■影に隠れた存在だった珍車を振り返る
一般的に新型車の開発には、数百億円から1000億円規模の莫大な費用がかかるといわれています。そのため各メーカーとも、市場規模をリサーチして販売目標を設定し、開発費の回収と黒字化を目指します。
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この販売目標を大きく上まわることができればヒット作といえますが、すべての新型車が目標をクリアできるとは限りません。
そこで、販売が成功したとはいえず、あえなく珍車の仲間入りを果たしたクルマを、5車種ピックアップして紹介します。
●スズキ「SX4セダン」
スズキの現行ラインナップにはクロスオーバーSUVの「SX4 S-CROSS(エスクロス)」がありますが、その前身となったモデルが「SX4」です。
SX4は2006年に発売されたコンパクトSUVで、欧州や北米でも販売するグローバルカーとして開発されました。このSX4をベースに、派生車として2007年に「SX4セダン」を発売。
ショートワゴンタイプのSUVとセダンを同時にラインナップする事例は非常に珍しいですが、SX4の欧州テイストのデザインを生かしたセダンに仕立てられていました。
SX4セダンは、広い室内空間とクラストップレベルとなる515リッターの大容量トランクルームが特徴的な、優れたユーティリティを持つモデルです。
エンジンは1.5リッター直列4気筒で、組み合わされるトランスミッションは4速ATのみ。駆動方式はSX4という名を冠していながらもFFの2WDのみだったため、ベース車とは完全に異なるコンセプトとなっています。
2014年まで販売されましたが次世代のSX4 S-CROSSではセダンが設定されず、一代限りで消滅してしまいました。現在は中古車市場でも滅多に流通しない、レアな1台です。
●ホンダ「インテグラSJ」
ホンダはかつて販売チャネルを「プリモ店」「クリオ店」「ベルノ店」と、3つ展開していました。
プリモ店では「シビック」が主力で、クリオ店では「アコード」、ベルノ店では「プレリュード」や「NSX」といったスポーティなモデルを中心に販売していて、「インテグラ」もベルノ店で扱っていたモデルです。
インテグラといえば、「タイプR」に代表されるスポーティなコンセプトのモデルとして、人気を博してきましたが、1996年に発売されたセダンの「インテグラSJ」は、それとは対極にあるようなモデルでした。
インテグラSJは同時期に販売されていた「シビックフェリオ」のシャシをベースとし、ボディパネルの多くもシビックフェリオから流用して生産されました。
さらにフロントマスクは、ステーションワゴンの「オルティア」から流用するなど、かなりのコスト削減策がとられています。
エンジンは1.5リッター直列4気筒のみで、バルブ駆動にVTECとスタンダードなSOHCの2種類をラインナップ。トランスミッションは5速MTとCVT、4速ATが設定されました。
インテグラSJのコンセプトは「フォーマルなセダン」でしたが、内外装から高級感を感じ取れることもなく、実際は、ベルノ店が販売するラインナップの隙間を埋める目的でつくられました。
しかし、シビックフェリオと比べて存在感はなく販売は低迷し、2001年に販売を終了。現在、インテグラSJは稀代の珍車として君臨しています。
●日産「マーチBOX」
1982年に発売された日産初代「マーチ」は、グローバルで販売することを念頭に置いて開発された、新世代のFFコンパクトカーです。
初代は当時としては異例の10年間販売されたロングセラーとなり、1992年に2代目が登場。3ドアハッチバックと5ドアハッチバックに加えカブリオレが設定されるなど、ボディバリエーションを拡充。
そして1999年には派生車として、ステーションワゴンボディの「マーチBOX」が発売されました。
マーチBOXはスタンダードな5ドアのマーチをベースとし、ホイールベースは変わらず、ステーションワゴンに仕立てるために荷室部分を240mm延長しています。
さらに全高も25mm高くすることで広い室内空間を確保するとともに、ステーションワゴンらしく荷室も広くなっており、使い勝手を向上。
また、マーチBOX専用に、折りたたんだリアシートと荷室の段差を無くすため「ダブルフォールディングシート機構」を採用しています。
搭載されたエンジンはベース車と同じ1リッターと1.3リッターの直列4気筒で、トランスミッションは1リッター車が4速AT、1.3リッター車がCVTです。
マーチBOXは優れたユーティリティを持つコンパクトステーションワゴンでしたが、ヒットすることなく3代目マーチの登場とともに2002年で生産を終了。
現在、中古車市場ではわずかな台数が流通しており、比較的安価な価格で取り引きされています。
■あのトヨタにも実は珍車がある!?
