前後タイヤ軸の間にエンジンを配置するレイアウトを示す
クルマのエンジン搭載位置と駆動輪のレイアウトをアルファベットで示すことがある。FFといえば、フロントエンジン・フロントドライブ(前輪駆動)であるし、FRはフロントエンジン・リヤドライブ(後輪駆動)を意味する。そのほかRRといえばリヤエンジン・リヤドライブで、MRというのがミッドシップエンジン・リヤドライブの略称だ。
これらはすべて二輪駆動の呼び名で、そのレイアウトをベースとした四輪駆動も存在するが、今回のテーマであるエンジン搭載位置の基準というのは何であろうか?
基本的には車軸に対する位置関係で「フロント」「ミッドシップ」「リヤ」といった搭載位置を区別している。
たとえば前軸より前にエンジンを積んでいればフロントエンジンということになるが、縦置きの場合などではエンジン全体が車軸よりも内側に置かれていることもある。その場合は「フロント・ミッドシップ」と呼ぶこともある。
ちなみに、セミキャブオーバースタイルの軽トラックなどはフロント・ミッドシップのレイアウトを採用しており、スポーツカーだけの専売特許というわけではない。同じようにRRといえばポルシェ911を思い浮かべる人がほとんどだろうが、路線バスなどではポピュラーなレイアウトで、けっしてスポーツカー専用というわけではない。
しかし、MRとなると話は別だ。前後タイヤ軸の間で、なおかつキャビン(居住スペース)の後方にエンジンを配置するミッドシップ・リヤドライブのレイアウトは、運動性能を最優先したモデルに採用されるケースが圧倒的に多い。過去に遡ると、初代トヨタ・エスティマや1998年にデビューしたホンダZのような意欲的なモデルにおいて床下MRを採用した例はあるが、ほぼスポーツカー専用といっていいのがMRレイアウトなのだ。それは運動性能で有利だからにほかならない。
現代ではMRの優位性が少なくなっている
では、なぜゆえミッドシップが運動性能に有利なのかといえば、エンジンという重量物を車体中央部に近づけて載せている点にある。
フロントエンジンにしても、リヤエンジンにしても、コーナリング時にはそれぞれエンジンの重量が慣性として大きく影響する(重い部分に大きな遠心力が発生する)が、ミッドシップ(車体中央)に積んでいれば、そうした影響を抑えることができるのだ。
これは、エンジンパワーを大排気量で求めるしかなかった時代には非常に重要で、大排気量で重い大パワーエンジンを積むスポーツカーで旋回性能を両立させるには、最適なレイアウトといえた。
ただし、スポーツカーもダウンサイジングが進み、軽くてパワーの出せる過給エンジンが増えているなかでは、そうしたアドバンテージは決して絶対的なものではない。
現在の市販ミッドシップ・レイアウト車にはエンジン横置きと縦置きの二種類があるが、横置きでは重心高が上がってしまうし、縦置きではエンジンと同等の重量物であるトランスミッションがリヤ・オーバーハングに置かれてしまい慣性を増やす傾向にある。
そう考えていくと、スーパーGT500マシンなどが採用しているフロント・ミッドシップにエンジンを積み、変速機とディファレンシャルを一体化したトランスアクスルをリヤの車体中央に寄せて配置するFRレイアウトが市販スポーツカーとしての居住性と重量配分を両立させるには有利といえる面もある。
スーパーカーを示す記号としてのミッドシップの価値は強いが、パフォーマンスだけでいえば、絶対的なアドバンテージがあるとはいえないのが現在の状況だ。
(文:山本晋也)
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