方になっている。ただあくまでも指標(基準)であることはお忘れなく。エンジンの出力特性やギア比によっても、加速性能は大きく左右されるからだ。
と言いつつも、実際のハナシとして、パワーウェイトレシオにこだわったクルマがあるのも事実。パワーウェイトレシオの話題になると登場するのが、スウェーデンの自動車メーカー、ケーニグセグがつくる「アゲーラ One:1」。
世界最速を目指してつくられたスーパーカー(ケーニグセグは、メガカーと呼んでいる)で、2014年~2015年にかけてプロトタイプを含む7台が製作された市販車。最高出力は1360ps(1メガワット)、車体の重量は1360kg。パワーウェイトレシオはキレイに1:1。One:1というネーミングの由来は、まさにパワーウェイトレシオと1メガワットというわけだ。
●パワーウェイトレシオをいろいろ見ていこう
アゲーラOne:1のパワーウェイトレシオが「1」であることをサラリと流してしまったが、「これはまさに夢のような数字であり、合法的にそして実用的に公道を走行出来る車両としては不可能とされていた数値」とアピールするケーニグセグ。2015年当時は各地のサーキットで市販車の最速タイムを更新。最高速は450km/h、新車価格は200万ポンド(2億8000万円)。まずはパワーウェイトレシオ「1」とは、実現不可能に近い数値であることを頭に入れておいていただきたい。
ちなみにF1マシンはサーキット専用マシンなので、当然ながらパワーウェイトレシオはケーニグセグを超える「1」以下。2020年のレギュレーションで最低重量が746kgと定められており、1.6リッターのターボエンジンの瞬間最大出力は推定で1000psを超えていると言われている。従って、パワーウェイトレシオを相当甘く見積もっても「0.8」以下だと言える。
F1マシンの重量 746kgと言えば、それに近いのがニッポンの軽自動車。現行の軽スポーツカーのくくりのなかで最軽量はアルトワークスだ。FF&5MTなら車重670kgでパワーが64ps。パワーウェイトレシオは「10.4」となる。ちなみに、現行のタントカスタムRS(FF)は、車重が920kgで、パワーが64ps。パワーウェイトレシオは「14.3」になる。
軽自動車と言えば、文字通り軽いのが特徴。純正パワーでの比較は、すべて自主規制の64psで車重を割ることになるので、アルトワークス~タントカスタムRSの範囲におさまるのだか、チューニングでパワーを高めていくと、パワーウェイトレシオが一気に変化するので、とても面白い。このあたりのお話は最後のパートでもう一度。
【おもなスポーツカー+α PWR一覧】※編集部調べ、少数点2位以下切り捨て
●軽自動車による「PWR下克上」
一覧をご覧いただくと、F1 がパワーウェイトレシオ「1」以下、「~億円」まではいかないが素敵なマンションが買えそうなクラスのスーパーカーが「2」、国産のハイパワースポーツカーが「3」、庶民にもまだギリギリ手が届きそうなスポーツカーが「5」「6」あたり、軽スポーツが「10」といったところだ。
そう見ていくと、国産のハイパワースポーツカーがパワーウェイトレシオ「3」あたりをターゲットにしているし、ストリートでも実用的で扱いやすさを考慮すると、「3」~「5」付近であることが見えてくる。ル・マンをはじめとして、あれだけ世界中のレースで大活躍しているポルシェが、パワーウェイトレシオ「1」や「2」のモデルがないのもおもしろい傾向。やはり「3」なのだ。モノゴトにはバランスが大事ということであろう。
さて、本題の軽自動車。少なからず軽自動車のチューニングファンはいる。彼らがパワーアップにハマる理由は、まさにパワーウェイトレシオ。軽いがゆえにパワーを上げていけば、世界の名だたるスーパーカーにパワーウェイトレシオが肉迫していくのだ。安い軽自動車だが、何千万円もする高性能スポーツカーと変わらない加速性能を手に入れることが可能である。 実際にコペン専門店「も。ファク」のタイムアタック号のパワーウェイトレシオはアヴェンタドールにだって手が届きそうな勢いだし、アルトワークスで最速のネギくん(愛知県)のマシンは、GRヤリスを上まわるパワーウェイトレシオになっている
「も。ファク コペン」は重量約730kgで、NOS(NX)を使って瞬間最大出力は約280psを発生。パワーウェイトレシオは「2.6」。
「ネギ アルトワークス」は重量は徹底的に軽量化が図られ約610kgで、約140ps。パワーウェイトレシオは「4.3」。
純正では自主規制馬力の64psを上限としているが、エンジンパワーを上げることで、スーパーカーを運転しているのと同じ、非日常が味わえるのだ。たかが軽自動車、されど軽自動車。チューニングの魅力をパワーウェイトレシオが証明してくれる。
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