●トヨタ「キャバリエ」
1970年代から1980年代にかけて、日米間で大いに問題となったのが貿易摩擦です。とくに自動車と家電については日本から大量に輸出されていたため、貿易摩擦の象徴的な製品として挙げられます。
その解消に向けて、国産自動車メーカーは北米で現地生産を開始しましたが、完全に解消したわけではありません。
そこでトヨタは、1996年に「キャバリエ」を日本で発売。GMのシボレー「キャバリエ」をトヨタが輸入し、トヨタブランドで販売するという「日米産業協力プロジェクト」の一貫で誕生したモデルです。
日本で販売するにあたっては、右ハンドル化やウインカーレバーの移設、灯火類など細かく改良され、エンブレムも「トヨタ」に変更されています。
ボディは2ドアクーペと4ドアセダンが設定され、サイズは全長4595mm×全幅1735mm×全高1395mm(セダン)とアメリカ車ながらも国産ミドルクラスと同等でした。
搭載されたエンジンは150馬力を発揮する2.4リッター直列4気筒で、燃費は9.8km/L(10・15モード)と、スペック的には標準的といえます。
当時、アコードワゴンやシビッククーペなど、北米で生産されたモデルを日本へ輸入するのは一定の成果を収めていました。
しかし、キャバリエは181万円(消費税含まず)からと安価な価格設定でもヒットすることなく、2000年に輸入が打ち切られ、販売を終了。
現在はごくわずかですが中古車が流通しており、かなり安価です。人とは違うクルマを探している人にはアリではないでしょうか。
●スバル「インプレッサ SRX」
1992年に発売されたスバル初代「インプレッサ」は、新世代のコンパクトセダン/ステーションワゴンとして開発されたモデルです。
ハイパワーなエンジンとフルタイム4WDを組み合わせた「WRX」が世界ラリー選手権で活躍したことで、スバルのブランドイメージ向上にも貢献。
また、WRX以外にも1.5リッターから2リッターエンジンを搭載したベーシックなモデルがラインナップされ、スポーツドライビングを好むユーザーだけでなく、幅広い層からも支持されました。
そして、1998年には自然吸気エンジンを搭載したスポーティなフルタイム4WD車、「インプレッサ SRX」を追加ラインナップ。
エンジンは155馬力を発揮する2リッター水平対向4気筒DOHCで、可変バルブタイミング機構と可変吸気システムを装備することで低回転域のトルクの増大が図られ、トランスミッションは5速MTと4速ATを設定。
足まわりには、フロントブレーキに2ポットキャリパーと15インチベンチレーテッドディスクが装備され、前後サスペンションにスタビライザーを採用するなど、高い運動性能を実現しています。
また、MOMO製本革巻ステアリングやホワイトメーター、専用のスポーツシートが装備されるなど、内装をスポーティに演出。
高いシャシ性能を誇りながら、アンダーパワーなエンジンという組み合わせは、かつての英国製スポーツカーを彷彿とさせ、SRXの価格はWRXよりも60万円も安価に設定されていましたが、残念ながらヒット作にはなりませんでした。
なお、第2世代のインプレッサにも「WRX NA」というスポーティな自然吸気エンジン車がラインナップされましたが、やはり人気グレードにはなりませんでした。
※ ※ ※
最後に紹介したインプレッサ SRXのような、シャシ性能がエンジン性能を上まわるクルマは、運転すると楽しいものです。
それとは逆に、エンジン性能ばかりが突出してしまうと、危険なクルマとなってしまいます。昭和の頃に誕生したターボ車がまさにそれで、ドライバーの腕がないと速く走ることはできませんでした。
いまでは、エンジン性能がシャシ性能を上まわるようなクルマはほとんどありませんが、それほど自動車の技術が成熟したということでしょう。
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