この記事をまとめると
■スバルがクロストレックS:HEV用のトランスミッション工場を稼働
確かにトヨタの技術を使っているが……スバルの独自性たっぷりだった! 待望のクロストレックS:HEVに搭載されるストロングハイブリッドシステムを詳しく解説!!
■埼玉県北本市にあった富士重工業の汎用エンジン「ロビン」ブランドの生産工場を再建した
■働きやすい環境になるよう人に配慮されており年間18万基以上製造できるキャパをもつ
スバルがトランスアクスル専用工場を稼働
スバルが、クロストレックにe-BOXERストロングハイブリッドを新設定したのは、ご存じのとおり。その走りっぷりやボクサーエンジン(水平対向エンジン)に合わせた専用設計などについては既報のとおりだが、スバルがストロングハイブリッドに本気なのは生産の面からも明らかだ。
今回、スバルがストロングハイブリッド用トランスアクスルを製造する群馬製作所・北本工場(埼玉県)を訪れ、その生産風景を取材することができたので報告しよう。
さて、トランスアクスルというのは変速装置(トランスミッション)とデファレンシャルギヤが一体となった部品を指す用語で、FWD車においてはトランスミッションとトランスアクスルは同義語となっている。シンメトリカルAWDがアイデンティティのひとつであるスバル車も、その基本はFWDであるため、エンジン車であってもトランスアクスルを搭載し続けているという見方もできる。
スバル車の特徴は、ボクサーエンジンを縦置きにしていることだ。トランスアクスルはエンジンからの出力を変速して、トランスアクスル前方下に置かれたデファレンシャルから左右の前輪に駆動力を伝えている。さらに、トランスアクスル後端につながったプロペラシャフトを通じて、リヤのデファレンシャルに駆動力を伝えることで、AWDを成立させているというのが基本的な構成であり、これは他社のFWDモデルではほとんど採用例のない設計となっている。
つまり、スバル車のトランスアクスルはほかには類のない構造であり、ボクサーエンジンに合わせたトランスアクスルも自社で生産する必要性が出てくる。そのためエンジン車のトランスアクスル(トランスミッション)は群馬製作所・大泉工場(群馬県)において生産される……というのが、これまでの“常識”だった。
しかし、ストロングハイブリッドのトランスアクスルを生産しているのは大泉工場ではなく、北本工場なのだという。同工場のルーツは、富士重工業の汎用エンジン「ロビン」ブランドの生産工場であり、汎用エンジン事業から撤退したあとは、物流センター的に活用されていたという場所だ。
筆者個人としては、ストロングハイブリッドのトランスアクスルは少量生産のため大泉工場の量産ラインとは別にこじんまりした生産設備を北本工場にしたのではと想像していたが、実際に訪れた北本工場はまったく違う様相を呈していた。
2階建ての建屋内部には、真新しい機械が並べられ、ケースの加工から、モーターを含めたトランスアクスルの組み立て、そして検査までを一貫して行う最新のトランスアクスル工場に仕上がっていたのだ。
聞けば、ロビン・ブランドの汎用エンジンを生産していた時代とは、人も機械も入れ替っているという。実質的に、ストロングハイブリッドのトランスアクスルを生産するために新工場を立ち上げたというほど力が入っているのが北本工場なのである。
いままでの工場のイメージを脱する働きやすい労働環境へ
北本工場の生産体制におけるポイントのひとつに「品質向上に向け“カンコツ”作業を低減する」がある。カンコツというのはベテランの職人技のこと。ともすれば、庶民感覚では匠による神業のような作業をありがたがったしまいがちだが、大量生産において品質を安定させるためにはカンコツに頼っているわけにはいかない。
そのため、北本工場では機械・ロボットによるオートメーション化が進んでいる。たとえば、ストロングの駆動用モーターは、ステーターやコイルといった主要パーツをケースに入れて組み立てているが、その際に大事なのはセンター位置を合わせること。非常に薄肉のケース内いっぱいにパーツが入るため、かなりの精度が必要になる。こうした作業は、すべて機械化され、熟練工の技に頼らずに、安定した製造ができるようになっている。
また、最終の検査工程ではトランスアクスルを外から動かしたときに発生するノイズをマイクで拾い、わずかな周波数の違いをAIが判定して成否判定をするという最新技術も採用されている。これもまた、熟練の技に頼らず、品質を向上させるために開発された手法だ。
なにしろ、北本工場のストロングハイブリッドのトランスアクスル生産目標は年間18万6000基となっている。最新鋭の生産設備をみればわかるように、スバルの電動化を支えるキーとなっているのだ。そして、ここ北本工場で培われた生産技術が、大泉工場に水平展開されているのだという。
オートメーション化が進んでいるとはいっても、まだまだ多くの人員が必要なのは事実。簡潔にいえば、「働く人がいなくては、工場は動かせない」のだ。新時代のストロングハイブリッド用トランスアクスルを生産する北本工場では、働き方改革も進めている。
作業負荷や勤務体系などで子育て世代やシニアが働きやすい環境にしているほか、納品された部品の荷下ろしは北本工場サイドのスタッフが行う(一般的にはトラックドライバーが担当することが多い)など、外部の人材にもやさしいホワイトな環境としているという。それもこれも、人財の確保のためであり、安定して18万6000基のストロングハイブリッド用トランスアクスルを生産するためだ。
ちなみに、スバル全体としての車両生産台数はグローバルの年間で約96万台。現状の数値で単純計算すると、5台に1台のスバル車がストロングハイブリッドになるというほどの規模で北本工場は立ち上げられたというわけだ。最新鋭のファクトリーに仕上げられているのも当然だ。
ところで、北本市といえば、縄文時代に関東最大級のムラ(集落)の遺跡が発掘されるなど、数万年前から人の営みが続いてきた地域としても知られている。
電動化時代において、スバルの過去と未来をつなぐ「ボクサーエンジンのストロングハイブリッド用トランスアクスル」を生産するにはぴったりの地というのも、単なる偶然ではなさそうだ。
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みんなのコメント
水平対向エンジン車は、ほぼみんなこれになる。
スバルの場合はそれが弱点なんだからそこを改革しないと
リアにトランスミッションを置いてのトランスアクスル構造でのTHS採用なら良かったのに
そうすればエンジンを後退して搭載できるし、お得意のAWDはフロントモーター駆動にすればいい
現状のフロント車軸の更に前にエンジンを置く構造を踏襲ではどうにもならん